5.何故私を誘ったんですか
1
結局、クラウスが「ソファーで寝る」と言ってくれたので、セレナはありがたくベッドで寝ることにした。
あっという間に眠りに落ち、気がつくと朝の光が顔を照らしていた。
「ん・・・」
早く着替えて学校にいかないと───と思ってから、ここが自室でないことを思い出す。
ため息をつくのを堪えて起き上がると、声をかけられた。
「おはよう、セレナ」
笑顔で声をかけてくるのは、橙髪で日本人離れした顔立ちの少年。説明するまでもなくクラウスだが、この状況に違和感しかない。
「・・・おはよう」
昨夜と同じ、苔みたいな緑色のシチューを食べながら、ふと何が入っているのか気になって聞いてみる。
「苔とか肉とかだけど・・・」
───本当に苔が入っていた。
口内がなんかやたらモゾモゾする。セレナは聞かなければよかったと本気で後悔した。
食事のペースが目に見えて遅くなる。
・・・人間、知らなくていいことはあると、しみじみ思った。
2
朝食を終えると、クラウスは森へ行くと言った。
「ついてくる?」
と聞かれ、迷った末にセレナは頷く。
クラウスは大きな籠を背負い、小屋を出た。
てくてく歩いていくと、突然クラウスが立ち止まり、声を出さないでと合図した。
セレナの位置からだと何も見えない。
「イグニス」
呟くと同時にクラウスのまわりに炎の矢が五本生み出される。
クラウスは手を持ち上げ、ある一点を指し───
炎の矢が物凄い勢いで発射された。
唖然として見ていると、クラウスは矢を撃った方向に走って行ってしまう。
慌てて追いかけると───
セレナは悲鳴を上げそうになった。
そこにあったのは、半透明でゲル状のもの。
色は黄土色っぽくて、端的に言って気持ち悪い。
「これは『スライム』っていう無生物。僕はこういう魔獣を狩って、それを売って生活してるんだ」
クラウスの言葉は、後半から頭に入ってこなかった。
スライムくらいは、いくらラノベと縁の無いセレナでも分かる。
ただ、ひとつだけ言わせてほしい。
「なんなの、この世界──────!」
その後も、クラウスは魔獣を狩り続けた。人の身長を超える巨大な兎と遭遇したときは、可愛いよりも怖いのほうが勝った。
硬直したセレナに構うことなく、
「スティーリア」
聞こえるか聞こえないかの音量で詠唱、氷柱を生成し、放つ。
断末魔の声が長く、高く響き、セレナは耳を塞いだ。
クラウスがナイフで兎の体を切り裂くのを見て、失神しなかった自分を誰か褒めてくれ。
───クラウスは何故私を誘ったのか。
分からない。分からないが。
・・・人間、知らなくていいことは沢山あると、改めて思った。