眩ゆい夜を越えて
盛る煉獄の中、生まれしは灼熱の緋竜。
鱗を燃やし、軀を溶岩に潜らせ、誕生を告げる咆哮が虚無の空にこだまする。
一つ翼を広げると燃える鱗を滾らせ太陽の様に輝き、一つ息を吐くと豪炎が逆巻く。
其は遥か古代から最強無敵と謳われた存在だった。
故に其はずっと孤独だった。
*
ふと、夢を見た。
さんさんと太陽が輝く大空の下、野原には知らない綺麗な花が、一面に咲いていた。
その花畑の上に可憐な少女がいた。
ぼやけた視界の中なのに、少女の姿はくっきりと見ることができている。
何かを叫んでいる。
「…!……!」
しかし、声はノイズに遮られ何を言っているのか分からない。
なぜだろう。
こんなにも彼女が近くにいるのに遠くにいるように感じてしまう。
遥か彼方、手も届かないような所に行ってしまう……
そんな気がした。
「……!…!」
少女はこちらを振り向いて手を振っている。
(戻って……帰ってきて)
必死に言葉を出そうにも、うなり声しか出ない。
「…!」
少し悲しそうな少女の表情。
心がジクリと痛んだ。
だんだんと少女の姿が薄らいでいく。
どうすることもできないもどかしさに、ただただ長嘯した。
いつまでもいつまでも。
そこで夢は途切れた。
*
ピピピピピ……
朝、何気なく目が覚めるとケントは得体の知れない虚無感に襲われていた。
デジタル時計を見ると、朝の8時。
今日は特に何もする気は無かった。
右で、すやすや寝ているピンク頭の少女を見るまでは。
百合谷アンリである。
「……」
寝息をたてながら、ローブを毛布の代わりにして寝ている。
少女は全裸だった。
いや、まだ下着は着ていた。
下の方の下着は。
「おぉう……」
相まみえるのは二つの大きな禁断の果実。
とても、朝っぱらから見るものではない。
理性が爆発してしまいそうだった。
そういえば、いつものローブの姿の彼女しか見ていなかった気がする。私服は無いのか。今度一緒に買いに行こうかな。
そして、一番に浮かばないといけなかったであろう疑問が彼のまだ覚めていない頭の中に浮上する。
「……なんでいるんだ?」
周りを確認してみる。
確かにここはケントの家だ。
一体、何をどうすれば女の子を家に上げて忘れる事が出来るのか。
咄嗟に昨日の事を振り返る。
あれは、歌舞伎町を出て直後のこと。
——「帰る場所がないの…」
——「あ、マジ?」
——「そう。だから…泊めてください」
——「あ、そうなんだ。全然いいよ!!」
「うわぁ…」
ケントは顔に手を当てて、自分の行動に
二つ返事で答えたのは自分ではないか。
というか、女子を家に連れてくるのも初めてでは?
急に顔が真っ赤になってしまう。
ふと思えば、歌舞伎町での一件から今まで、彼女とは何も無かった。
そう、なんにも。
”何かシろ”という事だろう。
なおざりにしてきたツケでも回ってきたのか。
そもそもそんなに関ってないぞ。
神様がいるなら怨んでやりたい。
怨んだところで何も起きないが。
ケントは大きなあくびを一つ上げて、台所へと向かった。
「飯、つくろ」
*
東京の夏は暑い。
それでも、一日の中で朝は涼しい方に入る。
ケントは棚から小さな鍋を取り出してそこに水を入れる。
水の張った鍋をコンロに置き、火にかけた。
カチッ、チチチ…
(そういえば、ドラコがいてくれればガス代浮いたよな)
そう思ってドラコの全体像が浮かべて、やめた。
もう、ドラコはいない。ケントの身体の一部になったのだ。
そんな事を考えて、あくびをしながら胸板をポリポリ掻く。
「……ん?」
ふと、胸にできた違和感に気づいた。
右側に“できもの”ができている。
シャツの中から覗いてみると、小さな赤い突起が見えた。
「んん?」
指でそれを動かしてみる。まるで砂場の旗みたいに簡単に動かすことが出来た。
今度は指で突起をつまんでみせる。なんと、その突起が、スルスルと身体の中から抜けようとしているではないか。
しかも、根元が大きい。
ケントは勢いよくその赤い突起を引っこ抜いた。
きゅぽん。
間抜けな音と共に《《小さな赤いトカゲ》》が抜けた。
「ぎゃめっ!!」
無造作に落とされ小さく悲鳴をあげるソレは、
ドラコだった。
「ってぇ〜…ん?何やケント。んなアホな顔して。コッチがしたいわ」
小さな羽をパタパタさせながらぽかんとしているケントの顔を見る。
「ド、ドラコ…?」
「せやけど…何や?」
「死んだ筈じゃ…?」
「勝手にワイを殺すなボケ」
尻尾の往復ビンタが唖然としていたケントの頬にペチペチ当たる。
「え、でも……ってアレ?俺が生きてる方がおかしいのか?」
そこまで言って、ケントは首を傾げた。
「せやで。なんでお前が生きてんねん。ワイに身体を渡すーとか言うといて、なんでお前おんねんってなっとるわ」
「うっ……」
返す言葉がない。だがどうしてこうなったのか見当もつかない。
確かにケントが、ドラコに身体を食えと言ったのだ。
それでケントという存在は消える筈だった。
だから今の時点でケントが生きているのはおかしい。
じゃあ、何故?
何故、生きている?
あの時、ケントの理性はあった。
アンリに攻撃しようとする自分を自分で抑えることが出来た。
頭の中でぐるぐると何かに引っかかりながら回っている。
その時、ボコボコと鍋の中の水が沸騰して溢れていた。
「おわわっ!?」
考えを放り出して、コンロの火を止める。
「…ふぅ」
白い煙を顔に浴びながらため息をつくケント。
「ドラコ。まずは、朝飯からだ。その後に考えようぜ」
「そやな……てか飯作れんの?」
「一人暮らしをなめんじゃねえ」
そして、棚の中から蕎麦の束を取り出す。
「え、今日のメシって何なん?」
「蕎麦」
「ソバ……?!」
今度はドラコが間抜けな顔をしていた。
再び、火を入れてぬるま湯が沸騰し出したら、束になった蕎麦を茹でる。
茹立つまでの間、お椀を3つ揃え、冷蔵庫をあさるケント。
「わさび……ないな。生姜でいけるか?」
生姜のすりおろしチューブを取り出して多めに小さなお椀に出す。
そして、めんつゆを原液のまま、お椀の三分の一ほど入れた。
ちょうど、蕎麦が茹で上がったので、ざるに入れて水でゆがく。
「よし、完成」
「適当すぎひん?」
「いいんだよ。これで」
「……」
ケントはざるを鍋の上に置いて、鍋ごとリビングに持っていった。
ドラコにはめんつゆ入りのお椀を持たせていた。
「アンリ〜〜起きろ〜朝だぞ〜」
アンリの身体を揺らして起こしてみる。
ほんのりと彼女の体温を感じる。
「んん…」
ゆっくりと背を伸ばしてアンリが目を覚ます。
「ケ、ントくん……?」
目をぱちくりさせて、ケントを見る。
「ケントくん?」
「そうだよ。ほら、朝だぞ」
何故か、彼女がフリーズしている。
「どうした?」
ケントが訊ねても、固まったままでいる。
もしや…
「下着…?」
「ケント、避けろ!!」
ドラコの叫びと同時に槍が壁に突き刺さる。
良かった、ここでドラコの声がなかったら今頃槍が頭のど真ん中に貫通していたところだ。
アンリの顔を見ると、顔を赤くして頬を膨らませている。
……あちゃー。やってしまった。
「ごめん、アンリ!!着替えるまで振り向かないから!!!!」
「…アホやなぁ」
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