ファイル001
世界を創造することは、世界を滅ぼすことより難しい。
この宇宙全体を収めた俺の箱。俺は箱の中身をなんでも自由に出来る。
地球に隕石を落とすことも、俺だけを不老不死にすることも。
俺は、今までやったことのない力の使い方に挑戦した。
多分出来るだろうという確信はあった。
発現した力を使わないと決めていたのは、出来ることが多すぎたからというのもある。
これからは何でもやる。退屈を紛らわす為になんでもだ。
でも自殺だけはしない。俺が俺に決めた新しいルール。
きっと最後の信念。
俺は宇宙をコピーすることにした。
これならゼロから宇宙を構築するより簡単だ。
きっとこれから何百、何千とコピーすることになるだろう。
しかし全く同じ訳ではない。俺の退屈を紛らわす為に面白おかしく刺激的な世界になってもらう必要がある。
「さてと……」
俺の生まれた宇宙。オリジナルの宇宙をファイルゼロとした。さて、ファイルワンはどうするか、まず俺は二人もいらない。それはどの宇宙にも言えることだ。
時をまき戻したものをコピーする。千年ぐらい戻すか。そして日本を消した。これで俺が生まれることはない。
「それからどうするかな、魔法のある世界にでもするか」
どうせいつでも保存&やり直しできる。消すのも複製も思いのままだ。
俺は思いつくままに世界を創造した。
――草原の丘に剣を刺す。ここは剣と魔法の世界。眼下の村にモンスターの集団がやってくるまで、あと三十分。俺は旅の冒険者という設定で村に入る。
未舗装の道路は歩くたびに土埃をあげる。くびれた木造の家。酒場で提供される質の悪い酒。俺はすでに帰りたく、デリートしたくなってきていた。
「いや、我慢だ。醍醐味はこれから」
酒場では俺のようなよそ者にベテランが難癖をつけるというお約束を、早送りで体験した。
ばんっ! 酒場の扉が必要以上に強く開けられた。
「たたた大変だ。モンスターが集団で攻めてきやがった!」
誰だろうコイツは、細かいところはお任せで作ったから衛兵なのか冒険者なのか俺にはわからない。見た目も雑だ。
それでも誰も気にせず村はずれまでモンスターを迎撃しにいく。
「よし、いくぞ!」
ベテラン冒険者を先頭に、人間達とモンスター達の交戦が始まる。
モンスターの集団はここの人間達よりも強い。こいつらがやられたら村の女子供は皆殺しになるだろう。
俺は雑魚には目もくれず、戦場を走り抜けていく。狙いはモンスターの集団を率いているボスモンスターだ。
ミノタウロスというのだろうか、牛の頭をした一際大きい化け物。そいつに単独で挑む。
「おや? オレサマに挑むつもりかニンゲン? 昼飯に食ってやろうか? グハハハハ」
「うるさい。秒で片付ける」
「いい度胸だ!」
ミノタウロスが振り下ろした巨大な斧。それを手にした剣で受け止める。
「非力だな不細工」
俺の挑発に激昂したミノタウロスが、でたらめに斧を振り回す。
力任せの動きは、予備動作が大きく、動きの戻りも遅い。
俺は斧を避けながらミノタウロスの体を切り裂いてゆく。
「すげぇ。あいつ何者だ」
ボスモンスターの単独討伐。新人冒険者にとって素晴らしいデビュー戦と言えるだろう。ここから俺の壮大な冒険ファンタジーが始まる……ことはない。
剣から伝わる肉の感触。血の匂い。獣以下の息遣い。運動による疲労感。全てが不快だ。
全身から血を流したミノタウロスが力尽き、大きな音を立てて地面に倒れた。
その様子をみて他のモンスター達が逃げてゆく。
「やったー俺達の勝ちだー!」
叫ぶ冒険者達。その中には傷を負ったベテラン冒険者の姿もある。このあと酒場で俺に謝ってくる予定だ。
「ふん」
俺は、使わなかった壁を使った。剣を水平に百八十度に払いながら超硬、極薄の壁を展開。逃げ出したモンスター達が上下に分割された。遠くに見える木も山も等しく切り裂いた。
「「「は?」」」
冒険者も理解が及ばないといった様子。
振り返った俺に冒険者が、一歩後ずさる。
俺は笑顔をつくって、剣を地面に刺した。
俺が剣を手放したことで安心したのか、何人かの冒険者が俺に近づいてくる。
俺は、親指と人差し指で何かを挟んで潰す仕草をする。同時に冒険者も村も平べったくなった。
「ゲームオーバー」
大地が割れ、空が悲鳴をあげる。
――やれやれだよ。難しいものだね世界を構築するってのは。また地球を創りなおすところから始めるかな。いや、剣と魔法の世界っていうコンセプトは悪くないと思うんだよね。とりあえずざっくりつくって眺めるだけにしようかな。
いや待てよ。ファイルゼロから適当に誰か拾ってきてこっちに放りこんでみるのもいいか。日本語は通じるし、ステータスかスキルを良くしてやれば簡単には死なないだろう。我ながらいいアイデアだ。