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最強の男  作者: 雷然
第一段階
1/23

地球最後の日

巨大隕石群落下による地球消滅まで――


残り――

 地球最後の日。


 世界中の偉い人達が国境を超えて一生懸命話し合った。初めて世界が一つになったのが五日前。


 きっと沢山頑張って考えてくれたのだろう。


 人類の英知は、人類を救わなかった。




 『日本 首都・東京』


 地上では一部の暴徒があばれていて、警察や市民団体が治安を維持する為に今も奮闘している。


 暴徒から逃げ出して辿り着いた東京タワー。その展望台で竹原は思ったより普通だなと思っていた。

 もっと治安が悪化してもおかしくはない。たまたま自分の見ている範囲だけがこうなのかもしれない。

 朝のニュースでは世界がいつ終わるかもわからないのに、いつものニュースキャスターがわかる範囲で、日本や世界のことをしゃべっていた。

 若くて可愛い女性アナウンサーは出てなかったが、特にそのことに言及はなかったと思う。

 最後の方は、なんだが難しい自作のポエムを朗読していた。


 逃げ込んだ東京タワーも、家族連れやカップルなんかもいて、遺書を書いたり、弾き語りをする人、祈りを捧げている人を除けば普段どおりに思えた。


 やれやれ、と何度目かわからない自嘲をする。自分に酔っているのかもしれない。

 琥珀色の酒瓶ををそっと床に置く。無人のコンビニに残されていたものを拝借してきた。かなり荒らされた後の残り物。最後の日だ、これぐらいバチは当たるまい。

「ふー」

 と深く長く息を吐いた。


 社会人として忙しかった毎日。田舎に残してきた両親、全ての出来事が遠い。


 時刻は14時43分。

 朝のニュースで言ってた“その時”がもう来る。



 直径15キロを超える超大型隕石を含め、百以上の人類が対抗できない悪魔が落ちて来る。


 原爆の数万倍だかのエネルギーで日本は跡形もなく消滅するらしい、そうでなくとも人類皆仲良く心中は免れないそうだ。


 空が輝き、展望台の窓から悪魔の姿を一目見ようと多くの人が窓際に張り付く。


 そして――みた。

「嘘だろ」


 誰かが言って。また誰かが指を指す。


 東京タワーの展望台の高さは、約150メートル。

 その高さに男が立っている。


 中じゃない外をだ。


 何も無い虚空を、地上と呼ぶには高すぎて、空と呼ぶには物足りない高さを、やけに遅いエレベーターに乗っているかのようにスゥーと、ゆっくり上昇してゆく。

 上を見つめる男は展望台のこちら側を一瞬だけみて、両手を上にかざした。

 そのまま特別展望室のある250メートル付近まで上昇してゆく。


「あいつ、まさか」


 人が空を飛んでいる。

 その異常さは十分に理解している。

 でもそんなことより飛んでいる男が何をしようとしているかが気になった。

 こちら側を見たときの男の表情。


 まるで、そう、まるで。



『俺に任せろ――』



 そうとしか見えなかった。


「そんなバカな」


 窓に張り付いて出来るだけ上を見る。


 空では巨大な火の玉が、太陽かと見まがうばかりに輝いて瞬いている。

 恐怖で足がすくみ、目をつぶって、ゆっくりとあける。


 空では光が瞬いては消えてゆく。

 まだ死んでない。熱も衝撃もない、

 この何日かで何度も聞いたソニックブームとかいうものもこない。

 耳も痛くない。

 なにも来ないのだ。


 まるで巨大で丈夫な傘が地球を覆ってしまったかのように何も飛来してこない。


 眼下に広がる町並みにも隕石が落ちたような形跡がない。


 天空に広がる眩しい光の向こう側を、よくよく目を凝らしてみれば、えたいの知れない光が、水面にできた波紋のように広がっては消え、広がっては消えてゆく。

 隕石がぶつかったところが光っているのか、そう結論づけた。


 雨が降り注ぐ水面のように無数に、広がっては消えてゆく光達。

 この隕石がしばらくは降り続くものだということを思いださせた。



 天空の男は三日間、地球の空に壁を張り続けた。


 人類の英知は、人類を救わなかった。


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