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最強の男  作者: 雷然
第一段階
4/23

風は奪えない

 どいつもこいつもゴミだ。

 久しぶりに出社してみれば俺のデスクはまだ残っていた。

 誰も俺に話しかける者はおらず、遠くから怯えるように見るだけ。


「そりゃそうか」


 一体何しにきたんだろ。早々に退社した。きっともう来ることはない。


 

 ――俺はきっと、怖かったのだ。

 この力があれば俺は自由になる。なんでも出来る。誰も俺に逆らえやしない。この自由が俺は恐ろしかったのだ。俺はおれ自身が恐れているという事に、この時はまだ気づいていなかった――。



 クラブに行く、暗い店内では誰が誰なのかすぐにはわからない。

 ブスではないが、美人というほどでもない女に声をかける。生まれて始めてのナンパだ。


「こんばんは」


「え? 何?」


 クラブというものに始めて入ったが、この中の音楽というのは騒音に等しい。機材は音量を上げることだけを考えて繋げられ、音飛びが激しく一つ一つの音の粒がバラバラである。カセットテープ以下の音質だ。かかっている曲も芸術性が乏しい。ここの住人は音楽偏差値が低い。


 振り返った女の顔は、騒音みたいな顔だった。

 メイクや服装に統一感がない。うるさいだけの格好。ああ正にクラブの女だと思ったさ。


 そうさ、それでいい。今俺が欲しているのは極上の女ではない。ただ性欲を満たすだけの相手が欲しかった。


「俺を知っているか?」


 まっすぐ騒音女を見て言う。言葉は普通だが俺が言えば意味がまるで違う。脅迫のような質問。我ながら最低だ。いい、俺は最低でいい。


「え? 知らないあんた誰?」


 準備していた言葉に、予想外の返答が返って来る。女に嘘を言っている様子はない。


「え? マジ? タマキリョウって知らない?」


「全然。なに? 芸能人?」


 女の瞳に興味の色が浮かぶ。俺はなんだか会話をするのが億劫になりながらも「そのようなものだ」と返した。


「じゃあガーベラのサインもらってきてよ」


 女が訳のわからぬことを言う。誰だよそれ、外人か?


「知らん。邪魔したな」


 暗がりに逃げるようにしてその場を去る。一度トイレによって、扉を開ける。

 暗がりとライトと騒音と人々。

「なんでこんなところにきちまったのか」


 全部壊してやろうかと考えて、やっぱり止めた。フロアの端っこを通って地上へ向かう。


 外の空気はきれいじゃない。よどんだ東京の夜。それでも中よりはいくらかマシな気がした。

 

 この街の全てを壊したらどうなるか想像して、実行はしない。

 

 夜の風を壊したかったのではく、自分の物にしたかったのかもしれない。でもその方法が解らなかった。



 その晩、俺は動画投稿チャンネルを開設した。


 生放送、俺は顔を隠しはしない。クラブでは女がアレだっただけで俺の顔は売れているはずだ。今更隠す意味もない。


 タイトルには『宣戦布告』


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