ドラゴンを倒した
体にアドレナリンが満ちているのだろうか。
先ほどまで痛くて動くこともきつかった体が軽やかに動く。
「……!!」
ドラゴンがこちらに気づいた。
レイラに向いていた口をこちらに向ける。
火の玉はさらに一段と大きくなり、一気に火を噴いてきた。
「くそ……!!」
死を覚悟したが、ほんの一瞬だけ脳裏に水をまとった剣が浮かんだ。
体が勝手に動く。
呪文を唱える時間なんてないが、不思議と自信がある。
振り下ろした剣は俺の思った通りに水をまとい、ドラゴンの火を打ち払う。
「!!」
またか。
火が消えると同時にドラゴンはこちらに急接近し、俺を叩き潰そうとする。
だが、遅い。
ものすごくスローモーションに見える。
ドラゴンの手の鱗の1枚1枚を数えることができるくらいに遅い。
振り下ろした剣の向きを変え、今度は剣を振り上げその手を打ち返す。
「ぐっ……!!」
体に衝撃がくるが、痛みはない。
押し返されたドラゴンは若干後ろによろめいている。
その隙に一気に間合いを詰め、飛び上がる。
「おりゃああああ」
ドラゴンの喉元に剣を突き立て、一気に押し込む。
「やったか?!」
剣を離した体は自由落下をはじめる。
残念ながら地面に着く寸前までの間にドラゴンは絶命しなかった。
ドラゴンは苦しみながらしっぽで俺を薙ぎ払おうとしてきた。
ふと、後ろを見ると少し後方にレイラがまだ倒れたままだ。
このままでは巻き込まれてしまう。
地面に着地すると同時に、体操選手顔負けの体技とスピードでレイラのもとへ行く。
もう寸前まで来たしっぽを素手で受け止める。
弾き飛ばされるまではなかったが、ものすごい衝撃だ。
腕の骨が折れてもおかしくない。
俺はドラゴンを睨み上げる。
「……?!」
ちょうどドラゴンの顎付近が光っている。
あんな光なかったと思う。
その時、頭の中で閃光が走った。
あそこに魔法を打ち込む。
なぜそう思ったかはわからないが、疑っている暇はない。
しっぽを受け止めている手とは反対の手に魔力を溜める。
ドラゴンの口に溜めていたような火の玉ができ始める。
すごく熱い。
掌じゃなく、手の内側が熱い。
だが、わかる。まだ足りない。
さらに集中する。
手にできた火の玉はギュっと小さく圧縮される。
「ここだ!!」
昼間に使った魔法と違う。
レーザーのような光がドラゴンの顎から頭にかけて貫通する。
すぐに俺の体から何か抜けていくのがわかる。
気を失いそうだ。
こちらに倒れてくるドラゴンの気配を感じ、最後の力を振り絞りレイラをかばう様に抱きしめる。
「シールド!!」
気を失うまでの一瞬の間に見たレイラの顔はすごくいい笑顔な気がした。