最強対警察
それで、どうなったか。
別にたいしてどうもなりはしなかった。人類は騒いだり、現状を回復したり、維持するのに忙しかったし、政府やら軍やらが俺を捕らえようとすることもなかった。
多分何もかも間に合ってないのだ、地球最後の日から激動すぎて何かしらの行動を起こす余力なんてなかったのだろう。
変わったのは取材が無くなった。ユーチューブやら個人配信者の申し込みはあるようだが、俺の広報担当になったNHKに全て断らさせている。
これでやっと予定を進められる。しかし焦る必要はない。ゆっくり楽しもうじゃないか。
ある日の渋谷のことだ。
「いらっしゃいませー」
オールバックなのかツーブロックなのかハッキリしない髪型の店員が、俺を出迎えてぎょっっとする。顔は売れているようだ、話が早い。
「ど、どれをお求めて?」
「一番いいやつ、オーダーメイドなんだろ? ここ」
俺は革で出来たジャケットを注文した。たかが上着が20万もするんだぜ? 俺の給料の一ヶ月分だ。大人しく善良な一般市民を続けていたら着ることは無かっただろう。
出来上がりまで通常半年かかると前情報を仕入れていたが、一月待てば完成するらしい、完成までサイズのそれなりに合うもので我慢してやることにした。マネキン君がいくらかセクシーになった。
ここの店員は賢かった。なんせ代金を聴いて来なかったからな。
そんな調子で俺の衣食住は激変した。
中華料理店が警察を呼んで囲まれたときは、ひとまず店長の首から下をプレスした。
初めての殺人。別になにも感じやしない。
少し世界が清潔になっただけだ。
デブの頭部を、パトカーの赤色灯に投げつけてやる。
「あなたのやっていることは犯罪です。大人しく連行されなさい」
拡声器からの声はここ最近聞いた中で一番堂々としており、日本の警察はたいしたものだと思った。
ホント、たいしたおバカさんだ。
駐車場にはパトカーと警官が雑に集まっている。
俺は壁を水平に発生させた。壁なんて呼んでいるから勘違いさせているかもしれないが、“壁”というのは薄くて厚みはゼロに近い。
その極薄の壁を駐車場いっぱいに、瞬間的に置いた。
高さは、人体の上半身と下半身の間ぐらいだ。返り血や車両の破片は別につくった垂直の壁で受け止めた。
靴が汚れないように足の下に壁を敷いて歩く。通行の邪魔になる物体は壁で押しのけた。
日本の警察は頑張った。
その時の俺は自宅を出てホテルで暮らしていた。自宅はまだ安アパートで、家を買うつもりはあったが、どうせなら建てたいし、しかし建てるとなると打ち合わせやらが面倒で、一旦ホテル暮らしをしようと思ったのだ。ホテル暮らしは快適で、掃除は勝手にやってくれるし飯も出てくる。至れり尽くせりだった。
警察はホテルを封鎖しなかったし取り囲みもしなかった。
「タマキさん、貴方は地球を救った英雄ではありますが、最近の貴方の行動は犯罪そのものであり、日本の法と警察は……」
音声は室内のスピーカーから流れてくる。廊下に出てみれば静かなものだ。
部屋を代えたり、ホテル側を脅す手もあるだろうが俺は別のことをした。
壁で箱をつくり、スピーカーを囲んだ。そして壁の“設定”を音だけが通過できなくした。光は完全通過、物理的接触も問題ない。
これで音の出ないスピーカーの完成だ。分解して調査してもなんの異常も見つけられない。音だって本当は出ているのだ、壁から外にいけないだけで。
俺はまだ誰にも俺の能力をきちんと解説していない。
大方、つくった薄い壁で物理的に遮断する能力だと思われているはずだ。実際はもっと応用の効く力だ。
俺はこの力を物頃つくときには、すでに持っていた。
たいした理由もなく力を隠して生きてきた。平凡に生きてきた。
「昔の俺、偉い!」
おかげで今、最高ッに楽しいわ!
明日は何をしようかなぁ