直接会う直前までの話
タイトルに「直」が多い
キーンコーンカーンコーン
朝のホームルームが終わり、私はほっと胸をなでおろす。
今日も間に合うかギリギリの時間だったのを、50m走7.6秒の力で乗り切った。
この記録がいいのか悪いのかはさておき、最終的に間に合えば良いのだ。
幸い次の授業は移動ではなかったので、教科書を申し訳程度に出すと、早々にスマホを取り出した。移動教室だった場合、このルーティーンは後々行うことになるのだが、まぁ今はそんなことどうでもいい。
SNSを開きタイムラインにざっと目を通す。
クラスでSNSをやっているかと聞かれると、真っ先にないと答える私だけど、本当の所はあったりする。でもリアルの人達と交流するために素の自分でいられなくなるのは避けたい。学校でさえしんどく疲れる対人関係を延長しなくてはいけないのが嫌で堪らない。それに比べて、全く知らない人と交流するのは楽だ。本当に自分に興味がある人しか寄ってこないから、リアルに比べて嘘や偽りを吐かなくて済む。それに…
(ピコンッ!)
タイミングよく送ろうとしていた相手からメッセージの通知が来た。
慣れた手つきでその通知をタップする。
『学校間に合ったのかいストーカー?』
液晶にはいちいち少し鼻につく文を送ってくる友達の文章。
『普通に間に合ったし、ストーカーは否めないからやめてほしい()』
ささっとメッセージを打ち、送った相手は
私のネッ友であり心の友でもある、ふたば(@futaba_28)である。
『ひなたくん』のことを話したくなった時、もしも周りの人に言うと、ドン引きでクラスでのソロプレイヤーまっしぐらなのでそれだけはできない。
でも話さずに尊さを溜め込むのも限界がある。
そんな時に出会ったのがふたばだった。
前々からリプを頂いたり、しょっちゅうダイレクトメッセージでのやり取りはしていたので「まぁいっか~!」みたいな軽い気持ちで個人情報は適度に包みながら話した。
それからというもの、毎日『ひなたくん』をふたばにレポート(?)するのが日課となっていた。私と思考を共有でもしてんのか、それともエスパーなのかは不明だが、私が欲しかった時に欲しかったリアクションをくれた。
りゆ(@riyu02)『あああああひなたくん尊いむりぁぁぁぁあ!!!!!!!!!』
ふたば(@futaba_28)『今日も持病が深刻なようで』
りゆ(@riyu02)『うるひゃいひなたくん見てみろ惚れるぞ』
ふたば(@futaba_28)『ふ~ん、私がひなたくんに惚れてもいいんだ?』
りゆ(@riyu02)『やっぱりやめてくださいお願いします』
ふたば(@futaba_28)『前々から思ってたけどりゆってひなたくんにガチ恋なわけ?』
りゆ(@riyu02)『…ひなたくんの幸せが私の幸せって言いたいところだけど、実際は彼女いたらモヤる』
ふたば(@futaba_28)『ほーん』
りゆ(@riyu02)『心底どうでも良さそうに言うな』
ふたば(@futaba_28)『っていうかもう少しで中学卒業だけど、高校でもひなたくんと会える保証あるの?』
りゆ(@riyu02)『…。』
ふたば(@futaba_28)『あ、地雷だこれ』
りゆ(@riyu02)『もうすぐ授業始まるから』
そう打って強制的に会話を終了させてから、私はスマホを鞄に仕舞った。
よく耳を凝らすと通知のバイブ音が聞こえるような気がするが、どうせしょうもないことばっか打ってるはずだ、ふたばのことだから。
ひなたくんと出会って一年ちょっと、ふたばと出会って一年弱。
どちらも同じくらい、私の大切な人だ。(方向性はもちろん違うけど!)
ふたば本人には悔しいから絶対言ってやんないけど。
そう思ったと同時にチャイムが鳴り、授業が始まった。
1限は古文。得意教科なんてないのだけれども、古文は群を抜いて酷い。
一応ノートは広げているが、何が何だかさっぱりで追いつくのを諦めた。
…いやでもぶっちゃけふたばの言う通りなんだよね。
初老の先生の話を聞き流して考えるのは先程のふたばの発言。
『もう少しで中学卒業だけど、高校でもひなたくんと会える保証あるの?』
結論、全くない。
制服から得た近くの共学校に通っているという情報以外、ひなたくんに関する情報はひとつも持ち合わせていない。
何なら名前を知れただけでもラッキーだと思う。
話すと長くなるのでだいぶ省略するが、
ひなたくんの使っていた(のを見た)ハンカチが落ちているのを拾ったことが名前を知るきっかけになった。
使い古した、キャラクターのワンポイントが入った黄色のハンカチ。そのイメージにそぐわない可愛さに悶えたっけ…、じゃなくて!
要するに名前と中学以外の情報はない。
中学で生徒一人一人の志望校をサイトに公開でもしていたら良いが、そんな間抜けなことをしている学校はない。逆にあったら完全アウトだ。
緑川女子みたいに中高一貫校はこの周りにはない。
当たり前だが高校に行くとなると、自分の希望に沿った学校を選ぶことになる。あの駅で止まるあの電車を使って行ける高校はだいぶ絞られる。
もちろん向こう側からして私は全くの他人なので、私の為に高校でもあの電車を使おうと考えることはないはずだ。
「つまり別れなんだよなぁ~」
「穂高、お前も年頃なのは分かるが授業中に恋の悩みを口に出すのはやめとけよ~?」
…もしかしなくても声に出てた?
先生のタイミングの良いツッコミにクラスに笑いが起こる。
「すいません…。」
視線に体を熱くさせながら、なんとか言葉にする。
お願いだから早く座らせて欲しい。そしてみんな忘れてほしい…!!
そんな淡い期待を裏腹に先生の声が飛ぶ。
「じゃあ穂高、ここの問題といてみろ~」
「…はい」
強制的に意識を戻され、ひなたくんについては一時保留となった。
次回、『ひなたくん』と友莉が直接会う(予定)です。前置き長くてすいません