裸のメイドと不思議な出来事
村瀬からの電話だった。
「環さん、地球温暖化の件、どうにかなりません?」
「海面の水位を下げればいいんだろ? 簡単だよ。でも簡単にいいなりにはならない、議案に賛同した国から金を取れ、金額はそうだな、一億でいい。安いもんだろ」
「わかりました。そのように伝えます」
国連では村瀬総理を通じて、俺に要望を送ってくることが増えた。紛争や飢餓や環境問題など、俺に頼めば一瞬で解決できる。俺になれた世界は、俺の使い方を考えるようになってきていた。
「お電話終わりました?」
受話器を置いた俺の服をメイド達が脱がしていく。シャツのボタンを外し、ズボンのベルトを緩めていく。風呂の時間だった。
「お前らも一緒に入るか」
「はいっ! ご主人様」
嬉しそうにメイド達が答える。
メイド服はいいものだが、裸の女もいい。
選りすぐりの美女達。俺は堪能した。
……素晴らしい光景を眺めながら自慢の露天風呂に浸かっていると、藪の方からもの音がする。こんな時間に誰か庭掃除でもしているというのか。
じっと音のする方向を見つめていると藪の一部が消滅した。
綺麗に刈り取った後のように、ぽっかりと一部だけ藪が無くなり、外の様子が見えようになった。
「誰だ?」
外から一人の女が入ってくる。外と言ってもそこも敷地内だ。
並みの人間が入ってこれる場所ではない。
「立派な屋敷だ。人の命を奪ったザイで築いた城か」
「ようこそ招かれざる客人よ、なかなかに美人だな。どうだ? お前も一緒に風呂に入るか?」
裸のメイド達はキャアキャア言いながら避難する。避難といってもちょっと離れて、こちらを見守るようだ。
「環凌、状況がわかっていないようだな。この藪のように敷地を囲っていた壁を消してわたしは入ってきた。これがどういうことか解るか? お前の力はわたしにには通用しない。フフフどうだ、自分以外の超能力者に会うのは初めてか? 自分だけが特別だとでも思っていたか? それが敗因だ。正義の為、お前を断罪するッ!」
目には見えない何かを、侵入者は飛ばした。それが何なのかは俺にはわからない。壁を突破してきたことは事実だろう。それでも俺の優位は動かない。
立ち上がった俺は、侵入者の攻撃を直に受ける。藪を消し、壁を消したものと同質であろう。しかし――。
「どうしてだ? なんで無事でいる?」
侵入者が腕を動かし同じことを繰り返す。
「何回やっても無駄だ」
「どうして、どうしてだッ」
「状況を理解しているか? だったな。よーく解っているさ。お前が消したのは現代科学で説明できない超常の力を持つ者なら突破できる壁だ。そして俺が肌にまとうのは、ありとあらゆる攻撃を無効化する壁だ。超能力者ならもう何人も倒しているのだよ」
俺は、絶望に崩れ落ちる侵入者の頭を乱暴に掴む。
離れていたメイド達は湯につかりなおしたり、身体を洗うのを再開した。
「イヤ、やめて。アァ……アアアアァァァ」
普段ならやらない。頭の中身をいじくるなんてことは、だ。
そうやって他人を操ったって面白くない。だからこれはレアケース、一過性で、こいつ一人だけに対してのものだ。
侵入者はある国から送られてきた暗殺者で、俺は裏で糸を引いていた人物に送り届けることにした。黒幕を殺したあとで自殺するようプログラムした。侵入者はもう自分で考えるということをしない。命令に従うだけのロボットだ。実につまらない使い捨てのロボットになった。
「環さん、貴方何かした?」
後日電話をかけてきた村瀬は、焦点の定まらない言い方をした。
「この前の国会、地球温暖化の件なんだけど発起国の首脳が暗殺されたみたいで一時保留、というか流れそうなのよね」
「さぁな知らんな」
「そうね、貴方も反対しなかったし」
「そうだろ? なんでもかんでも俺に結び付けて考えるのはやめろ」
「別にそういう訳じゃないわよ。バカ。それじゃあね」
表では俺に助力を願い、裏では俺を殺そうとする。人の世とは不思議なものだ。