出会い
——真っ暗闇の中、ケントはポツンと立っている。
「ここは……」
鏡も何も無いものだから、本当に実体があるのかは、分からない。
「確か…あのゴブリンを庇って死んだような…」
「いーや、まだ死にかけや」
何処からか関西弁っぽい訛りの声が聞こえた。
ケントは辺りを見回す。
すると、ケントの背後からケントにそっくりな青年が現れた。
「誰だ?」
「誰だときたか……ワイはドラコ。ドラゴンのドラコや」
「そのまんまじゃねぇか」
「失礼なやっちゃなぁ。シンプルでええやん」
「いや、そうは……てか思った事がバレてる?」
「せや、ここは、お前の心ん中や。お前が考えた事は全部、ワイに伝わっとる」
全くピンと来ない。
心の中だって?
「てか、この状況知ってるぞ。なんだっけ、これ…ド、ド…ドーベルマン?」
「犬ちゃうわ。それをゆうならドッペルゲンガーや。てかどこがドッペルゲンガーやねん。この状況の事言わんねん」
ケントそっくりの青年はため息をついて肩をすくめる。
「分かってないんやな。端的に言うとお前は今、生死を彷徨っているんや」
「彷徨ってるって事は…俺はまだ生きてるのか?」
「半分な。でもワイに身体貸したら生き返らせちゃる。強大な力もつけて……な」
ニヤリと姑息な笑みを浮かべる青年。
「身体を……貸す?どこの誰かも分からない奴に?」
疑いをかけるケントとそれを鼻で笑うもう一人のケント。
「何や、とっくに自己紹介は終わったやろ 。さぁ、早くお前の身体を……」
「いや…アレを自己紹介って言われても、本当にドラゴンなのかどうか分からないだろ……」
「そんなワイをジロジロ見たいんか。え?まさか一種の変態かなんかか?」
「何言ってんのお前」
ドラコは小さく舌打ちをしながらも、くるんと宙返りをする。
するとケントに似た人間の姿から、なんと小さな羽の生えた赤いトカゲの姿になったではないか。
「どや。 貸す気になったか」
小さな羽をパタパタ羽ばたかせながらふんぞりかえっている。
何というか……
「ちんちくりんだ」
「ウォォイ!!誰がちんちくりんや!!」
赤いトカゲ——いや、小さなドラゴンが吠える。
「だ〜クソ!!こんなボロクソ言われるんならかっこよく登場せんかったら良かった!もうええ。10分や、10分だけワイを信じて身体を貸せ!細かい話は全部後や!」
ムカデのモンスターは依然として暴れまわっている。
熱い道路の上で一つ、肩肉を抉られた人間が転がっている。
目は半開きのまま、血液で白いシャツが肩の傷口からべっとり赤く染まっていた。
太陽が赤黒くなった血溜まりを燦々と照らす。
大ムカデがその肉を喰らう為に這い寄る。
その瞬間、大ムカデの左右の大牙が何かに掴まれた。
牙を握っている力が強いせいでムカデは身動きが取れていない。
「テメェには……感謝せぇへんとなァ……」
さっきまで死んでいたはずの血塗れの人間が徐々に身体を起こしていく。
「せっかくの良心や。この恩を無駄にはできへんなァ!!」
ケントはムカデの大牙を掴んだまま身体を後ろへ捻る。
4mもあるムカデの巨体がいとも軽々しく投げられ、アスファルトに強く打ちつけられる。
ケントはその隙を逃さず、半回転し、脚力で垂直に高く飛びあがる。
「喰らえぇぇ!!!」
ただの踵落としが無防備になったムカデの頭部目掛けて落ちてくる。
重力加速を掛け合わせた一撃は、ムカデに断末魔を上げさせる暇もなく、簡単に頭部を粉々に砕いた。
「肩の傷のお返しや」
ケントはムカデの死骸を背に向けて、その場を去ろうと足を動かす。
だが、
ドサッ……
足が空振り、そのまま地面に倒れてしまった。
多分ドラコがエネルギーを使いすぎたのだ。
意識はあるのに身体だけが動かない。
「大丈夫ですか!」
さっきのゴブリンに、助けられる。
「あ、あぁ。ごめんなさい。力が出なくて」
「どこか病院に連れていった方が……」
ぐぎゅるるる〜〜〜
盛大に、間抜けな音が鳴ってしまった。
「あ、なんか…すいません」
あまりにも恥ずかしい。
しかしゴブリンは気にせずに(クスリと笑っていたが)、自分より大きい筈のケントの身体を担ぎ上げる。
「あ、ありがとうございます…」
「なにを。君は私を助けてくれたヒーローだ。君には感謝しないといけない」