6月3週 木曜日 その1
村34 町36
ダ32 討伐1 フ8
人1 犯1
魔100 中12 上1
剣100 剣中12 剣上1
回復34
治療39
採取77
草16 花5 実33
料理7
石工3
木工11
漁1
歌3
体55
女7
奴隷は、スキルによって作られる。
ジョブ、奴隷商人のスキルによって作られた装飾品を装備した者が、状態異常奴隷を受け、奴隷となるのだ。
奴隷となれば、自傷と、設定された主人に危害を加えることができなくなる。
行動を起こしたとしても、いざ自傷や危害を加えようとすれば、体が硬直したように固まってしまい、以後は体を動かせなくる。
また、なされた命令に対しても、絶対服従を強いられる。
奴隷は物として扱うと決まっているが、そう扱えるだけの理由があった。
ただし、命令に絶対服従と言っても、そうさせられる命令は、行動を禁止する命令のみ。本人の意思に反するような行動をしろ、と命令しても、奴隷は拒否が可能である。
また、禁止の命令であっても、解釈次第で抜け道はいくらでもある。
例えば夜の営み禁止と命令を受けても、じゃあ昼なら良いと解釈できるし、行為自体禁止、と命令されても向こうから動いて貰えば問題なく、これは調子を整える治療行為、と思い込むことで可能となったりもする。
つまり、奴隷であっても、やりたくない事ならばやらなくても良いし、やりたい事はできるのだ。
冒険者として戦うことも、夜の営みの性的奉仕も。意思を無視して強制されることは、本来ありえない。
本質は自由だ。
しかし、現に世の中の奴隷のほとんどは、命じられたことを命じられたままに行う。例え命の危険がある行いや、自らの尊厳を陥れる行いでも。
ゆえに、奴隷は、状態異常をかけられているから奴隷なのではない。
奴隷という環境に置かれ、自らを奴隷と認識しているから奴隷なのだ。
反抗する気概を失い、命令を聞く方が楽と考え、古い衣服になけなしの食事におんぼろの宿、その暮らしで満足する。
奴隷ではない者達が送る生活のことを、まるで遠い違う世界のことのように思い、同じ奴隷同士で、主人の悪口を言ったり傷を舐めあい、日々を送る。
そうやって自らの心までをも奴隷に陥れ、1人の奴隷が完成する。
彼等は夢を見ない。叶うはずのないことを願い続けるのは辛いから。
だから同じ境遇の者や自分以下の待遇の者を見ては満足し、自分以上の者には影で悪態をつき、自分の主人には媚を売る。
どこかで聞いたことのある話だ。
全く、悲しくなる。
ま、どこの世界でもどこの誰でも同じなんだろう。
奴隷だからそう考えるというわけでもない。俺が特別というわけでもない。
だからこそ、同じ境遇に立たされた中で、もがく人を見て心を動かされる。
挑戦を馬鹿だと思い、失敗すれば笑い、成功すれば妬み、そんな人生を自分も歩みたかったと渇望する。
本当に、とても輝いているように見えるのだ。
それが、特に、自分が到底辿りつけないような場所まで行ける、天才であったならなおのこと。
眩くて、眩くて、見ただけで目が潰れてしまうかもしれない。
俺には、赤い髪をなびかせ槍を振るう彼女が、眩く輝いているように見え、そして、心の底から嫉妬した。
今朝方早くダンジョンに向かい、自身最高の稼ぎである銀貨14枚を稼ぐと、俺は一旦部屋で休憩し、奴隷商の店へ向かった。
「お待ちしておりました」店主はそう言って俺を迎え入れた。「素晴らしい奴隷が7人も届きました」
そう言う店主の顔は、とても明るく自慢気で、俺の期待も膨らむ。
「それは楽しみですね」俺は素直に、店主の笑顔にそう言った。
「ええ、おかげさまでその内5名は、もう買い手がつきましたよ」
しかしそう付け加えていたので、俺の期待は急速に萎んだ。
けれども、売れ残っている奴隷は、丁度冒険者家業をしていた奴隷だったようだ。
「冒険者の奴隷は強く、万が一暴れた場合の用意が必要になりますので、最後になるんですよ」
「へー。……ん? どういうことですか? というか、暴れるの禁止、って言っておいたら良いんじゃ?」
「奴隷の主人を変更する手続きの順番の話です。父の方で働く者が主人だったのですが、この店に置き、命令を聞かせるためには、それをこちらの店の者に変更しなければなりませんので。その手続きの関係上、一瞬主人がいない状態になりますから、その隙を狙って暴れる冒険者もおりましてね」
「ああ、そういう」
「ええ。今、最後の一人が、奥で主人の変更中です。先に終わった方の奴隷を紹介しましょう。なんと25階で戦っていた男です。年齢は36歳ですが、お買いですよ」
そう言って店主は奥に引っ込むと、奴隷を1人連れてきた。
身長は170cmないが、恰幅はよく、厳しい顔立ち。
筋肉がかなりついており、頑丈そうで、手には剣を握ってできる分厚いタコができている。
「へー、強そうですね」
「でしょう?」
そう言った俺の言葉は、今回は本心だ。
佇まいというか、そんなものが前回見た奴隷とは違った。
どの程度の才能があるのかは分からないが、平凡とは言い切れないほどの才能を、俺は男から感じた。
値段は、金貨7枚と銀貨50枚。
36歳という年齢のため、かなり安い値段になっているそうだ。俺には手頃でありがたい。
俺が少し乗り気だと思ったのか、店主はテンションが上がったようだ。
「ちょっと武器を振らせてみましょうか? おい、剣と槍を持って来てくれー」店主は部屋の奥の扉、バックヤードへ繋がる扉に向かってそう声をかけた。
そして店員が持って来た武器を受け取ると、奴隷に握らせた。
まずは槍。
空気を切り裂く音を軽快に鳴らしながら、男は槍を手足のように扱う。
その腕前を、剣術暦3ヶ月未満の俺は、イマイチ判別できない。けれども、俺よりは上手そうだった。
25階で戦ったことがある、なのか、25階で常に戦っていた、なのかは不明だが、俺より強いのかもしれない。まあ、俺の強さは、青い線赤い線と、それを活かすこの頭脳だが。
「ほっほー、いやはや、凄いもんですねえ。私は荒事はからっきしなんですがね!」
店主はなぜだか凄くテンションを上げていた。アホ面で喜んでいる。
正直、商人失格くらいに素直そうな愛すべき馬鹿な店主だと思う。まあ、だからか好感は持ってしまう。
買おうかな、と心はそれなりに傾いた。
「エト様は確か、剣をお使いになるのでしたか」
「ええ」
「でしたら、剣の腕前をお見せするのは気をつけた方が良さそうですね。はははは」
「あー。しっかりチェックしますよー。はは」
奴隷は槍を部屋の奥にある扉の付近に立て掛け、代わりに剣を握る。
買うことを真剣に考えた俺は、その剣捌きをしっかり見るため、男の動きに集中する。
が、その瞬間――。
「うわああああー!」
叫び声が響いた。
叫び声の主は俺でもなければ、その奴隷でもなく、そして店主でもない。俺達がいる部屋の外から聞こえてきたものだ。
ビクリと体を震わせた俺達3人は、すぐさまある一点に目を向けた。そこは、部屋の奥の扉。バックヤードに繋がる扉。
「ま、まさか、受継ぎ失敗? あの奴隷が……」店主は目を見開き、そんなことを口にする。
俺と奴隷の男はその言葉を受けて警戒を高め、俺は椅子から軽く腰を浮かせた。
その叫びがスライムが出たからとか、そんなのだったら良いなあと俺は思ったが、しかしすぐに店主の予感は当たっていたと知る。
「うわああああー!」店員が木の扉を無理からにこじ開けて、いや、体で押しのけるように飛んできた。
店員は外れた木の扉と一緒に部屋に転がりこんできて、床をゴロゴロと転がる。頬のところが赤く腫れ、みぞおちの辺りを押さえるようにしてうずくまっている。
「だ、大丈夫か!」
店主はそれに駆け寄って行った。あまりにも無防備に。
「あ、おい待て!」
俺は止めようと声をかけた。マズイと思ったからだ。
誰かにふき飛ばされてきた奴に近づく、それがどういうことかなんて、考えればすぐに分かる。
だが店主は考えなかった。荒事の経験がない上に凡人だから、そこまで頭が回らないのだ。
痛そうにしている部下のことで頭をいっぱいにして、店主は扉の向こうから近づいてくるそいつに気づいていない。
そいつは店員を追ってか部屋に入ってきて、槍が立掛けられていることに気づくと、その槍を手に取った。
俺はチラリと男の奴隷を見た。
男の奴隷は剣を持っているが、しかし動く気配は見せない。咄嗟のことで、混乱しているようだった。
使えない。
そして槍は、店員の傍で腰を抜かしへたり込んでいる店主に向けて、真直ぐに放たれた。
鋭い突き。
どこを狙っているのかは不明だが、食らえば死ぬかもしれない。死ななくても大怪我だ。
血が出るだろう、赤い血が。滴る程に。それは、嫌だ、止めなければならない。
「ええい――」
俺は一か八か、踏み込んだ。
その瞬間、赤い線が見え、攻撃の軌道とタイミングを予測できるようになった。
攻撃は店主の肩口目掛けて、タイミングは……。
「ここだ!」
そう言って放たれた俺の蹴り。前蹴りのような形で、足の裏で蹴りつけるような攻撃は、見事に槍の柄を捉えた。
横から柄を蹴られたことで、槍はその軌道を大きく変え、店主のすぐ横をすり抜けた。
「○○○○○、アイテムボックス」
そして俺は剣を持ち、倒れる店員と腰を抜かした店主の前に立つと、乱入者であるそいつを正面から見据えた。
赤く、長い髪。
耳の上からは、短いがルビーのような宝石状の角が斜め後ろに向かって生えている。
顔立ちは厳しい印象。
キリリと整った赤い眉に、キレ長の目、赤い瞳。冷たい印象を受ける顔立ちだろうに、そこからは燃えるような赤い情念が感じられた。
それはきっと、彼女が怒っているからもあるだろう。
「邪魔をするな! 私は……私は奴隷になんてならない! だから――!」
槍を構える彼女は、とてもとても美しい女性で、激情を表に出せる奔放さを持ち、どんな状況に陥ってももがき続ける強さを持ち、そして、見ていると目が潰れてしまいそうなほど眩い、天才だった。
お読み頂きありがとうございます。
続きはありますが、眠いので寝ますっ。すみません。明日投稿します。おやすみなさい。




