不夜都市 歌舞伎町 3
桃色の髪が、街の灯りに照らされていた。
「うぅ…迷ったかなぁ…」
アンリは不安げに辺りを見渡す。
ケントも、エルもいない。
「み、皆さーん……どこにいるのー?」
ふと何かを察知し、歩みを止める。
シュコー……シュコー……
奥から現れる人間と思えない程の巨大な体躯の怪物。
顔にガスマスクをつけた奇妙な外見の怪物。
スクラッパーである。
「うわ……なんか来た……」
錆びた鉈包丁を片手にアンリを見ている。
そして、こちらに走って来た。
しかし、彼女はものともせずに、
「やぁっ!!」
光の槍を投げた。
ズドンっ!!
見事にスクラッパーのガスマスクを突き破って頭を貫通させる。
スクラッパーは静かに倒れ、二度と動かない。
「うへぇ…なんか怖いな」
ピクピクとかすかに動くスクラッパーの死骸。
まるで虫みたいだ。
「ひぃ…気持ちわるぅ」
そそくさとその場から逃げるアンリ。
「グルオオォアアァァ!!」
何かの咆哮が轟く。
ビリビリと肌に殺気を感じる。
「な、何が…?」
声のした方へと走るアンリ。
交差点の角から、右半身が燃えている青年が現れる。
「!!」
その青年は確かに立神ケントだ。
だが、右半身が燃えているなど、外見からして明らかに尋常じゃない。
「ケントくん……!?」
「ガ、グギ……」
アンリの声に反応したのか、右半身の炎が少しずつ縮小しているように見える。
「ケントくん…だよね?」
しかし、返事はない。
一方のケントも、真っ暗な空間で焦っていた。
「グルルァァガァァ!!」
全身から黒い炎を噴き出し、吼えるドラコ。
ただ、何かに憑かれたかの如くのたうちまわっていた。
(おい、どうしたんだよドラコ!!)
「グッ、グオオ!!」
(しっかりしろ!!)
ドラコを抑えようとするケント。
しかしドラコは彼の静止を聞こうともしていない。
(クソッ……一体どうしちまったんだよ!!)
「グォアアアア!!」
(絶対に……止めてやる!!)
咄嗟にドラコの小さな身体を地面に押しつける。
ジュウウ……
ケントの掌が焼け、白い煙が上がる。
(熱っづ!!)
それもそのはず、ドラコの鱗は赤く灼けている。
超高熱になっているドラコの身体は触るだけでもひとたまりもない。
(〜〜〜〜〜っ!!!!)
それでも、ケントはドラコを押さえる。
別段、特に意味は無く、ただ掌を焼くだけという無駄な事なのだが、それでも必死にドラコを押さえていた。
それが功を奏したのか分からないが、現実でも身体の炎が弱くなっていた。
うっすらとケントの目の前に桃色頭が見える。
(そうだ、アイツならなんとかできるんじゃねえのか……?)
そして、ケントは燃え広がる炎の中で叫ぶ。
熱い空気を吸って肺を焼きながら。
「———!!」
ほとんど声にならない声を真っ黒な虚空に向かって叫んだ。
「ァ……ア、ンリ……」
アンリは目を見開いて、右半身を炎で燃やすケントを見る。
「た…た…か……え」
戦え。
確かに、彼はそう言った。
そして、その後の彼女の行動は早かった。
炎が再び燃え上がる。
獄炎の化身が、アンリに襲いかかる。
「【永槍】!!」
蒼く光る槍がアンリの手に顕れる。
同時に少女の衣装は変化する。
以前の衣装とは違い、青と白を基調とした聖職者の様な服装。
「【付与・水聖】」
「【百厄を清め、災い祓え】」
「【ロンゴミニアド・浄水】!!」
アンリの背後に巨大な魔法陣が現れる。
そしてその中から、激流がケントを襲う。
鉄砲水が勢いよくケントにぶつかり、奔流に呑まれてしまう。
火属性は水属性が弱点。
それは、不変的大原則。
しかし——
「っ!?」
ゴォォォォォォ……
ケントの炎は依然と燃え上がっている。
いや、さっきより勢いを増している。
「なんで……!?」
それが原初の竜の力。
原初の竜は———いかなる属性であろうとも魔法を《《喰らう》》。
(やっぱりドラゴン……強い!!)
《壊セ》
低い声がかすかに、アンリの耳に入る。
怨嗟と、強い殺意の混ざった唸りに近い声が。
《潰セ、砕ケ、壊セ、壊セ、壊セ!!!!》
「グアウァァァァ!!!!」
その声でケントが呻き、咆哮する。
「いや、負けない」
ケントの言葉——戦え。
戦って勝つ。
それが彼を助ける為の方法。
「君は優しい。だから、君は死なせない!!」
翠色の瞳にケントが写る。
「絶対に…取り戻す!!」
震える足を動かし、引き攣る顔を両手で叩いて鼓舞する。
「【永槍】」
「【ロンギヌス・封縛】!!」
一本の白い槍をケントに投げる。
その一擲は炎に弾かれる事なく、ケントの右の肩口を貫いた。
槍から、白い鎖がケントの肩口を覆う。
(耐えて——)
「【力よ。其の主の元へと縫い留まれ】」
アンリの詠唱によって、ドラコの炎はケントの身体へと収縮し、右半身へと収まる。
完全にケントの動きが停止する。
「ケントくん!!」
「ア…アンリ…お前が、やった……のか?」
「あ、うん…や、やり過ぎたかな…」
「いや……そんなこと……ない。あ、りがと……う」
ケントは無理に笑顔をつくって、倒れた。
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