転生は突然に
「今日もやっと終わりかぁ……」
俺は悠。
どこにでもいる27歳のサラリーマンだ。
妻子がいるわけでもなく、彼女すらいない。
「何食べようかな……」
見飽きたホームの看板を眺めながら夕飯のことを考える。
少し前までは食ぐらいは変化を、と思ってはいたものの最近は同じようなコンビニ弁当ばっかりだ。
『2番のりばに電車がまいります。危険ですから黄色い線の内側まで……』
電車が来るのを横目に確認し、スマホで時間を確認する。
その時、ドンッと背中を押された。
「え?」
運転手を少し見上げる感じで目が合い、とっさに目をつぶる。
運転手に申し訳ないことをしたなと冷静に考えてしまった。
大きなブレーキ音が耳の中でこだまし、俺も終わりなのかと思った。
しかし、なかなか電車はぶつかってこない。
そういや、ブレーキ音もしない。
恐る恐る目を開けると、見たこともない森の中にいた。
「どこ、ここ……天国?」
ハッと、体中を触ってみるが傷は疎か痛みすらない。
服も破れているところはない。
「カバンは……!」
周りを見渡すがカバンはない。
「マジかよ……」
財布がないことに落胆したが、右のポケットに何か入っていることに気が付く。
俺は慌ててソレを確認する。
「スマホ……だよな?」
画面をタップしても何も表示されない。
「電池がないのか?……とりあえず、持っとくか」
スマホらしきものをポケットに戻し、周りを見渡す。
腕時計もなくなっているので今が何時かわからないが、明るさから考えると昼過ぎくらいだろうか。
「さて、どうしたものか……」
キャンプか?と考えたものの何も道具がないので難しそうだ。
助かってすぐ詰みはシャレにならない。
「と……とりあえず人か街か、最悪でも道路が見つかれば……」
しかし、見渡す限り木しかない。
「こうなりゃ。ヤケだ」
足元にあった小枝を上に軽く投げ、落ちた方向を確認する。
「とりあえず、こっちに行って見るか……」
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―――――
――…
「いや、マジでなんもぞコレ」
一時間くらい歩いたものの、変わらず木と茂みしかない。
「果物でも生ってないかな……飢え死にだけは嫌だな」
めちゃくちゃ暑いわけでもないが、スーツに革靴はさすがに辛い。
さらに幾分か歩くと水の流れる音が聞こえ始めた。
「助かった!!……水の音だ」
疲れも忘れて音のする方に走ると、小川に出ることができた。
「綺麗そうだけど、飲めるよな?……まぁ、飲むしかないけど」
川も水はとても澄んでいて川底までハッキリと見える。
喉を一気に潤し、休憩することにした。
「人は……いないよな」
水場ならと少し期待はしたが人の気配はなかった。
「……!!」
目を凝らすと、少し離れたところで動くものが見えた。
「動物か?……あれは犬かな?」
野良犬に襲われて死ぬのも嫌だ。
完全に丸腰な今では勝ち目はないだろう。
「退散しますか……」
そそくさとその場を離れようとしたが、地面が砂利だったため結構大きめな音がしてしまった。
「ヤバ……!!」
恐る恐る、犬の方に目をやるとものすごい勢いで走ってきている。
だんだん、迫りくる犬に違和感を覚えた。
「いや、でかくね?」
遠くだったためわからなかったが、大きさは一般的な犬よりかなり大きい。
3倍?……いや、4倍はあるだろうか。
と、そんなことを考えている場合ではない。逃げないと。
しかし、その場から一歩も動くことはできなかった。
「やばい、やばい、やばい……」
敵意むき出しのその巨大犬はすぐそこまでやってきて、獲物を物色するように見てくる。
「……」
目を離すとやられる!!と思い、にらみ合いを続けるが打開策はまったく思いつかない。
その時、物陰から音がするのが聞こえた。
その一瞬、目を離してしまったのがまずかった。
すぐそこまで飛びかかってきていた。
「とりゃあああああああああああああ」