取材
この物語はフィクションです。
登場する人名、国家、その為名称は架空のものであり、現実のそれとは一切関係ありません。
本作で行われる行為の多くは犯罪行為であり、決してマネをしないで下さい。
スーパーな能力をお持ちの方で、うっかりマネできてしまっても決して「本作の影響があって」、と言わないようお願い申し上げます。
人類はお祭り騒ぎだった。
暴徒の起こした破壊や、社会経済が止まったことによる打撃、国によっては犯罪者に恩赦を与えたことによる社会不安など、多くの問題を残した人類最後の日だったが、最後にならなかったという事実の前には全てが許された。
そのお祭り騒ぎの渦中の人物、つまり俺は連日取材を受けていた。
華々しいデビューをするつもりはあったものの、過密なスゲジュールを前に、人類は俺を敬うつもりはないのではないかと思い、いっそ大暴れしてやろうかと考えては辞めた。
「はー」
そして俺は五度目のため息をついた。つまり大暴れ中止は五回目だ。そろそろ俺の脳内会議所も同じ議題に飽きた頃だろう。
「次終わったら帰ろう」
そうだ、人類が悪い訳ではないのだ、俺が顔を隠さなかったことも失態だし、三日も浮いてたことも失態だった。近寄るヘリを迎撃してやれば多少遠慮というものを学ばせてやれたのかもしれない。
だから勝手に俺のスケジュールを決めて、凄まじい早さでタスクを消化していく、この局が悪いのだ。俺は悪くない、なにせ人類を救ったのだから。
ここはNHK第3スタジオ、次はフランスの国営放送が取材に来るらしい。よかったなフランス。夕方のトップニュースはアンタのトコの取材だ。
「お名前は?」
「環凌」
「タマキリョウさんですね。いったいいつから不思議なパワーを?」
繰り出される質問に機械的に返答する。名前や経歴なんてもう何十回答えたかわからない。お前等だってとっくに知ってるだろう、力は幼い頃から持ってた、隕石の脅威はもうない、恋人はいない、家族は両親だけ、歳は24だ。
インタビュアーの女が鋭い鼻と、胸の谷間を覗かせながら俺の待っていた質問をした。
「これから貴方の力を社会に役立てていく気はありますか?」
俺はまず、これまでどおり答える。
「ええそうですね、社会に役だてていきます――」
続いて言ってやる。
「――まずはゴミ掃除からですかね」
「……それは、環境問題に取り組むということでしょうか?」
バカ女だ。言葉をとりつくろう必要はない、言ってやろう。
「バカだな、白人だから三割り増しで馬鹿に見える」
人種差別なんてされたことがないのだろう、明らかに不機嫌な顔をした。
「それは、どういう……」
「黙れ、殺されたいのか?」
女の四方を半透明の壁で囲んでやる、これが俺のチカラ、地球もただデカイ壁で囲って守った。
「じょ、冗談はよしてください」
女が俺を見て、俺が女を見返す。じわりと壁を進め、女の身動きを奪ってゆく。
「やめて、イヤー!、やめてぇぇぇ!」
女が半狂乱になりながら壁の隅を押し広げようとする。ビクともしない。上を見る。天井は空いているが、手を伸ばしても届かない高さ、壁は迫り、ジャンプをするために膝を曲げるスペースもない。いよいよ前後左右全ての壁が身体に密着し――。
俺は壁を解除した。
「ゴミ掃除だ」俺は言う。
「…………」
腰の抜けた女は何も言わない、スタジオの誰も何も言わない。カメラはまだ回っている。これは生放送だ。広い地域に同時に配信されている。
「俺に逆らう者、意にそぐわない者、むかつかせる奴、気に食わない奴、不要だと判断した奴、偉そうな奴、全てがゴミだ」