【生放送】国が滅ぶ瞬間全部見せます。
機体を反転させた桑島は、追いかけてきた敵機にも電磁投射砲をお見舞いする。
一機だけとなって敵機は急旋回。
「逃がさないよ」
操縦に慣れてきたのか、桑島が操縦桿とフットペダルを小刻みに動かして敵機を追従した。
「中国で一番デカイ軍事基地はどこだ?」
「え? 知りません」
「だろうな」
そもそもお前には聞いてない。
空域から敵機がいなくなると同時に、ディスプレイが敵基地の座標と飛行ルートを表示した。下には自動操縦に切り替えるかの選択肢も出ている。
「桑島。画面に出てるように飛んでくれ」
「合点承知」
機体はビルを突き破り、山を穿ちながら基地へと向かう。
大丈夫かな。敵が全部逃げ出さなきゃいいけど。
ピピピッ。
敵勢反応。数は……七十!
敵が阿呆でよかった。
「多いですね」
「本当にそう思うか?」
「冗談です、三秒で全滅です」
桑島が操縦桿のトリガーを引く。
機体が淡く発光すると、12本の荷電粒子を発射した。発射されたビームはそれぞれ空中で枝分かれすると意思があるかのように動き、細くなった一本が敵一機を撃墜。
七十機を七十本のビームで撃ち落とした。
「一秒で終わったな」
「あっけないもんですね」
敵基地に到達すると適当にトリガーを引いたり、赤いスイッチを押して攻撃。
地形が変わるほどの打撃を与えて次の基地へ、スクランブル出撃してきた敵機もろとも滅ぼす。
「次どうします? そろそろロシアいきます?」
飽きてきたように桑島が聞いてきた。
俺は上空に飛んでゆく大型ミサイルを見ながら「ああそうだな」と答えた。
このタイミングで飛んでいくミサイルが何処を狙ったものか、予想はつくが何もする必要はない、防御はすでに万全だからだ。
ロシア軍も中国軍同様相手にならなかった。中国よりもいい戦闘機を保有しているみたいではあったが、こちらと比べると紙飛行機に毛が生えたようなようなものである。
それにしても敵わないと見ると、ミサイルを打ち上げるのはどういった理屈なのか、俺には敗北宣言にしか見えない。
「おい、みたかよ世界ぃィ。思い知ったかよ」
翌日の政府放送をしたのは藪崎幸太郎。その口調以上に語られた内容は世界に衝撃を与えた。
大半は昨夜や朝のニュースで取り上げられた内容と同じではあるが、撃ちこまれた二つのミサイルが核ミサイルであったことと、日本ままったくの無傷で放射能の影響もないことは新情報であった。
中国政府からは戦ったのは未確認機であり、日本とは交戦の意思がなく即時戦闘行為を中止するよう要請があった。ミサイルの発射についてはデマであり、ミサイルの発射はしていないと会見があった。
ロシアも大筋で似たような声明を出したが、ミサイルの発射は恐慌に陥った長官が独断で行ったことであり、同長官は既に粛清したとの弁明があった。
俺が鼻で笑ったのは無政府状態だと言っていたことが、まるで無かったかのように新政府を日本の政府として扱いだした点だ。ちょっと調子が良すぎるんじゃないか?
この時、俺に全面降伏を示していたのは、聞いたこともない国が三つだけ。
「やっぱ解らせてやるしかないな」
翌日。
俺と桑島が戦闘機で出撃した日から二日、俺は再度出撃した。
今度のパイロットは薮崎。キャノピーを空けた後部座席ではカメラマンが地上をカメラ越しにのぞいている。
「大丈夫なんですか? こんなところに停止して」
カメラマンが心配そうに話す。
「大丈夫に決まってェんだろォ。環様だぞ!」
藪崎が計器を殴りつけながら後ろに叫ぶ。
「ひっ」
びびるカメラマンに、俺が話しかける。俺は機体の翼の上に立っていた。
「大丈夫ですよ。さぁカメラを回して下さい。今日の放送は視聴率最高記録を達成するんじゃないですかね」
今日の新聞のラテ欄、政府放送の内容はこうなっている。
【生放送】国が滅ぶ瞬間全部見せます。
「日本国民、並びに全世界の皆様こんにちは、環凌です」
俺はにこやかに手を振ってみせる。
「さて、眼下に見えますのはロシア連邦です。ちょっと雪なんか降っていて見ているだけで寒くなりそうですね、ちょっと雲をどかしますね」
指を鳴らして雲をなくす。これだけでもちょっとしたショーだが、ここからがハイライトだ。
「さて、なんでこんなことをするのか? とか結局俺の力ってどこまで出来るのか? とか言おうと思えば言う事あるような気もしますが、もういいしょ。……死にたくないなら降伏しろ。そうでない奴にはこうだッ!」
地球を覆う俺の壁、その一部を落下させる。一部といってもロシア全体の大きさだ。視認できる半透明な青色に染まった壁は、俺達だけを透過して地面に降下してゆく。
空が落ちる。
建物も、人も、土地も、歴史も、命も。
押しつぶした。
つぶして、青に沈んだ。