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異世界転移は信じません!  作者: 璃依
~本編~
3/18

3.どうすればいいんですか

   1


夜月姫(せれな)は黒い毛皮に顔を埋めていた。───現実逃避したのだ。

だが、いつまでも逃げてばかりはいられない。

勇気を振り絞って、暖炉のそばでナニカをかき混ぜているクラウスに声をかけた。


「あ、あの・・・」


「どうかした?」


「その・・・トイレ、貸して下さい・・・」


───そう、どんなに異世界転移を信じたくなくても、生理現象は起きるのだ。それはもう、人類に与えられた宿命と言ってもいい。


「あぁ、(かわや)なら外だよ。案内するから、ついてきて」


クラウスはトイレという単語に首を捻ったが、夜月姫(せれな)の様子で何を指しているか察したらしい。

・・・しかし、厠って。


小屋の外に出て、裏手にまわったところに厠はあった。小屋の中に戻っていくクラウスを見送り、厠に入る。


「え」


───中は、夜月姫(せれな)の知るトイレとはかけ離れていた。水洗レバーは見当たらない。それどころか、トイレットペーパーもなく、何やら白い布が置かれていた。

違いすぎて、どう使えばいいのか分からない。

夜月姫(せれな)は仕方なく、クラウスに助けを求めたのだった。



   2


「ありえない・・・布に浄化魔法がかかってるとか・・・そもそも、魔法なんて・・・」


テーブルに移動し、夜月姫(せれな)はぶつぶつと呟いていた。

クラウスの話では、置いてあった白い布には汚れない魔法がかかっているらしい。・・・深くは考えない。

魔法まで出てくるとは、頭がおかしくなる。


眠りの海に溺れていれば、この説明のつかない状況は終わるだろうか。


夜月姫(せれな)は基本的に、起こることに説明をつけたいタイプだ。逆に言えば、説明できないことは信じない。というより嫌だ。


つまり、夜月姫(せれな)は今自分の嫌いなものに囲まれているのだ。

見たものが全て、と割り切れない面倒な性格が災いした。


本当に、どうすればいいのか。

ため息をついた夜月姫(せれな)の眼前に、湯気の立つ器が置かれた。中には緑色のどろりとしたものが入っている。お世辞にもおいしそうとは言えない見た目に夜月姫(せれな)は絶句した。

空腹に耐えきれず、迷ったのち目を瞑って口に含んだ。味は悪くない。というか美味しい。

色を無視すればシチューと言えるかもしれない。色を無視すれば。

食べる手が止まらない夜月姫(せれな)を見て、クラウスが微笑んだ。恥ずかしくなって、俯いて食べ続ける。


美味しいと思った自分に呆れつつ、夜月姫(せれな)は安堵を覚えてもいた。


「好きなだけ、食べていいよ。ええと・・・」


「───夜月姫(せれな)


クラウスが驚いたように目を見開いた。


「私の名前は、夜月姫(せれな)


「セレナか。いい名前だね」


───異世界転移なんて信じない。理解できない。これから何をしていけばいいのかも分からない。正直分からないことだらけだ。


でも。


悪くはないかも、と少しだけ思った。

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