不夜都市 歌舞伎町 2
エル・シーズンを先頭に固まって歌舞伎町の中を歩く3人。
「何だか……嫌にキラキラしてるよな」
ケントが呟くと、身体からドラコが飛び出す。
「せやな。それがカブキチョウなんやろ……どういうトコか分からんけどな」
深夜というのもあってか、歓楽街“歌舞伎町”はなおさら妖しく光を放っている。
コホー…
何やら不思議な音が聞こえてくる。
「……何か、聞こえないか?」
「空耳やろ」
今度は音を逃さないように息を殺して、耳を澄ます。
すると向こうから雑音混じりに、
コホー……コホー……
という、不気味な音が聞こえてきた。
「エル、まずい。何かが来る」
ケントは咄嗟に前のエルを肩を叩き、引き止める。
が——
「え?誰ですか、あなた」
《《別人》》だった。
エルに似てすらいない白髪の中年男性がいた。
(え……?エルは?アンリは?)
ケントは周囲を見る。
歩行者の大群に囲まれて、エルとアンリの姿を見る事が出来ない。
「ドラコ、まずい……迷ったかも」
「はぁっ!?」
コホー……コホー……
徐々に不気味な音が大きくなっている。
気づいているのはケントとドラコだけ。
周りの人々はただ歩いている。
何も見ていない。ただ前を見て彷徨う様に足を動かしている。
通行人の表情は、既に生気を失っていた。
「まさか……!」
「おい、ケント!!」
先に“それ”に気づいたのはドラコだった。
目の前に2メートルほどの巨大な軀が雑踏を掻き分けて現れる。
……古びた白いタンクトップと破けたジーパン、そしてガスマスクというあまりにも、奇怪な姿。
青色をした筋骨隆々の筋肉がタンクトップからはみ出ている。
手に持っている錆びた鉈包丁が、更に凶悪感を一層増していた。
ガスマスクの中からは、コホー……コホー……と荒々しい息が漏れている。
そのタンクトップのシャツの上。
"Scrapper "と血の様に赤いペンキで書かれてある。
スクラッパー。———潰す者。
その文字を認めた時、ケントは咄嗟に戦闘態勢に入っていた。
「ドラコっ!」
「分かった!!」
ケントの合図に合わせて、ドラコがケントの身体に入り同時に一気に拳を振り下ろした。
「うらぁぁぁあああ!!」
ケントの渾身の一撃は、雄叫びと共に見事に腹に決まる。
ズゥン!!
重く、確実な一撃だった。
しかし、スクラッパーはビクリとも動かない。
(堅った……)
怯んだドラコにスクラッパーは勢いよく、鉈を振り下ろす。
ドラコは咄嗟に、腕を交差して錆びた鉈を受ける。
刀身が錆びているために腕が断ち切られる事はないのだが、それでも圧倒的なパワーでドラコの足元が地面にめり込む。
ドラコは鉈の一撃を弾き、右脇腹に入り込む。そして一気にスクラッパーの頭を回し蹴ろうと体を翻す。
だが、その直後、足をスクラッパーに掴まれてしまう。
(コイツっ……!!)
スクラッパーはそのままドラコを振り上げ、さっきの錆鉈のように勢いよくドラコを床に叩き落とした。
舗装された地面が割れ、アスファルトが捲れる。
「ごはっ!」
強く打ち付けられた背中全体にヒビが入る音がする。
スクラッパーが見下ろしている。
シュコー……
「なんや、本気で殺しにかかっとるみたいやな」
ケントはクレーターの中で、ゆっくり立ち上がる。
ボロボロになった身体で、やっと起き上がる。
「クソッ……負けたくねぇなぁ」
ふらつきつつも、その目は未だスクラッパーを強く睨んでいた。
その時、
ザザ……ザ……
突然ドラコの頭の中にノイズが入る。
そしてスクラッパーの姿がぐわりと歪む。
「な、何や?」
やがて目の前の光景がテレビの砂嵐の様になり、一切が見えなくなる。
そして、ケントは立っていられないほどの頭痛に襲われる。
頭を抱えて、呻き悶える。
「っっっづあああああああアアア!!!!!」
その痛みに思わず絶叫する。咆哮する。
喉が張り裂けるくらいに叫ぶその悲鳴は、
真夜中の歓楽街に大きく響いた。
そしてドクンと身体全体が跳ね上がる。
目の前が真っ白になる。
そして彼の頭の中に、流れる川の様にモノクロの映像が溢れ出す。
*
ケントは見ていた。
剣や弓を持つ人々の姿。
そしてそれを焼き払う焔。
煉獄に囲まれ、逃げようにも逃げられない哀れな人々。
建物は燃え盛り、周りは火の海と化していた。
阿鼻叫喚の地獄絵図が広がる。
(なん……だ、コレ……)
ケントは見ていた。
黒い焔。怨讐の焔。
ゆらゆらと燃え広がっていく焔を。
(熱い…息が、出来ない…)
《壊セ》
黒い炎が唸る。
そこでケントの視界は暗転する。
*
「あっ……がはっ……はぁ、はぁ……」
ドラコが、スクラッパーを睨んでいる。
いつのまにかケントの人格が身体から抜けている。
ドラコは、何も変わっていなかった。
ただ、その右半身から《《異常なほどの黒炎》》が噴き出ていた。
《壊セ》
「がっ、ぐっ…グオオオオオオォッッ!!!」
ネオンに照らされる路に、強烈な咆哮が響き渡る。
ガスマスク男は、鉈包丁を振り上げ、ドラコに襲いかかる。
刹那——スクラッパーの、鉈包丁を持っていた、その太い右腕が黒炎によって抉り取られる。
《壊セ》
その右腕は瞬く間に灰となり、鉈包丁は紅く輝いていた。
《壊セ》
「ゴォアアアアアア!!」
右半身の焔がさらに噴き出す。
それは、獄炎。
形を作り、巨大な焔の腕が顕現する。
捻り出した黒い炎の巨腕は、スクラッパーの巨大な胴体を貫通する。
その炎腕から噴き出る黒炎がスクラッパーを包み、その巨軀を焼き尽くす。
断末魔を上げさせる暇を与えないままスクラッパーを消した。
あまりにも、無様な消え方となってしまった。
*
ギラギラとした照明がエルを照らす。
ふと、エルは後ろを振り返る。
「……いない?」
雑踏に紛れてしまい、ケントを見失ってしまった様だった。
「まずいな…大気中の魔力の消費が激しい…魔力に干渉して暴走していないと良いが…」
彼の身を案じながらも、ひたすらに歩き続ける。
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