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最強の男  作者: 雷然
第一段階
8/23

手紙

「あんなクズ早く殺せよ」

「政府は何をやっているんだ」

「最初から怪しいと思ってました」

「安倍のせいだ」

「全部フィクションだ、俺はだまされないぞ」

 テレビ、新聞、インターネット、SNS。あらゆるメディアや個人が言いたいことを言う。

 力を使い始める前は、気に入らない奴は見つけ出して片っ端から殺してしまえばいい。そんな風に考えていた。

 それが実際どうだ? 何を言われてもあまり気にならないというか、悪口を言われてもいつでもコイツ消せるな。という心理が働いて面倒だし無視しておくか、と思うものである。


 しかしそれでも全く気にならないわけではない。心に余裕があるというだけで、他人を気にしない人間なんていない。どんだけ能力があっても俺は普通の思考をする普通の人間だ。


 だからニュースを見て、SNSを見て、世間が自分をどう思っているのか調べてみたりする。

 俺を恐れる人間は増えた。しかし平伏す者は少ない。


 こういうことがあった。

「いつも活躍を拝見しております。私こういう者です」

 ラウンジで紅茶を飲んでいる俺に話しかけてきたのは小奇麗なおっさん。上等なスーツに高そうな腕時計をしている。ゴテゴテと指輪をつけた手で名刺を出した。出された名刺には一般社団法人とある。

 何かの営業だろうか、よくわからないが断ろと俺は口を開いた。

「すまないが俺は……」

「私どもは環様を待っておりました! 環様こそ時代を、何より歴史を動かすお方!! しかし神は嘆いておられます。環様には人類をよりよく導いてもらわねばなりません! 神は……」

 と、こんな調子でおっさんは一方的に話す。ようは宗教の勧誘だった。

 俺を神輿に担いでひともうけしようという腹だ。


 畏れ(おそれ)がないのだ。俺は。動物園の客寄せパンダぐらいにしか思われていない。

 畏敬も畏怖もない。


 俺宛の手紙はホテルには来ない。俺が知らないだけで苦情の手紙等が来ているかもしれないが、ホテルからは受け取ったことがない。

 一様なし崩し的にNHKに俺の事務局を置いているので、そこで手紙は管理している。殆どは読まずに捨てる。

 たまに顔だして捨てるように言うのだが、何通かは目を通す。

 差出人の名前は大抵なく、内容は批判や政治的なものが多い。

 極一部、熱狂的なファンというか、俺を神のように崇め奉る者もいる。

 そういう人の手紙は支離滅裂で字は汚く、一様に世界の破滅を願う内容が綴られている。

「これじゃダメだ」 

 つぶやいて「これも捨てといて、全部」と手近な人にお願いするのだ。


 ホテルが襲撃されてからまた手紙が増えた。きっと俺のツイッターアカウントを公開すれば凄いことになるだろう。


 飾り気のない茶封筒。珍しく差出人の名前と住所がある。それも都内だ。


 拝啓、環凌様。

 先日は命を救って頂き誠にありがとうございました。

 環様がいなければ私も、家族も人類皆死んでいたことでしょう。

 世間では環様を悪の化身のように報道されていますが、まずは感謝の言葉を述べるのが筋だと思いたち、筆をとった次第です。

 

 あの日、私は東京タワーにいました。

 展望室から環様の姿を拝見し目を疑いました。目にした環様はこちらを見て「任せろ」そんな風なお顔をしていました。

 三日三晩の奮闘お疲れ様でした。

 筆不精なもので話が前後するのですが、世間での風当たりは大変厳しいものだと思います。電話で話した田舎の両親は、命を救ってもらった環様のことを快く思っておらず、私は残念な気持ちになりました。ですので私だけでも感謝を伝えねばならないと思い、お手紙を書かせて頂きました。

 不乙。


「あのう」

 NHKの職員が手紙を読む俺に声をかけてきた。俺が処分を言い渡した箱を持ち、普段ならここで手にした手紙を箱に入れるところだ。


「これはいい」


「かしこまりました」

 そう言って、すごすごと職員は去ってゆく。


 初めて手紙を保存することにした。

 差出人の名前は遠藤(すぐる)

 

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