お盆の予定
いつも読んでくださってありがとうございます!
「伊織先生と莉奈さんはお盆の予定とかありますかぁ?」
16時ごろ俺の家には3人の人間がいた。すっかり俺の家に居ついてしまった元教え子。勝手に引っ張り出してきた俺のロゴ入りTシャツと下はデニムのハーフパンツという格好で俺の漫画を読みながらくつろいでいた。ゴリもまた、俺の部屋で漫画を読んでいる。俺は当然、エロゲ、じゃなくて、勉強をしていた。
「ん~実家に帰るくらいかなぁ」
「私もぉ」
俺とゴリは翔子の質問に答えた。お互いに目の前にあるものに集中しているので、返事はテキトーなものになってしまっていた。実際大学生にとっては4年間すべてが夏休みだからなぁ。この時期は金をたくさん稼げる時期としてしか考えられないなぁ。翔子も俺たちの返答を予想していたのか、漫画を読みながら言ってきた。
「私もなんですよねぇ、実家に帰るくらいで特にやることがなくてぇ」
「だよなぁ」
蝉の鳴き声がよく聞こえる。みーんみーんと一定のリズムで泣き続ける蝉の鳴き声に俺は夏を感じていた。だが、俺もふと思ったことがあるので、翔子に聞いてみることにした。
「そういや、最近彼氏は作ってないんか?」
「へ?私?」
「ゴリさんには聞いてませんよぉ(笑)」
「(笑)じゃねぇのよ。絶対に伊織より早く彼氏を作ってやんよ!」
「それができたら、俺は裸土下座をやってやるよ」
「言ったなぁ!絶対にやらせる」
「楽しみにしてる、じゃなくて、翔子だよ。おれが聞いてんのは。最近、その手の話を全く聞かないなたと思ってな」
馬鹿なことを言って、俺とゴリはじゃれ合いにも似た言い合いをする。すると、俺たちのそんな様子を無視しながら、
「あ~、そういえば全く作っていませんねぇ」
「どしたん?『ヤンデレ製造機』の名が泣くぞ?」
「そのあだ名を言った先生には後で慰謝料を払ってもらうとして、う~ん、なんか男の人と一緒にいるのに飽き飽きしちゃってぇ」
「お~モテる女のセリフだねぇ」
ゴリが翔子を褒める・・・というよりも尊敬のまなざしで見ているようだった。俺もゴリも異性と付き合ったことなどないから、翔子のことは神々しく思ってしまうのも仕方がない。
「あれ?それを言われると俺も含まれない?」
「先生のことを男だと思ったことはないので大丈夫ですよ♡」
「じゃあ俺は一体何なんだ・・・」
「教え子でエロゲの妄想をする鬼畜野郎」
「やめてくれぇもうその話はすんなよぉ・・・」
俺はいつも通りのいじりを受ける。なんか最近テンプレ化してきた気がしてならないなぁ。
「それに・・・」
「ん?」
「ここで伊織先生と莉奈さんと一緒にいた方が楽しいですし///」
「翔子ちゃん!!!」
「ちょ、莉奈さん///」
なんと、そういうことか。男と遊ぶよりも俺たちと一緒にいた方がいいと・・・え?俺の元教え子可愛すぎじゃね?ゴリも同じことを思ったのだろう。翔子に頬ずりしている。翔子は若干照れているが、その百合百合しい光景に俺は両手を合わせてお礼をした。
「あ~もう!離れてください、莉奈さん!////」
「え~、まだ翔子カインが足りてないぃ~」
「現役婦警さんが翔子を麻薬扱いしたらアカンだろ・・・」
俺は机の上に置いてあった梅酒を飲みながらそう呟いた。
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「はぁ~疲れましたぁ・・・」
「お疲れさん」
翔子はぐったりとしていた。俺はソファーでぐったりとしている翔子に『とろ酔い』のカシスオレンジを渡した。
「あっ、ありがとうございますぅ」
俺に礼を言って、翔子は缶を開けて飲み始める。
「生き返りますねぇ~」
「ならよかったな、ゴリも少しは反省しろよ?」
「うう・・・やりすぎましたぁ」
ゴリはいかにも反省していますアピールをしながら、グイっと一気にビールを飲み込んだ。本当にこいつの飲み方カッコいいわ。ビールのCMに出たらそこそこ売れるんじゃねぇか?俺は普通にありそうな世界線を想像してしまった。
その後は誰が話すというわけもなく酒飲みたちが喉を鳴らす音だけがこのワンルームを支配した。全員目の前のブツに集中しているようだった。
15分ほどその沈黙が続いたときだろうか。翔子がスマホを消して、俺たちに向かって、
「お盆にどこか行きませんかぁ?」
そんな提案をしてきた。
「突然どしたん?」
「いえ、みなさん予定がないようなら3人でどこか遊びに行きたいなぁと思って」
「おー!それはいいね!」
持っていた漫画をばたんと閉じて、食い気味に賛成してきた。言われてみれば、今年は全く遊びに行っていないなぁ。バイト、実家の往復しかしていないから、確かにそういうのもありか。
「いえ、先生は去年も遊びに行っていませんよね?同性の友達がいないから、バイトしかしてなかったですもんね!」
「うんうん」
「だから、心を読むのやめて・・・」
「友達がいないから、エロゲのシチュエーションを私に当てはめたわけですもんねぇ!」
「ち、違うわい!」
「動揺すんなっての、キモイぞぉ」
全く無実無根のことを流布されても困る。人の噂も七十五日というが、こいつらの場合は死ぬまでいじってきそうだ。俺はコホンと咳ばらいをして無理やり軌道を修正した。
「それでどこか行きたい場所でもあるのか?」
「よくぞ聞いてくれましたぁ~、私が行きたいのはここです!!」
俺とゴリに翔子がスマホを見せてくる。そこには、
『海のない埼玉で南国気分が味わえるトロピカルプール!海が恋しい埼玉県民(笑)はぜひお越しを』
と煽り文句の入った広告を見せられた。てか(笑)ってすげぇ悔しい。だけど、埼玉県民の心をがっちり掴む文章。悔しいが楽しそうだ。
「へぇ~本当に南国の浜辺を再現してるんだぁ」
「はい!やろうと思えばサーフィンもできるそうですよ」
「すげぇな」
この広告を作った人は絶対に埼玉県民だろうなぁ。なんか執念が違うもん。
「後はサメと一緒に泳げるプールもあるらしいですね」
「怖すぎじゃね?」
「ところがどっこい。人を襲うサメは400種類の内、30種類ほどらしいですよ。プールで泳いでいるサメはもちろん安全な種類らしいです。まぁとはいっても度胸がいるのは確かですねぇ・・・」
翔子も怖いのだろう。サメと泳げるプールなんて日本中探してもここくらいしかないだろうなぁ。まぁとはいっても死ぬほど怖いけどな。
「面白そうね!伊織、行ってみましょうよ」
「嘘でしょ!?おれ巻き込まれるの?」
「伊織先生、生徒たちのことは私に任せてください・・・」
「翔子も翔子で俺が死ぬこと前提で話をするのってやめてもらえますかね!?」
俺たちはその後もこのプールの話題で盛り上がった。滑り台やどのアトラクションを取っても物凄く面白そうだったし、俺もゴリもお盆は暇と言うことで、行くことが決定した。
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「あっ!」
ゴリが突然思い付いたように、声を上げた。
「どうしましたぁ?」
「いやさ、水着がないのをうっかりしていた・・・」
「そういや俺もだ」
ここしばらくプールに入っていなかったしなぁ。最後に入ったのは高校のときだ。ゴリも同じような感じなのだろう。インドアな人間だからプールに行こうなんて発想がまず浮かんでこないしなぁ。
「私もですよぉ、なので、伊織先生、莉奈さん。水着を買いに行きましょう!」
「え?俺も?最悪高校のやつで行こうと思ったんだが・・・」
「やめろマジで」
「はい・・・」
翔子から真顔のため口で言われた。
「高校名と名前が入っているような恥ずかしいのできたら、どうなるかわかっていますよねぇ♡?」
「はい!謹んで選ばせていただきます!」
「よろしい」
俺の敬礼に対して、翔子も敬礼で返す。まぁ言われてみればそうだな。隣に自分の名前が入っている服を着られたりしたら、一緒にいたいとは思えんな・・・
「水着かぁ、買いに行くのは小学生以来だなぁ」
「私もですよ」
「「え、意外」」
「私のことをなんだと思っているんですか・・・?」
「『ヤン「それ以上口を開いたら、洗剤を口にぶち込む」はい・・・」
俺が恫喝されている間にゴリは苦笑しながら、
「まぁ伊織ほどひどいこと言う気はないけど、確かに彼氏がたくさんいた翔子ならプールとか遊び慣れていそうだなぁって思うわ」
と言った。俺もうんうんと頷く。
「まあ、彼氏が平均よりたくさんいたのは確かですが、肌を見せるような関係になった人は一人もいませんねぇ~なんか一瞬で冷めちゃうんですよねぇ・・・」
「ほえ~」
なんか可愛い反応をしているゴリだが翔子のやつは付き合って1週間持ったやつなんていないんだぞ。そんなことは別に伝える必要もないか。俺はビールを新しく開けてセリフと一緒に飲み込んだ。
「ま、いつかいい男が見つかると思うぞ。お前はモテるしな」
俺は精一杯のフォローをする。運命を数学で求めた俺からすると、翔子はすでに外れ値にいるが、なんとかなるだろ・・・たぶん。
「うう~未来の私ぃ、早く答えを教えてよぉ~」
「おお~よしよし、私の胸で泣いておしまい」
「莉奈さぁ~ん」
翔子はしくしくと泣いたふりをしていた。俺はゴリのセリフに胸ないじゃんってツッコミたかったが、俺の股間のところで寸止めされている足を見て、踏みとどまった。俺は話を慌てて進めようとした。
「百合百合しているところ悪いんだが、俺も水着を買いに行かなきゃいけないのか?正直通販で買ってしまいたいんだが・・・」
「ダメですぅ」
取りつく島もなく俺の意見は封殺されてしまった。
「なんでだよぉ」
ところが今回は違った。
「この意見には賛成。翔子と二人で行った方がよくない?」
ゴリが味方をしてくれたのだ。正直、今回のフォローはマジで助かる。
「ほれ、2対1だ。民主主義的には賛成多数で可決だぞ?」
「ええ~」
翔子は多数決に負けたのにも関わらず、まだあきらめる気がなかった。俺ではなく、ゴリの方を見て、
「莉奈さん」
「な、なに」
ビールを口にしていたゴリに向き直って翔子は真剣な眼差しで見据える。そして、口を三日月に開き、いつもの小悪魔的な甘ったるい声で、
「私たちの水着のファッションショーであたふたしている伊織先生を見たくありませんか♡?」
「何言ってんの////!?」
ゴリは大きな声で反応した。声が若干うわずってしまっていた。俺が一緒に水着を選びに行かない理由はこれだ。どうせ翔子が勝手に水着のファッションショーをやるとか言って、俺をからかうのが目的だ。ゴリの様子を見るに、翔子の真意に気が付いていたかどうかは微妙だがな。
「ええ~本当にいいんですかぁ莉奈さん?」
「いいっていうか恥ずかしい////」
俺の方を若干ちらちらと見ながらそう答える。俺に助けを求めているんだろうが、俺から何を言っても藪蛇にしかならないことは火を見るよりも明らかだった。だから俺は静観することに決めて、だんまりを決め込んでいたのだが、そんな俺を放っておかないのが、小悪魔翔子クオリティ。
「先生も私たちの水着を見たいですよねぇ~?」
「・・・ノーコメントで」
俺は小悪魔の質問をビールをぐびぐびと飲んでいるふりをしながら流そうとした。すると、翔子は俺の隣にちょこんと座り、俺の耳元で、
「本当に見たくないんですか?私が初めて異性に見せる水着なんですよぉ♡(ボソっ」
「ブホっっ////////!」
「ちょ、伊織!大丈夫?」
ゴリが俺を心配してタオルをもってこっちに来てくれるがそれは悪手だ。こっちに来るなとジェスチャーしたが、翔子はゴリにも攻撃を仕掛けた。
「莉奈さんも伊織先生にもう一回、『似合ってるよ莉奈』って言われたいですよねぇ?」
「っ/////!!」
ゴリが顔を真っ赤にする。俺の方がダメージが大きいぞこれ・・・普通に名前呼びをしただけなんだが、ゴリ呼びが定着している俺からすると、なんか恥ずかしいぞ。
幼馴染2人は年下の小悪魔に言葉で撃沈させられえていた。この後輩には言葉では絶対に敵わないなぁと思った。
俺とゴリはその後も色々といじられまくった。ただ、ゴリがいじられると俺に100%流れ弾が飛んでくるから俺の恥ずかしさはゴリの2倍以上だろう。
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「翔子様、もう勘弁してくださいぃ~///」
「もぉ~仕方がないですねぇ~」
「ゴリが土下座してる姿なんて初めて見た・・・」
俺は絶滅危惧種よりも凄いものを見た気分になっていた。ゴリがここまで完封されるとは・・・俺の元教え子恐ろしすぎる。
まぁ結局、ゴリと翔子の二人で水着を買いに行くことになった。少し、いや、かなり惜しい気がするが俺もその方が精神衛生上良い。
「ま、本気で嫌がってるなら仕方がないですねぇ。残念でしたねぇ先生」
「あーほんとほんと行きたかったなー(棒」
「照れてるのがバレバレですよぉ?」
もう嫌!この子に全く隠し事ができない!そんなに俺ってわかりやすいのかなぁ・・・
俺はトイレに戦線離脱した。
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「いつもありがとね」
「先生、その、本当にいいんですか・・・?」
「気にすんなっての」
ゴリと翔子が申し訳なさそうに言ってきた。明日は二人とも用事があるとかで早く帰らなければならないらしい。それなら片づけはやらなくていいと言ったのだが、二人とも俺に罪悪感があるのか意外と渋っていた。
「それに今日はお前らに酒の調達を任せたろ?俺は場所を貸す、お前らは酒を調達する。ほら、これでイーブンだろ?」
「それはそうですが・・・」
「本当にいいの・・・?結構大変そうだけど・・・」
ったく、二人ともいい女過ぎるよ。俺は困ったもんだと笑った。
「ああ、本当に気にしなくていいっての。もし、罪悪感なんてものがあるんだったら、次も酒の調達を頼むよ」
俺はこれが落としどころかなと思って提案した。翔子とゴリは俺の言葉を受けて、二人で顔を合わせた。そして、俺の方をみていつも通りの笑顔で、
「それじゃあ、また酒を持ってくるよ」
「私もでぇす。とはいってもまだ買える年齢じゃないので、莉奈さんと一緒に払いますが!」
「それで頼むよ」
これであいつらも後顧の憂いを断てるだろう。別に酒の調達も俺がしてもいいと思ってるんだが、二人がやりたいと思っているなら止めるのも野暮ってもんだろう。
「それじゃあ伊織!またね!」
「伊織先生!次はバイトで!」
ゴリと翔子が玄関先で俺に手を振ってきた。おれも
「またなぁ~」
それを最後に扉を閉めた。さ~てまずはそこら中に散らばっている缶を片付けるかねぇ
『重要なお願い』
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