1.ここはどこですか
1
私───中学三年生の藍沢 夜月姫は、頭を抱えていた。
普通に授業を受け、普通に学校を出て、普通に帰路についたのに。
「ここ、どこなの・・・」
コンクリートで舗装された道路を見つめ、早足で歩いていたら、突然土がむき出しの地面になったのだ。
周囲を見渡すと、前後左右木で囲まれているのが分かる。歩いてきた道路も消え、夜月姫はひとり、どこともしれぬ森の中に立っていた。
2
夜月姫は近くの木に寄りかかり、目を閉じた。
今日は授業で疲れただけだ。これは幻覚。自分の背に当たるのは木の皮じゃない。滑らかな電柱。
目を開ければ、見慣れた道が───
「・・・もう、訳分かんない・・・」
期待は儚く砕け散った。夜月姫は木に背を預けたまま、座りこむ。
ふと、何かが頭に落ちてきて、それをまじまじと見つめた。
ピンポン玉くらいの大きさの、果物だろうか。形は林檎に似ている。ただ・・・色が。
青いのだ。緑とかそんなものじゃない。雲一つない空をうつしたような青色。
こんな果物、見たことがない。おかしな事ばかりで、脳がパンクしてしまいそうだ。
幻覚でないなら、夢。それも、出来の悪い。
夢ならば、眠れば覚めるかもしれない。きっとそうだ。
夜月姫は青い果実を地面に投げ、膝を抱えた。
疲れ切った意識はすぐに夢も見ない深い眠りの中へ誘われていった。
3
クラウスは、慣れた手つきで魔獣の体を処理していた。解体作業は嫌いだが、ちゃんとやらねばならない。
血の匂いに顔をしかめ、ナイフを滑らせていく。
今回仕留めた魔獣はヴァーイと呼ばれる種類だ。引き締まった体つきに黒い毛。この毛皮はコートにすると暖かく、希少なので高値で売れるのだ。
利用できる部分だけを背負い籠にいれると、クラウスは立ち上がった。
迷わぬようつけてある木々の印を辿って、家に戻る途中。
布のかたまりのようなものを、視界の端に捉えた。
訝しく思い、近付く。布のかたまりではない。少女だ。少女が、うつ伏せに倒れている。
黒くて長い髪に、珍しい服。
口元に手をかざすと、息がかかった。───どうやら、眠っているだけのようだ。
「・・・どうしようか」
眠っているのなら、このまま何もせずに立ち去ればいい。なのに、体は動かない。
暫く悩んだ後、クラウスは魔獣に襲われると悪いからと自分に言い訳し、少女を抱え上げたのだった。
ありがとうございました。
『流星と寄り添う夜』という話も書いているので、そちらもご覧ください。