ドラゴンが現れた
「お、おい。どうしたんだ」
「なにかくる!!」
レイラの背中の気迫からビッグウルフとは違うのだろう。
周りが静まり返り、風と焚火の音だけが響いている。
二人は薄暗くなった周りを見渡す。
「……上!!」
「……マジかよ」
上空にはおとぎ話で見るようなドラゴンが音もなく羽ばたきながら飛んでいる。
大きさは5~6メートルはありそうだ。
このサイズが音もなく羽ばたくなんて可能なのだろうか。
「これは、まずいね……」
「これってドラゴンか……?」
「うん……多分、レッドドラゴンだと思う……」
「多分って……」
薄暗くてハッキリとは見えないが、体は鮮やかな赤色ではなくどす黒い赤色をしている。
「実物を見たのは初めてだよ。この森でドラゴンの目撃情報なんて聞いたこともなかったし……」
言い方からしてこの世界でドラゴンはとてもレアな魔物なのだろう。
これは非常にまずそうだ。
俺の魔法が通じるればよいが……。
「……俺も参戦した方がいいよな?」
「多分、逃げても追いつかれると思う」
戦って死ぬか、逃げて死ぬかということだろう。
「!!」
ドラゴンは口を開け、その中にシュンシュンと音を立てながら火の玉のようなものができている。
「ワタシの後ろに隠れて!!」
俺は走ってレイラの後ろに隠れた。
「シールド!!」
レイラと俺の周りが薄緑色の半透明なドームのようなものができた。
それと同時にドラゴンは溜めた火の玉を放った。
「ぐっ……!!」
一気に周りは火に囲まれ、熱が伝わってくる。
「お、おい!! 大丈夫か?」
「これは結構きついね……。そんなに長くもたないかも……」
レイラは尋常じゃないくらいの汗を流しながら歯を食いしばっている。
これでは確かに長くは持たなさそうだ。
「このシールドって俺でもできるのか?!」
「うん、でき」
レイラの返事の途中で周りの火とシールドが消えた。
次の瞬間、もうスピードでこちらに飛んでくるドラゴンが見えた。
「シールド!!」
咄嗟にレイラの前に出て叫んでいた。
怖くて目をつぶってしまった。
ほんの一瞬の後、ものすごい衝撃が体にかかる。
「ぐはっ……!!」
さっきレイラはこれくらいの衝撃を体に受けていたのだろうか。
あまりの衝撃で目を開けると俺の体くらいはあるドラゴンの顔が目前にあった。
「ユウ!! 大丈夫?!」
「あ、あぁ……だけどめちゃくちゃいてー……」
その間にもドラゴンは両手で殴ってきたり、噛みついたりしてきている。
一撃一撃が体に響く。
埒が明かないと思ったのか、ドラゴンは一旦後方に下がった。
「はぁはぁ……すまん。これ以上耐えられる自信がない……」
正直なところ体が痛すぎて動きたくもない。
普通、ゲームとかの防御ってダメージないだろ……。
「シールド!!」
「お、おい!!」
レイラは先ほどとは違い、全身をまとうようなシールドを張りながらドラゴンに突っ込んでいった。
「とりゃあああああああああああああ」
人間ではありえない跳躍力で飛び上がり、ドラゴンの顔に切りかかる。
「火よ!!」
しかし、ドラゴンはハエを払うかのようにレイラをはたき落とした。
「きゃぁぁぁぁぁぁぁぁ」
その衝撃でレイラは地面に体の半分以上が埋まってしまう。
そして剣は宙を舞い、偶然俺の目の前の地面に刺さった。
「!!」
ドラゴンは身動きが取れなくなったレイラを焼き払うつもりなのか、また口に火の玉を集め始めた。
俺はほぼ無意識に剣を引き抜き、ドラゴンの元に走り出していた。