杖を使ってみた
「おい、兄ちゃんの上限が見えないってどういうことだ……」
「マジか!! やべーな」
驚きたいのはこっちのほうである。
「見えないってありえるのか?」
「相手の魔力の上限を見るためには、見るほうの魔力量も多くなくてはならないんだ」
シリルの魔力量が少ない……ということは先ほどの驚きっぷりからないだろう。
「私の魔力量も人並み以上にはあると思っている。……君の上限は私の数倍、いや、数十倍はあるかもしれない」
「こりゃあ、すげーやつに会ってしまったみたいだな……」
3人の視線が痛い。
どうしたものか……。
「いや、でも色々忘れてしまったみたいだし、……宝の持ち腐れ?みたいなもんだ」
適当にはぐらかしておこう。
「まぁ、たしかに……むしろ思い出させたらまずい気もするぜ」
「はは……」
化け物じゃないんだがな。
「とりあえず、君の魔力はかなり回復しているはずだ。もう魔法も使えるんじゃないのか?」
言われてみれば頭痛や眩暈もなくなっている。
魔力を使いすぎると体調も悪くなるのか……気を付けないといけない。
「たしかに使えそうな気がする」
「……そういや、君は杖を使っていなかったな。持ってないのか?」
「そうなんだ。街に行ってから買おうと思ってる」
「よければ、使ってみるかい? 戦利品の余り物でよければ」
これはありがたい。
ぜひ使ってみたいところである。
「いいのか? 杖って高いんだろう?」
「いいさ、君の魔法が見れるなら安いものだよ」
見世物ではないのだが、背に腹は変えられない。
「……そういうことなら、使わせてくれるか?」
「わかった。ちょっと待っててくれ」
シリルは腰から下げた魔法の袋に手を突っ込んでゴソゴソと探している。
「よし、好きなのを選んでくれ」
袋から5本ばかりの杖を取り出し渡してきた。
見た目の違いは分かるが、それ以外の違いは全くわからない。
「好きなのと言われても、違いがわからん……。レイラ、どれがいいと思う?」
「うーん!! じゃぁこの赤い杖にしてみたらどうかな?!」
そういえば、レイラの装備も赤を基調としたものが多い気がする。
赤が好きなのか?
使える魔法も火だと言ってたしな……。
「じゃぁ、この赤い杖を使わせてもらおう」
残りの杖をシリルに返す。
選んだ杖をまじまじと見つめるとよくできているのがわかる。
所々に装飾が施されている。
たしかにこれは高そうだ。
あまり気にしていなかったが他のみんなの装備も結構凝っている。
シリルの杖は今借りたものより数段上の装飾がされているのが素人目でもわかる。
「やはり結構高そうだな……」
「ん? そうでもないぞ。それだと小金貨三枚か四枚くらいじゃないかな」
銀貨については聞いたが、金貨の価値がわからない。
だが数万円はしそうだ。
「……そうなのか。だけど、杖ってどうやって使えばいいんだ?」
「ワタシの剣の時と一緒だよ!! 火よって言えば火の魔法が使えるはずだよ!!」
どの装備も同じ原理か。
とりあえず使ってみるか。
「火よ」
適当に杖を森の方に向けて振ってみた。
「……!!」
振った瞬間、杖が破裂した。
そして振った先の森は黒焦げになっている。
3人はというと、目が点になっている。
杖を使わなかったときとそう変わらない威力な気もするのだが……。
しかし、問題は破裂してしまった杖だ。
弁償しようにも金がない。
「申し訳ない……。壊れてしまった……」
「そういう問題じゃない!!」
正気に戻った三人に同時ツッコミを受けてしまった。