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異世界転移は信じません!  作者: 璃依
~本編~
2/18

2.夢なら早く覚めてくれませんか



ふわふわの感触が頬に触れ、夜月姫(せれな)は目を開けた。

もう朝か、と思ってから、寝る前のことを思い出す。


「───っ!」


今の今まで夜月姫(せれな)が寝ていたのは、知らないベッドだった。体の上には何やら黒いものがかかっている。


「あ、起きた?」


ふいに声がかけられ、夜月姫(せれな)はびくりと肩を震わせた。恐る恐る、声のした方を見ると───


鮮やかなオレンジ色の髪を持つ男がいた。

男、というより少年と言った方がしっくりくる。

いや、そんなことよりも───


「・・・橙、髪・・・」


・・・私はまだ、夢を見ているようだ。


「良かった。僕はクラウス。君は?」


クラウス。どう考えても、日本の名前ではない。


「これは夢、これは夢、夢・・・」


自らに暗示にかけるように虚ろな顔で繰り返す夜月姫(せれな)をクラウスは不思議そうに見て、


「君、家はどこなの?」


一番聞かれたくない質問。夜月姫(せれな)は俯き、無言を貫いた。

その姿に何を思ったのか、クラウスは表情を曇らせ、話したくないなら話さなくていいと言った。


「いたいだけ、いればいいよ」


とだけ残して、外に出て行く。

夜月姫(せれな)は顔をあげ、自分のいる場所を確認した。

丸太小屋のような建物は一階しかなく、トイレや風呂場などは見当たらない。家具も大きなテーブルとソファー、ランプと暖炉、そして夜月姫(せれな)が座っているベッドしかなかった。


「なんで、こんなことに・・・」


夢なら早く、早く覚めてくれ。

落ち着いたカラーでまとめた家具。辞書が収まった勉強机。お気に入りのクッションにふかふかの毛布。自室が懐かしくて、恋しくて、戻りたくてたまらない。

子供のころから使っている毛布ではなく、黒い毛皮のようなものを引き寄せ、夜月姫(せれな)は顔を覆った。



三十分くらいすると、外に出ていたクラウスが戻ってきた。


「はい、君の荷物」


差し出されたのは通学鞄だった。黙って受け取り、己の体を抱く。

次いで渡されたのは服。どこか着物に似ていて、着るのは大変だったが、制服をいつまでも着ているわけにはいかない。仕方なく、言われるがままに着替えた。


クラウスは気を遣ってくれているのか、話しかけてくることはなかった。好都合だ。

彼と話していると、知りたくないことを知ってしまいそうだから。


私は、信じない。信じたくない。


───これが夢ではなく現実で、自分が異世界転移したのだということを。

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