11.それってどういうことですか
1
「今日は、街に行ってくるよ。セレナもくる?」
朝食を食べながら、クラウスが聞いてくる。
「行きたいけど・・・何か、用事でもあるの?」
「魔獣の毛皮とかを売りに行くんだ」
セレナは器の中の肉らしきかたまりをすくい、口に運ぶ。癖がなく、美味しい。
「これ、何の肉?」
クラウスは微妙な表情になり、
「・・・言ってもいいの?」
嫌な予感がして、鶏肉に似た味の物体を───
「ん?」
いつだったか、聞いたことがある。
───兎の肉は、鶏肉に似ていると。
「クラウス。・・・分かったから、言わなくていいよ」
「そ、そう」
先日の巨大生物解体ショーが蘇りそうになり、セレナは思考を止めた。
「と、とにかく、街には私も行くから!」
慌てて言うと、クラウスは唇をゆるめ、笑った。
2
森を出て、しばらく歩くと街の入り口が見えてきた。
森から最も近い街、『プリエール』。
プリエールに来るのは今回が初めてだ。
商店が建ち並ぶ通りを、クラウスはすたすたと歩いていく。気のせいか、表情は強張っているように見えた。
「にゃ」
セレナの肩には小さな黒猫───ノワールがのっている。落ちないようにそっと手でおさえ、セレナは改めてあたりを見回す。
一言で言えば───中世ヨーロッパの街並みに近い。
厠とか言うので昔の日本みたいな光景を想像していたのだが・・・不思議だ。
クラウスはある店の前で立ち止まると、中に入っていった。
この世界の不思議なところは、外観だけではない。
文字が、読めないのだ。
言葉は普通に通じるのに、文字だけはだめだ。
クラウスに一から教えてもらっているのだが、まだまだ覚えられない。
「メ・・・リ?ル?」
店の名前を読もうとするが、最初の一文字しか分からなかった。
クラウスを追いかけて入ると、中には初老の男性と、店主らしき人がいた。
「いらっしゃ・・・クラウスか。今日は連れがいるのか?」
「・・・その呼び方、やめてくれないかな。僕は馴れ馴れしくするつもりはない」
「相変わらず、だな。・・・何を持ってきたんだ?」
商談を始めたクラウスから意識をそらし、店内を見ていると、最初にいた客から声をかけられた。
「嬢ちゃんは初めてか?この店は」
「そうです。・・・ええと、あなたは・・・」
「俺はハイレンだ。すぐそこで治療院を開いている。今日は、薬の材料を買うために来たのさ」
「薬の材料?」
聞き返すと、ハイレンは丁寧に説明してくれた。
「魔獣の中には核があってな。それがよく効くんだ」
「へえ・・・」
と頷いてから、自分が名乗っていなかったことに気付く。
「申し遅れました。私はセレナといいます。肩にいるのはノワール」
「礼儀正しい嬢ちゃんだな。───クラウスとは、仲がいいのか?」
「ええ、まあ・・・彼には、小屋に住まわせてもらってるんです」
ハイレンは驚きの表情で、しばし硬直した。その反応の理由が分からず、セレナは首をかしげる。
「・・・嬢ちゃんは、何であいつが一人森に住んでいるか知ってるか?」
「いいえ、知らないです」
ハイレンは目を瞑り、そうか、と短く呟いた。
「クラウスはな、人と関わりたくないんだよ。人と関係を持つことに、恐怖すら覚えてる」
「人と、関わりたくない・・・?それって、どういう・・・?」
「おっと、これ以上は本人から聞いたほうがいい。・・・俺が話すべきじゃなかった」
どこからともなく紙とペンを取り出し、さらさらと地図をかいてセレナに渡し、
「何かあったらここに来てくれれば、できることはする」
それから、クラウス達の方を向き、
「メルカートル、今日は帰る。また後日だ」
メルカートルという名前らしき店主にそう呼びかけ、ハイレンは帰っていった。
クラウスを待つ間も、ハイレンの言葉が耳から離れなかった。




