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最強の男  作者: 雷然
第一段階
10/23

初代総理大臣

 最初の餌食は太った中年。臭い息をホットパンツに浴びせるほど近くにいた。だから当たった。空になった薬莢が地面に落ちるより早く、次の弾が男の腹を押し、三発目も四発目も男を押して吹き飛ばした。

 

 恐怖で硬直した指はトリガーを引いたまま離さない。

 トリガーを引いたら弾が出るということすら解っていないのかもしれない。

 子供がいやいやをするように銃を左右に振る。

 

 MP5の装弾数は三十発。装填→撃発→排莢が高速で休みなく繰り返され、マガジンが空になったとき、ホットパンツの近くで立っている者は自身を除き他に誰もいなかった。


「はぁ……はぁ……」


 ホットパンツが荒く呼吸するのを見てから俺はアナウンス室を出た。

 マガジンに弾丸も供給しておく。気づくか、気づいたとして次も撃てるかはどうかは本人次第だ。


 国家を征服する方法。俺の考えているのは新政府をつくり現政府を排除するというやり方だ。

 新政府を運営する政治家、別に百も必要ないだろう。

 政治家を選ぶ為のオーディションという訳だ。

 

 そうとは知らず集まってきた者達が殺しあう。カメラを構えていたのは海外のテレビ局だろうか、壊れ捨てられたカメラ。そのわきで同じように壊されてゆく、目だってしまったのだろう、何人もがよって(たか)って暴虐を働く。


 俺は殺せと言った。いつ終わるか不明。時間制限も殺す人数も不明。どうすれば合格かも不明。そもそもこれに合否なんてものがあるかも不明。俺がいいと言うまで殺しあえ、それだけの命令。

 想像が神経をすり減らし、ちょっとした切っ掛けで暴発する。

 時間制限を想像した者は逃げ隠れるだろう。殺したほうがいいと判断した者は暴力に身をゆだねるだろう。

 

 ひとまず一眠りして戻ってくる。アナウンス室をワープしてホテルに戻った俺は飯を食って寝て、眠気覚ましのコーヒーを持って再度ワープして戻ってきた。


「ふんふふーん」

 鼻歌を歌いながら倒れた人をまたいでゆく、壁を足元に敷いて浮かせるとドームの中がよく観察できた。

 誰も立っていない。かなりの数が減った。残っているのは死体と重傷者、息がある者も疲れて座り込んだり、横になったりしている。


「起きろ」

 マイクで拾ったわけでもないのにスピーカーから俺の声が響く。便利なものだが風情がない。演説でもする機会があれば能力を使わずにやりたいものだ。


 ドームの、箱の中の死体を消す。血痕や肉片、散らかった色々なものをなかったことにした。

「二つ目の命令だ。起きろ、そして俺の近くまでこい」


 再度の通告、生きている者で誰か一人でも殺傷した奴の傷を消して、体力を回復させた。生きていても殺していない者は死体同様に消した。


「傷が治ってる」

「生きてる」

「終わったのか?」

 わらわらと人殺しが集まってくる。人数は十二人。その中にはホットパンツの女と、女に噛み付いた痩せた男も混じっていた。


「さて、諸君お疲れ様。試験合格おめでとう」

 俺は大仰に拍手をしてみせる。それからなんの試験だったのか、何をさせるのか説明してやった。


「政治家とかガラじゃないと思う者もいるだろう、しかし命令だ。やれ」

 漏れる不満を制しておく。格闘技でもやっているのだろう、ガッシリした男が頭をボリボリかいている。横に立っていたホットパンツの女が俺に言う。

「貴方はなんでこんなことをするの! 貴方に人の心はないんですか?!」

 

 ここまで残った連中だ。皆一様に何言ってるんだコイツという顔をする。


「ちなみに初代総理だが、彼女にやってもらおうと思う」

「質問に答えなさいよ!」

 俺はこの少女が気に入った。まずは立場をわからせようと思う。

「皆、不満はあるかもしれないが彼女に従うように、この場で一番人を殺したのが彼女だ。リーダーに相応しいだろう?」

 

「へぇやるね」

 そう言ったのは髪の青い女だ。体力は回復させたはずだが目の下にくまが出来ている。


「銃があれば俺のほうが殺せた!」

 痩せた男が主張した。この男はよほど殺しが好きらしい。


「さて総理、名前を聞こうか?」


「貴方に教える義理はないわ」

 この女は明らかに命令を聞きそうにない、ここへ来たのも俺の邪魔をするためだろう。名前ぐらい教えてもらわなくても分かるのだが、まずは一つ言う事を聞かせることが、この先の為に必要だった。


「わかった。それじゃ……」

 俺がニィっと意図的に意地悪く笑顔をつくる。


「何? 私になにかしようっての?」

 女が銃口を俺に向けた。


 かっこうつけて指を鳴らす。女の前には死体の山。女が殺した人間だ。

 

「コイツ等を生き返らすことも出来る。さてどうする?」


「嘘、そんなこと人間に出来る訳ないわ」

「どうした? 声が震えているぞ」


「私、殺したくて殺した訳じゃ」

 死体の山のてっぺんにもう一人追加する。痩せた男が噛み付いた女だ。どうやらあの後、失血死したらしいな。


「サービスだ、こいつもつけてやる」


「ッ!……全員よ。全員生き返しなさい!」


「いいだろう。名前は?」


「村瀬あかりよ」


 俺は指を鳴らし死体を消した。そしてドームの外で蘇生させた。


「お前等だってぐちゃぐちゃな肉が再生していくのを見たくないだろ? ひょっとしたら見たかった奴もいるかもしれないが、それは勘弁な。ともかくお前等が殺したやつは全員生き返った。シャバに戻っても罪はつかないから安心しろ。ただし村瀬が俺の命令を聞かなかったら、同じ苦しみを再度味わって死体に戻る」

 そういってホットパンツの女、村瀬あかりを見下ろす。


「いいな村瀬総理」


「くず野郎」


「俺の機嫌を損ねるな、これも命令な」


「わかり……ました」


「ふん、態度が気に入らないがまぁいいだろう。お前等連絡先をお互い交換しておけ、この後もめたり面倒起こすなよ。それと誰がどの大臣をするか話し合っておけ、なに簡単な仕事だ。椅子に座って官僚をこき使えばいい。まぁ実際の仕事は今の政府を消してからだから急がなくていい。それまで今の生活を楽しんでろ。じゃあな」


 そう言って俺は姿を消した。

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