8.どうやって魔法を使えばいいんですか
クラウスとともに小屋に帰り、セレナはまずすりむいた傷を洗った。
「治癒魔法、かける?」
「ううん、いいの。───ありがとう」
魔法で治すのではなく、自然に治るのを待ちたいと、そう思った。
それから、中断された食事を再開する。
「・・・美味しい」
微笑んで言うと、クラウスは嬉しそうに笑った。
───温もりが、セレナの心を満たしていた。
翌日から、セレナは『この世界』について学び始めた。
魔法について。魔獣の知識。生き物の生態。
何もかもが違う中、セレナは順調に吸収していった。
ただ、唯一上手くいかなかったのは───
「ヒュドール!」
セレナの手のひらに現れた水の球、それは揺らぎ、形が崩れ───
セレナは全身水をかぶっていた。
だいぶここに馴染んできて、知っていることも増えたが。
───魔法だけは何故か使えないのだ。
この世界の魔法はイメージと詠唱さえ出来れば誰でも使えるらしい。
個人に属性などは存在せず、あらゆる魔法を使える。
火の『イグニス』。水の『ヒュドール』。風の『ヴィエーチル』。土の『ティエーラ』。
氷の『スティーリア』に、雷の『トネール』。
光の『スヴィエート』と闇の『フィンスターニス』。
これらを唱え、想像することで、魔法を行使する、のだが。
セレナの場合、詠唱は完璧だ。しかし、肝心の『イメージ』が足りないせいで、失敗に終わる。
「こんなことなら、もっとアニメとか見ておけばよかった・・・」
セレナはあまりそういったものに興味がなく、見てこなかった。ここにきて、そんな後悔をすることになるとは。
「・・・はぁ」
セレナは濡れた服を着替えるために、小屋の中に戻ったのだった。
脱いだ服を籠の中に放り込む。あとで、洗濯するためだ。
クラウスは服に浄化魔法をかけていて、「セレナの服にもかけてあげようか?」と提案してくれたが、丁重にお断りした。衣類を弄られるくらいなら、自分で洗った方がましだ。
とはいえ、小川で洗うのは結構大変だ。
早く魔法を習得して、浄化魔法をかけようと思うセレナなのだった。