立神ケント
最近の東京の夏は、尋常じゃないほど暑い。
8月の平均気温は30度。もはや暑いというレベルを越えている。
まるで地獄だ。
『さぁ、始まりました。ラジオcoon。今日のゲストは…』
蒸し暑い部屋の中、ノイズの混ざったラジオ番組が流れ始める。
「あ〜暇だ」
そんな中、彼は大の字になって寝そべっていた。ゲーム機を片手に呆けた表情でぐったりしている少年。
この少年の名は立神ケント。都内で一人暮らし中の高2である。
彼は今、夏休みの真っ只中。
かな〜り有意義な生活を送っている途中だ。
やっていたゲームに飽きて、スマホを掴む。
通知バナーが一つもないホーム画面を睨み、
「なんで、誰もいねぇんだよ!!」
一人っきりの部屋の中でスマホを壁に投げつける。
夏休みといえば祭りや海などのイベントで目一杯遊べる最大の機会。
それが1番フリーダムと言われる高2の夏となれば尚更だ。
なのに、誰からもお呼ばれになってない。
別にいつもボッチという訳ではないし、イジメられているわけでもない。
ごく普通の高校生活を送っていた。
ただ、そういうイベント云々には、まるっきり縁がないだけなのだ。
呼ばれたとしても、所詮は数合わせみたいな扱いも時々だがあった。
だからこそ彼は嘆く。
「暇だなぁ……」
それが彼の現状だった。
(たまには冒険みたいな事してぇなぁ)
立神ケント、高校生にもなって幼稚な事を考えてしまう。
扇風機の風がとりあえず頭を冷やせと言わんばかりに顔に当たる。生温いばかりで一向に涼しくならない。
ふとケントは何かを閃いたかの様に(或いは渋々思い至って仕方なく)身体を持ち上げた。
「……どっかいこ」
『現在の東京の気温は33℃。
お出かけの際は水分と日焼け止めクリームが必須です。
熱中症予防をしっかりと……』
そこでケントはラジオを切る。
「分かってるよ」
誰もいない空間の中、一人で呟きながら、開けっ放しの袋から生の食パンを取り出し、齧る。
鏡で自分の顔を見てみる。
ボサボサした普通の黒い髪と黒い瞳、よく“真面目な顔だね”と言われる何の変哲のない顔……
至って普通だった。あまりにも普通すぎた。
普通のはずのままなのに、今日は何故か気になっていた。
白シャツとジーパンに着替えると、彼は食パンを咥えたままドアを開け外に出る。
ギラギラと太陽が無遠慮に街を照らす。
ケントは最後のパンの欠片を無理やり口の中へ押しこんで玄関の扉を開く。
そしてそのまま都心の方へと向かった。
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