表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/27

生活保護者は幸せな老後の夢を見るか6

これはフィクションです。

部屋に入ると、いままでのダンジョンが嘘だったかのように小奇麗な部屋。

むしろ、本当に人が住んでいるのかというような部屋。

2匹のちびたちが無双している我が家の玄関口よりも、よっぽど整理整頓されている。

玄関は正面が廊下となり、右手がトイレと風呂。左手の手前が台所で、その向こうに窓に面した一部屋がある。


「ぐふ、あがるよ、ぷしゅう」


やはり、なぜか、オークは上から目線だ。


「ど、どぞ」

「お、おじゃまします」


スリッパはないが、靴下が汚れる心配がない廊下を歩き、奥の部屋に通される。

中央に机・・・いわゆるちゃぶ台?

小さなブラウン管テレビが一つ。

奥の壁は襖が占め、左手の台所との面はガラス戸が鎮座している。

そして、右手は窓。

窓からは、港と工場が見える。


ゴーン、ゴーン、ゴーン。


何か巨大な鉄を叩くような音がする。

近くに造船所があるので、船体を作っているのだろうか。


「ど、どうぞ」


座布団はない。


「ぐふ、いやぁ、じゃ、はじめようか、ぷしゅう」


オークが何かを始めようとする。

私は、殺風景で何もない部屋になぜか気を取られながら、いやいやながら、オークの隣に腰を下ろす。


「ぐふ、えっと、入院して、もう退院したわけね、ぷしゅう」

「・・・はい」

「ぐふ、そう・・・去年と何か変わりはない? ぷしゅう」


そういいながら、何かを出す。

表紙に「生活保護開始ケース記録」と書かれている。

表紙といっても、穴あけパンチで2穴があけられており、その状態でクリアファイルに入っている。

オークが短い指で、器用にクリアファイルから書類を取り出すと、ちゃぶ台の上におき、めくり始める。


「ぐふ・・・えっと・・・家族構成、扶養義務者、かわらないよね、家系図も変化ないよね、生活歴・・・」


何やら汚い字で書かれているが、それを見ながら、偉そうに何かやってる。

そうだ。オークのくせにえらそうだ。


「あ、そうだ、薬は? ぷしゅう」

「退院のときに、たくさんもらいました」

「それはよかった、そこまでは見るから、ぷしゅう」


そういいながら、別の書類を取り出す。


「ぐふ、ここに名前とハンコ、そう、それから、ここにも、名前とハンコ。あ、民生委員にお願いする書類、渡すの忘れてた・・・、で、こっちにも名前とハンコ・・・」


話の内容からすると、初めての申請ではないらしい。

名前を書かせて、ハンコを押させているが、ろくに説明をしない。

暗黙の了解でもあるのだろうか。

もちろん、オークは私にも事前説明はない。

黙って見ているしかないのだ。

保険の営業のときには、こんなわけにはいかない。

役所の仕事とはこんなものなのだろうか・・・。


「はい・・・はい・・・」


おっさんは、いわれたまま、署名しハンコを押す。

何も疑問を感じている様子はない。

窓の向こうは、無機質な工場地帯。

窓の位置が高いこともあり、人影は皆無。

言われるままにハンコを押してく彼は、借金のかたに、すべてを取り上げられる小市民にも見える。


ゴーン、ゴーン、ゴーン。


何か巨大な鉄を叩くような音がしている。

その音のためなのか、逆に他の音が聞こえない。

うるさいのに静かだ。

まるで、この九龍城に、このおっさん以外の誰も住んでいないかのように静かだ。

その巨大な音が、むしろ静寂さを引き立てる。

そのとき、突然、おっさんの名前が、私の頭の中に降臨した。


「イジドア」

「ぐふ、イタ・・・藤伊さん、どうしたの?」

「な、何でもないです」


心の声が、口から洩れていたようだ。

危ない。

妄想が激しいことは自覚している。

妄想が現実世界へ侵略してくる。

気を付けねばならない。

きっと、あのブラウン管テレビがエンパシーボックスだ。

ネクサス6が、同じビルに住み始めるかもしれない。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ