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イケメン女嫌いで有名な公爵家御子息様にイラッときたのでキレたら何故かプロポーズされました。  作者: 砂臥 環
イケメン女嫌いで有名な公爵家御子息様にイラッときたのでキレたら何故かプロポーズされました。
14/30

人々がそれぞれどこに向かおうが、鳥達が向かうのは自分のお家なのだ。


ドハティ公爵家では、訓練された鷹が伝書に使われている。


鷹は居住地としている鷹舎から放たれた後、移動先の者が笛で位置を教えるとその場所へと向かう。

あくまでも帰巣本能を主として利用した伝達方法なので、移動側の笛は呼び寄せるだけ。その為、移動している側は鷹舎の代わりである、訓練で慣れさせた移動用の簡易鷹舎を使う。

普段はバラして袋や箱に纏め、使用する際に組み立てるこの移動用の鷹舎だが、当然置く場所を確保しなければならない。

通常馬車に括り付けるが今回のジェイミーのように単騎である場合は、円滑にやりとりを行うため元の側が鷹を放つ時間を決めることが多い。


だが、この訓練は非常に難しい。

飼育が既に難しく、また、鷹自体も高額。


故に伝達には鳩を用い、移動先から使用し鳩舎に戻すだけの片道、或いは所定の場所から所定の場所への決まった経路の往復が一般的である。


この鷹の飼育と訓練に特化していたことが、ドハティ公爵家の紋章の由来なのだ。




子爵家一行が発った日の昼と翌朝の2回、ロイドはジェイミーに鷹を送っている。


最初の返事は計画の変更とその経緯。事後報告への詫びという内容で、放ってからさして間を空けずに鷹は戻ってきた。

それを読み、子爵の態度に感動したロイドは再びペンを走らせるが、先にも述べたように放つ時間は決まっているのだ。


鷹は思われているほど夜目が利かない訳ではない。

人間と同程度には見えているので、一応夜間でも飛べる筈だが、鷹の安全の為それは禁止している。

翌早朝、定刻。手紙をつけた鷹を再び放った。


レナード個人とのやりとり云々はとりあえず置いておいたとしても、子爵家の面々には確かに興味がある。本来の目的とは異なるが、報告を楽しみにしていた。

シルベスタが褒めており、ジェイミーが友人になったという御者も気になるところ……だが、返事が届くよりも前に家を出てしまい、2回目の返事はまだ読めていない。


そんなわけで、メイヴィスと茶を嗜んだあと、再び公務に励みそれを終えたロイドは、妙な期待感を抱きながらタウンハウスに戻った。


時刻は夕刻。

まだ距離的にそう遠くはない。

昼前に鷹は戻っている筈だ。




ロイドが帰るのは、王都のドハティ公爵家のタウンハウス。

まだ彼はドハティ公爵家の一員である。

エルミジェーンの公務の幾つかには、公爵の判断や指示を仰がねばならぬ部分も多く、また、逆にロイドが父や兄の手伝いをすることもあった。

近い将来、必要になるであろう伯爵家のタウンハウスだが、今年の公務をある程度片付けねば、仮にあったところで余計な手間となるだけなのが現実なので、まだ購入を視野には入れていない。


「お帰りなさいませ、ロイド様」

「ただいま。 ──ところでフランツ、俺の鷹は戻っているか?」

「戻っております……ですが、鷹よりも」

「?」


迎えに出向いた執事(フランツ)は公爵家の教育が行き届いており、表情を変えない。──だが彼とは長い付き合いだ。

僅かに滲む困惑を感じながら、ロイドが目線で先を促すと、執事は抑揚を変えずに言った。


「タルコット卿もお戻りです。 女性を連れておいででしたので、本邸ではなく騎士団用の詰所の応接室の方へ案内させました」

「……ッ?!」


ジェイミーが戻っている。女性を連れて。


レナードとしか思えないが、はやる気持ちを抑えて執事に特徴を尋ねた。


「その女性の特徴は?」

「赤毛寄りのダークブロンドの癖毛で、瞳も似た色味です」


執事の口にした女性の特徴は、レナードと一致する。


「──……わかった。 すぐ向かう」


そう一言告げると、足早にそちらへ向かう。 平静を装ってはいるが、ロイドの胸は高鳴っていた。


(どういうことだ……? この胸の高鳴りは……ッ!)


ロイドは自問した。


(俺は……ティレット嬢に、再び会いたかったのか?!)



胸の高鳴りそれは──


突然の出来事への動揺が主だった理由。



現実はそんなものだが、認識により事実は曲がる。

一連の出来事から思考は見事にスライドし、自ら勘違いするに至っていた。


なにしろ夜会から今までの約二日という間に、嫌なこと以外で特定女性のことばかりを考えたのは、彼にとって初めての経験なのだから──


……おわかりいただけただろうか。

ここに認識の歪みがあることに。


特定女性のことばかり、ではない。実際はレナードだけでなく子爵家一行のことだ。


だがメイヴィスの推しが地味に作用し、もうなんかそういうこととして処理されていた。



「ロイド様」

「ジェイミーが戻っているそうだな」


できるだけ冷静な声を出すも足はスピードを緩めぬまま、ロイドは騎士の案内を待たずに応接室に向かい、扉を開けた。


「ジェイミー!」


とりあえずジェイミーに声を掛ける。

元々機転が利くことがジェイミーを選んだ理由のひとつであり、現場では『適宜対応』との指示。まだ話を聞いてないので叱る理由もないが、強い口調となったのは照れ隠し的なやつだと思われる。


「ロイド様……!」


怒られたと思ったジェイミーは、デカい図体を縮こめるように肩をビクリとさせた。だが、ロイドの視線は彼には向けられていない。


彼の視線は、立っているジェイミーの斜め後方。

ソファに座っている、赤毛寄りのダークブロンドの女。




「──コレは……どういうことだ?」


ようやくロイドの視線はジェイミーに向けられた。


そう。

既にお察しのこととは思うが、彼女はレナードではない。




──約半日程前のこと。


ケイシーの推測通り、子爵家一行が『翠の竜の爪』に泊まっていたのはジェイミーの騎士服によってバレていた。


ジェイミーの騎士服を元にレナードをつけ狙っていたのは、前回の襲撃の犯人と同一人物である。

犯人の素性に関してはまだ明かせないが、勿論ロイドに懸想するストーカー女であるとだけ言っておこう。


当初、女は再びゴロツキを雇い、宿に潜んで(レナード)を襲わせようとしたところ、失敗。

そこでこの宿が『護衛調達のできる宿』と知った女は、子爵が行きに件の領境ルートを使ったとの情報から、今度は家の伝手を使って手練を雇い、馬車ごと襲うと決め準備していた。




しかし──


「それではお父様、お気を付けて」

「お嬢様はお任せください」


騎士と娘は馬車に乗り込まない。

中の子爵と挨拶を交わし、淑女らしく上品に小さく手を振った。


ふたりが見送る中、馬車は護衛二人と共に去っていく。


「……別行動か。 おい」

「はい」


配置していた男を撤収させる為に、見張り役の男は『中止』を意味する狼煙を上げた。




「中止か……まあそうだろうな」


ルテルの町外れ、領境側。

幌馬車で待機している男は狼煙を確認し、鳩を飛ばす。依頼元である女への報告だが、鳩は直接そこに向かう訳では無い。

前出の通り、鳩は自らの鳩舎(すみか)へ向かうのだから。



一団は二部隊に分かれており、潜ませた者と護衛らが戦った隙をついて、追尾する男達三人が娘を拐かす予定だった。


潜んでいる者は家の伝手を使って雇った手練……依頼元は同じでも先が違う。伝手を使っただけあり、当然こちらの身元も明かさねばならなかった。

幌馬車の男はこの手練の者の相方であり、計画の指示役だ。


見張り役の男達は先のゴロツキよりは使えるが、所詮は使い捨て。依頼元である女も知らない。

それだけに、計画が失敗しないよう『馬車が襲われるまでは絶対に手を出すな』と強く指示が出されている。


だが、計画中止後の指示は幌馬車の男には任されてはいない。

彼らの仕事はここで終わりだった。


見張り役の男達の所属は、傭兵崩れのなんでも屋。

『翠の竜の爪』で働く者達とは違い、そもそも『除隊』などしていない者が殆ど。良くて『不名誉除隊』だが、大概は自分の利や欲望を満たすために軍規を破り、罰から逃れるために脱走した者が多い。


先の幌馬車の男らはそんな輩とは違い、捕まる危険の高い計画の依頼は受けない。

対象(レナード)が別行動する場合、計画は中止』との条件で依頼を受けている。


条件を出されたことでその可能性に気付いた依頼元の女は、捨て駒の男達にその場合の指示と成功報酬を別に提示した。


なにしろ目的は娘にある。



──『女は好きにしていい、騎士はなるべく身元がわからないように殺せ』と。


8/4 今後の展開上、どうしても変更しなければならない部分ができてしまい、やむを得ず直しました。

申し訳ございません。

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― 新着の感想 ―
[良い点] > 突然の出来事への動揺からが主だった理由。 人それを吊り橋効果という(^^)
[一言] 鳥による通信からくるタイムラグを上手に利用されていて、読んでいて楽しいです。 ロイドがアレなのも大きいですがw
[一言] ロイドのテンションの寒暖差激しすぎて風邪引きそうwwww
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