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6月3週 木曜日 その2

村34 町36

ダ33 討伐1 フ8

人1 犯1

魔100 中12 上1

剣100 剣中12 剣上1

回復39

治療39

採取77

草16 花5 実33

料理7

石工3

木工11

漁1

歌3

体55

女7

『アンネ・アールセドルーン

  ジョブ:槍士

  HP:100 MP:100

  ATK:5 DEF:5

  CO:--』


「止まれ! 命令だ! 止まれ!」

 店主は叫んだ。命令と付け加えているから、奴隷にとっては必ず実行してしまう強制力をもった言葉なのだろう。

 しかし女に状態異常の奴隷はない、主人の手続きとやらが失敗したのか。その辺りは俺には分からないが、店主の命令に意味は何一つなかった。あったとすれば、女の激情にさらに火を注ぐことくらいか。


 女はさらに険しい表情をみせ、髪を逆立てるほど憤っていた。


「私は奴隷じゃない!」女は叫ぶ。「奴隷にもならない。絶対に、絶対に!」

 奴隷が身につける首輪は腕輪などを身に付けておらず、凹凸のあるスタイルを隠しきれない布きれ1枚を身につけ、槍をもっているだけの女。

「どけ、私はここから出て行く!」

 激情のままにそう叫び、その槍を俺や店主に向けた。


 その構えを、他の誰かがどう見るかは分からないが、俺には天賦の才を内包しているように見えた。ああ、そうだ、これが天才だ。俺はそんなことを思った。


「こ、ここから出ても、すぐ追っ手が出るぞ! 逃げ続ける生活になるんだぞ!」

 女の言葉を受け、店主は叫ぶ。


「構うものか!」

 しかし女は躊躇なく言い切った。

「奴隷になるよりはマシだ! 奴隷になるくらいなら、私は、私は――っ」


 こんな天才が、どうして奴隷になっているのかは知らない。天才なのだから、そんな事態には陥らないように思うが。

 まあ、色々あるのだろう。奴隷に落ちることもあるのかもしれない。ただ、最終的にはきっと帳尻があう。諦めず、最後には必ず達成するのが、天才なのだから。

 俺には、到底できず、そして望むべくもないことだ。


 だから、眩しかった。

 見ているだけで、自分の人生に意義を見失って、膝から崩れ落ちて、これから先ずっと目を瞑って生きていきそうになるほど、女は眩しかった。


 しかし、それ以上に、俺は心の底から苛立っていた。

 嫉妬と混じって、その感情は女の目を見る度に大きくなる。いつの間にか奥歯がギリギリと音を鳴らすほどに。


 女が言わなかった言葉のその裏側、その言葉が、俺には分かった。あの目に見覚えがあったからだ。

 そしてそれは、俺にとって世界で一番許しがたいことだった。


「そこをどけ――!」

 女は赤く長い髪が尾を引くほどに鋭く踏み込み、突きを放ってくる。


 距離は槍の距離で、剣は届かず、視界に青い線はない。が、その分、赤い線が克明に見えた。

 放たれた肩への受け辛い突きを、俺は後ろ足を下げて半身に構えることで躱した。


「――っ?」

 女は、ほんの僅かな動きで避けられたことに、驚愕の表情を隠せないでいた。だから俺はすかさず剣で反撃に出る。


 槍が引かれる動きに合わせて、一歩前に出た。そこは、剣の距離。

 俺は前進する勢いのまま、突きとも振り下ろしともとれるような軌道で、女の視界を遮るように剣を振った。


 女にとって、初撃を避けられることがそもそも予想外だったのだろう、隙をつかれ、俺の意図するがままの行動をとる。

 視界を塞がれたことで、俺の次の行動への対処が遅れた女。その成果として、俺の視界には、女の胴へ向かう色濃い青い線が見えた。

 青い線は、攻撃すれば命中する、というライン。


 青い線が表示される基準は、直撃だけではなく、命中する攻撃全てに対して。

 そして命中の基準とは、上手く防がれはしない、というもの。

 例えば、簡単に躱されたり、勢いを全て殺されるような受け方をされ反撃に繋げられたりするような攻撃は表示されないが、体勢を大きく崩すが避けられる攻撃や、反撃できないがギリギリ受けられる攻撃も表示される、ということだ。


 そのため信じて行動すると、たまに痛い目を見ることになる。

 だが、慣れた今は、色の濃淡や、雰囲気で判別できる。


 回避されるが有効な攻撃なのか、防御されるが有効な攻撃なのか、回避も防御もできない直撃なのか。

 女の胴を一閃するように見えた青い線の色は濃く、間違いなく回避も防御もできない直撃だった。


 近頃は、青い線の通りに振ろうとしても、体が変に固まってしまったりしてブレるので、青い線の通りに振ることはやめていたのだが、今回はなぜかそれを忘れていた。

 そしてそれが功をそうしたのか、剣は青い線に完璧に一致し進む。


 流石に、防具をしていない相手に刃を当てると、胴が真っ二つのスプラッタな状況になってしまうので、攻撃は剣の腹。

 それでも骨が折れるか、それくらいの威力のある一撃。

 一発で戦闘不能にできる。


 ――これで終わり。

 俺は、そう思った。


 しかし、天才は、天才以外の者達の強さなど、簡単に踏み躙る。

 例え心の支えにしているような強さですらも。


「く――っ」

 女が忌々しげに声を出した次の瞬間、ガンッ、と音がなった。

 その音は、金属である剣の腹と人の体がぶつかる音ではない。金属である剣の腹と、木の槍がぶつかった音だ。


 女は、防御していた。

 青い線の直撃が出ていたにも関わらず。

 女にとって青い線の直撃は、たった一つ、忌々しげに声を出せば、それだけで防げる程度の攻撃でしかなかった。


「――はっ?」剣を弾かれた俺は、思わずそんなことをマヌケに口にした。

「でやああ!」

 その瞬間、体勢が崩れてもいなかった女は、俺に向けて槍を繰り出す。


「――っと」

 すぐに気を取り直して、見えた赤い線に対して回避運動をとった。顔の端を狙ってくるようなこの突きを回避し、次の攻撃に繋げようと。

 だが、俺が上半身を少し屈めた辺りで、信じられない光景が目の前で起こる。


 赤い線が、途中で消えたのだ。

 今まで、赤い線は絶対だった。こちらが先に攻撃して止めるなければ、なくなることはなかった。ライアスさんだって、自分が死ぬ攻撃が放たれても、攻撃をやめられなかった。

 なのに女は、こちらが回避を匂わせただけで、赤い線が既に引かれた攻撃を引っ込めた。いや、元々フェイントだったのかもしれない。赤い線ごと、フェイントに騙されていた。


 そして瞬時に、違う赤い線が現れた。それが示す攻撃のタイミングは、今まで見た中で最も早い。


 俺は例え体勢が崩れても良いからと、その攻撃に対して全力で回避運動をとった。

 攻撃は槍の石突を振り上げる攻撃。屈んで下がった顔を狙うものため、下がれば当たらない。

 回避できれば、体勢が崩れても距離をとったことで仕切り直せる、そう考えて。

 けれども振り上げは、まるでクレーアントの突進のように、俺が下がったら下がった分伸びてくる。あんな風に途中で軌道を変えられるような攻撃ではないのに、俺が避けたら避けた分だけ。


 槍の木の部分が、俺の頬から眉までの皮膚を削っていく。

「っつう!」

 どんと尻餅をついて、しかしすぐさま立ち上がる。


 ああ、これが天才だ、と、俺は改めて思った。

 こちらの努力も、才能も、持ち得る能力も経験も、彼等の前では何一つ役には立たない。


 赤い線が迫る。

 俺はそれを防ぐよう立ち回る。剣で弾き、時には躱し。

 しかし、赤い線は消え、変化する。体は削られ、そして反撃に出ても、青い線は必ず防がれた。


 確かにこの線は、先読みの力としては役に立っていると思う。曲がりなりにも致命的な怪我を負わされていないのは、赤い線や青い線があるおかげだ。

 けれど、俺には、今まで積み上げた物がボロボロ崩れていくように感じられた。

 異世界でやっていけた1番の要因。

 全幅の信頼を置いていた強さ、それが根本から、覆された。


 これから俺は、なにを信じてやっていけば良いのか。

 絶対ではない指針を、これから信じられるのか。


 無理だ。

 俺はもう、この力を信じられない。


 ああ、これが天才だ。

 努力も能力も経験も、今まで信じていた事すらも、そんなものに毛ほどの価値もないと、ただただ己の才覚のみで、全てを蹂躙するのだ。


 本当に、眩しくて見ていられない。

 目が潰れてしまうんじゃないだろうか。天才を間近で見てしまえば、あとはもう、目を逸らすことでしか生きていけない。


 だから俺は本当に羨ましくて、妬ましくて、そして怒り狂いそうだった。


 それだけの才能があって、なんでお前は!


 槍での突きが俺を襲う。

 その攻撃を見れば分かる。その意図が。


 狙っている箇所は体の隅。当たっても致命傷にならない場所。

 時折ある体の中心への、致命傷を与えられる一撃は、決まって俺が防御可能なタイミングで繰り出され、そしてこちらがどれだけ事前に防御行動回避行動を取ろうとも、赤い線は変化せず、当たることは一切ない。


 俺はギリっと奥歯を噛む。


 そして俺から見える青い線は、致命傷を与えられる場所ほど、色濃く見える。

 つまり、女は、致命傷にならないような場所を守り、致命傷になるような場所を守っていない。

 剣の腹で叩くなど、命に関わらないが行動不能になるような攻撃ばかりを防御して、いざ本当に首を刃で狙えば防御しないのだ。


 試しに、俺は胴めがけて剣を振った。今度は剣の腹ではなく、刃で斬ろうと。

 当たれば即死だ。胴は真っ二つになる。

「――っ」

 女はその狙いに気付いた。さっきは防御できたようなタイミングで気づいている、だから防御できるのだ。


 しかし、女は守らなかった。

 ボロボロの服1枚でしか守られていない胴へ、剣が入る。


「こんの――っ」

 俺は、無意識にそう口にしながら、あらん限りの力を使って剣を途中で止めた。

 そして、勢いをゼロにしてから、刃で押し出すように女を払った。流石に刃物と言えど、勢いがなければ人の体を切り裂くことはできない。

 肌は斬れ、赤い血が滲んでいるが、切り傷程度だ。


 女は自分の傷を見て驚いたような目をして、俺をキッと睨む。


「くっ――、……、――戦え!」

 そして悲痛な顔で叫んだ。それはつまり、やっぱり、そういうことなんだろう。


 ああ、本当にムカツク。

 はらわたが煮えくり返るとはこういうことを言うのかもしれない。歯はギリギリと鳴り、剣を持つ手は力が入りすぎてプルプルと震える。多分、人生で一番ムカついていた。


 それだけの力があれば。

 それだけの才能があれば。


 きっとお爺さんを助けられた。ケビンさん達も助けられた。異世界に来ることすらなかった。

 あの時もあの時もあの時も、何もかも諦めなくて済んだ!


 なのになんでお前は――。


「たかだか、奴隷になるくらいのことで――っ」


 たったそれだけのことで、命を捨てようとしてるんだ!

お読み頂きありがとうございます。


ブックマーク、そして感想ありがとうございます。そろそろ100話、頑張ります。

すぐにその3を投稿致します。と、言いたいところですが、先にアイスを食べてきます。

頑張ると言ったのに、申し訳ありません。

スイカバーの誘惑には勝てません。

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