イケメン女嫌いで有名な公爵家御子息様にイラッときたのでキレたら何故かプロポーズされました。
そう、レナードは怒っていた。
それは最初に出会った時の比ではない。
「何故勝手に私の心をお決めですか……信頼が足らない? 不安? 婚約してもいいか?」
「レナード」
「ロイド卿への信頼が足らないからどうだって言うんです!? 信頼なんか最初から足るほどあるわけないでしょうが! それでも私がっ……」
「っレナード!」
衝動的にレナードは立ち上がり、ロイドもレナードの剣幕に立ち上がる。
信頼が足りないのはお互い様だった。だからこそロイドも皆も、レナードがいなくなりはしないかと不安だったのだから。
ロイドが立ち上がったことで、自身が声を荒らげたことに気付き、軽く息を吸う。
「ロイド卿、私は」
「ああ待ってくれ!それ以上なにも言うな」
激昴からか小さく上下する両肩にロイドは手を置いて遮り、ソファに座らせる。
「俺の気持ちを先に、伝えさせてほしい」
「──、── ──、──」
「……」
「──。 ──」
「……」
「────」
ロイドは心の内を全部告げた。
それは恋と言うにも愛と言うにも中途半端で、情けなく……だが、とても真摯なもの。
レナードはそれをとても愛おしく感じた。
「この先も、できれば君といたいと思う」
「ふっ……」
まだ弱腰なロイドの言葉に、レナードはつい笑いを漏らす。まだ怒っている体でいたかったのに。
「……情けないか?」
「いいえ、ロイド卿らしくてよろしいかと」
そんなところを好ましく思ったのだ。
少しずつ、心に無理を強いない、嘘のない優しいところが。
レナードは恋愛を解さない。
ほんの少しわかった気もするが、自身の強い衝動にただ揺られるのよりも、揺られているならそのまま、考えて相手に添いたい。それができるかを話し合いたい。
だがそんな風に思うのは、最初からじゃない。ロイドがそうしてくれたからだ。
だからこそ悲しくて、頭にきたのだ……そう思う。
少し見つめ合った後、ロイドは跪き、手を差し伸べた。
「結婚してください、レナード・ティレット嬢」
「…………ロイド卿」
レナードは一拍おいて、先の台詞を言い直す。
「……ロイド卿が、そう望むなら」
自分を慮って判断を委ねてくれたのは嬉しいが、必要かを決めるのはあくまでも彼だ。
実のところ、レナードにはなにもない。
「貴女以外、考えられない」
恋愛音痴のレナードにも、この台詞にはくるものがあった。だが、
「逃がさないとは言わないが、君が逃げれば誰かを娶ることはないだろう」
「……脅迫みたいですね」
「っだから嫌だったんだ! 言うのが!」
実のところ、この脅迫じみた言葉の方が嬉しかったりする。どうやら自分の替えはきかないらしい。
「……それにそのうちきっと『逃がさない』と言うようになる。 どうする? 逃げるなら今しかないぞ。 今なら君の幸せな未来を望んであげられる」
なのにこの後に及んでまで自分に選択肢を与えるロイドのことを、レナードは『本当にお人好しだ』と呆れてしまう。
呆れると同時に『案外熱烈に告白されている気がする』とも。
「……幸せにはしてくれないんですか?」
だからレナードも柄にもなく、そんなことを尋ねてみた。
「俺は君となら幸せになれると思うが、君の幸せは君が決めることだ。 俺にできる努力はするが、波瀾万丈にはなると思う」
夢物語というよりあくまでも現実と共に語られる、現在と未来。懸命に紡いでいるつもりの今の精一杯のロイドの言葉は愛の囁きではなく、単なる本心だ。
──彼も恋愛に向いていないのだ。
恋愛音痴なレナードにも流石にわかった。
(滅茶苦茶赤くなっている……)
庭園で見た時よりも赤いのではないかと疑う程……『逃がさない』とか、言えるもんなら言ってみろ。心からそう思う。
「……まあ、逃げませんけどね」
「え」
レナードはロイドから差し伸べられていた手を取る──……フリをして手首を掴むと、そのままロイドをソファに引き寄せて座らせ、自分は立ち上がった。
「話は終わりました」
そして扉の外のふたりを中に入れる。
ふたりはしっかり聞いていたようで、非常に微妙ななんともいえない顔をしており……レナードが婚約を受け入れたとハッキリとわかると、ようやく安堵の笑みを浮かべた。
「──そもそもですね、子爵家への不安など私は抱いておりません」
レナードはアッサリそう言う。
何故なら
「私は子爵家の皆を信用、信頼しておりますので」
と、いうことらしい。
これに『ロイドや、伯爵家の皆との信頼関係よりは』という揶揄や、批判的な意図はない。逞しいのがティレット子爵家なのだ。
ひと月後子爵家に赴き、レナードが知る以上にティレット子爵家が逞しいのを知ることになる。
そしてこの直後、レナードはまた突飛なことを言い出すのだが……それらはまた改めて語るべきだろう。
兎にも角にも、これでふたりは共に歩まざるを得なくなったのだ。
まだ神には誓っていないどころか、両家の合意も得ていないが、ふたりの気持ちは今決まった。
中途半端だからこそ、歩みながら関係を深めていくという選択……それこそ『健やかなる時も、病める時も』、共に。
これを恋愛だったと気付くのは、ふたりの場合きっと、後で振り返ってから。
【イケメン女嫌いで有名な公爵家御子息様にイラッときたのでキレたら何故かプロポーズされました。】終
ご高覧ありがとうございました!
色々伏線引いちゃったのでこの後も話は続きますが、一旦はこれにて本編完結となります。
第一部完結的なやつですが、何故『本編』と称したかというと、タイトル回収の点ですねー。
ですから第二章にあたる部分からは、章タイトルが題名だと思って頂けると。
このまま続けても良かったのですが、他にもやりたいことがあるのとストックがないことで、更新が微妙になると思いました。タイトル回収的に都合がいいここで一時切るのが今のベストかな、と考えてます。
章区切りで書き上げてから出していこうと思っており、次回更新予定日は、9/1です。(※章終わりまで毎日更新予定。変更の際は割烹にて報告)
もし続きに興味があるようでしたら、是非ブクマはそのままでお願いします。
ブクマと評価、誤字報告、レビュー、感想……感謝しても足りません。なにより拙作を最後までお読みいただきまして、本当にありがとうございました!!