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異世界転移は信じません!  作者: 璃依
~本編~
7/18

7.何で私はこの世界に来てしまったんですか



セレナが出ていった後、クラウスはしばらく呆然としていた。

彼女に振り払われた手を見る。


『放って、おいて』


泣きそうな顔。

あの表情をさせたのは、きっと自分だ。

こうしては、いられない。彼女を探さなくてはならない。


「フィンスターニス」


クラウスの手のひらから闇が宙に放たれ、ある方向に進んでいく。───追跡魔法だ。

時間が立てば追跡魔法は使えなくなるが、今ならまだ追えるはずだ。

クラウスは闇を追いかけ、走り出した。





がさり、と音がして、セレナはそちらを見た。

オレンジ色の髪。髪と同じ色の双眸。


「クラウス・・・何で・・・」


クラウスは安堵の表情を浮かべ、


「ここらは魔獣に襲われる可能性がある。取りあえず行くよ」


「・・・何で」


腕を引こうとするクラウスに逆らい、


「───なんで、追いかけてきたの」


「それは・・・」


クラウスは言葉に詰まった。───今は、それが癇に障る。


「なんで、私はこの世界にきたの。なんで、どう、して・・・!」


セレナの言葉はクラウスに理解できないだろう。でも、言わずにはいられなかった。


見当違いな相手に言って責めているのは分かっている。分かっているのに感情が制御できない。


視界が滲む。クラウスの姿はぼやけてよく見えない。

だから───


「え・・・」


突然温もりに包まれ、驚いた。

声が、すぐ耳元で聞こえる。


「───君が、何に苦しんでいるのかは分からない。でも、これは分かるよ」


「───」


「セレナが、寂しさを隠してるってこと」


クラウスはセレナを引きとめるように抱きしめ、続ける。


「話して、くれる?セレナが何を思ってるのか。───知りたいんだ」


その言葉は、やけにすっと心に入ってきた。

気が付いたら───どうしようもない思いが、溢れ出していた。


異世界に来てしまったこと。どうやって戻ればいいか分からないこと。何もかもが違いすぎて、おかしくなってしまいそうなこと。


クラウスは黙って聞いている。


話し終えても、クラウスは無言だった。

セレナだって、信じられないのだ。戯言と思われるのが『普通』だ。もしくは気が触れたと思われるか、どちらかで───


「───大変だった、でしょ?」


「───っ」


クラウスの言葉は意外で、セレナの心の弱い部分に滑り込み、優しく包みこんでしまう。


「信じ、るの・・・?」


「信じるよ。会ってからそんなに日はたってないけど、セレナはそういう冗談が言える人とは思えないから」


「───ぁ」


涙が溢れた。

自分自身受け止めきれない現実を、信じると言ってくれて。

それが、今までにないくらい───嬉しくて。

嬉しくて、嬉しくて、涙が止まらない。


クラウスに伝えたいことが沢山あるのに、言葉にならない。

だから、最も短い言葉で、最も分かりやすい言葉で。


「ありがとう」



何故、セレナはこの世界にきてしまったのか、それは分からない。

でも。


現実世界でももらったことのない言葉を言ってくれたから。

きっと、私はこのために。

このために、異世界にやってきたのだ。


現実は何も変わっていない。それでも。

───クラウスの言葉で、これ以上ないほど救われた。

その事実だけで、充分だ。


「・・・クラウス」


「どうかした?」


頬には未だ乾かない涙が光っているし、涙声でしまらないが。


「私に、教えて。いろいろなことを」


あれこれと理由を探すよりも、受け入れる努力をしたほうがずっといい。

クラウスは眉を上げ、セレナの顔をまじまじと見ると───


「───分かった。セレナがそう言うのなら」


これが、始めの一歩。

異世界で生きる始めの一歩を、今、踏み出すのだ。


───何度だって、セレナは、立ち上がれる。

一人では辛くて無理でも、手を引いてくれる人がいるから。


セレナは涙の雫を払い、自嘲ではなく本心からの笑みを浮かべる。


───あれほどセレナを苦しめた孤独は、もう欠片も残っていなかった。

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