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4月1週 水曜日 その1

魔1

剣1

 装備は、武器と防具に分かれる。


 それらは、装着していない場合は重さを感じるが、装着したその瞬間に、重さは感じなくなる。

 また、それらにはサイズという概念がなく、装着すれば武器も防具も適したサイズに変化する。


 異世界生活4日目。


 俺はついに活動を開始した。

 した、と言うより、せざるを得なかった、か。

 お金がないのだから活動しなければいけない。


 学生の内からこんな貧乏を経験することになろうとは。

 こんな貧乏をするのは1人暮らしの社会人からだと思っていた。


 まあ、つまりは俺も1つ大人になったということなのかもしれない。


 そう前向きに考え、俺は、部屋の扉を勢いよく開けた。

 そうして宿屋の主人に、「ダンジョンへ行ってくる」と言い残し、宿屋から出て門側、つまりは右手にあるクリーニング屋へ。


 洗浄に出していた装備を返品して貰い、俺は1つ1つを装着していく。


 メットのような、兜のような、そんな頭装備。頭に乗せただけで、どれだけ激しいヘッドバンキングをしようが落ちない優れ物。


 胴装備は、鉄製の胸当てに皮のなんやかんやが付いているもの。Tシャツのように着るタイプなので、頭装備を着ける前に、本来は装備しなければいけないのだろうが、この状態でも簡単に装備できた。


 残るは、腕装備、腰装備、そして足装備。

 鉄やら皮やら、ともかくも、人生で1度も身に付けたことの無い防具。


 そうして俺は、異世界に転移してきた時と同じスタイルになる。


 そうしてクリーニング屋のお婆ちゃんに、「ダンジョンへ行ってくる」と言い残し、クリーニング屋から出てすぐ右にある門を通る。


 門まではとても近い。

 それは、立地が良いからとかではなく、村が小さいから。十数軒がまばらに建つ村なんて、学校のグラウンドよりも小さい。


 門の横に暇そうに立っている門番1人に軽く挨拶をして、俺は、右手にある林の中の道を進んで、広場へやってきた。

 魔物が出てきた例の広場だ、今は1輪の花が添えられている。


 花から目を移し広場の中央を見れば、そこには、入り口が不自然に黒い洞窟があった。


「おおおー、黒い……」


 思わず、その黒さに感嘆の声をあげる。


 人の背丈を軽く越える大きな洞窟の入口には、太陽の光が差し込んでいるはず。

 しかし、そんなことが一切感じられないほどの黒さ。


 テレビかネットか、どちらか忘れてしまったが、この世で最も黒い物質、そんなものを見た記憶がある。

 あれと同じかそれ以上に黒いんじゃないだろうか。

 そう言ってしまうのも仕方がない。


 しかしそのせいで、遠近感が全くとれず、奥行きが果たしてどこまで続いているのか全く分からない。

 暗いと言うよりも、黒いカーテンがかかっているよう。

 ほんの1mmも凹みすらないようにも見えれば、奈落の底と表現できるくらいに続いているようにも見える。


 ちなみに正解は、1mmも凹んでいない方だ。


 靄状の黒が、幕を作っている、それがこの黒の理由である。


 俺はそれに手を触れた。

 すると、波紋のようなものが広がる。


 ズブズブ……、と、別に手を入れることで何か効果音が出るわけじゃないのだが、頭でそんな音を勝手につけたしながら俺は手を入れていく。入れた手は、黒に隠れて何も見えない。


「こわいなぁ……」


 しかし行かざるを得ない。

 意を決して、黒い靄状のゲートに頭から突っ込んだ。


 そうして、1歩。

 その1歩で、景色は一変した。


 床も、壁も、天井も。

 全てがレンガで作られたかのような、通路に変わっていたのだ。


 レンガの大きさは、全て均一で、道の高さや幅は、完全な正方形。


 太陽の光も入っていなければ、電気もなく、松明やらの明かりもないと言うのに、なぜだか道は奥の方まで見ることができ、やはりどれほど奥を見たとしても、道の高さや幅は完全な正方形。


 人の手が明らかに加えられている人工の空間にしか見えないのに、あまりにも均一なその空間は、人が作ったものではないと実感させられる何かがあった。


 いや、実際に、人が作ったものではないに決まっている。


 こっちの世界に来て感じた技術力は、相当に低い。トイレですらあの様子だ。


 その程度の低い技術力で、ワープゲートが作れるはずがない。


 俺は後ろを振り返る。

 本来なら、俺は洞窟の中へ入ったわけだから、後ろを振り返ったなら、そこからは太陽に照らされた林が見えるはず。


 しかし、外の景色は見えない。

 太陽の光は入ってこない。


 あるのはやはり、レンガで作られた壁と、今度は真っ白の靄状のゲート。


 手で触れれば、先ほどの黒いゲートと同じように、中へ入れた分の手が見えなくなる。

 これは、出口だ。


 ここから出るための。ダンジョンから出るための。


 先ほどの黒い靄はここへ入るための入口。

 そう、ダンジョンへ入るための入口。


 ここはダンジョン。


 カルモーダンジョンと呼ばれるダンジョン。


 そう、俺はダンジョンへやってきた。

 エト、インダンジョンである。

 ダンジョンに入った男子高校生なんて俺くらいじゃないか?


 なんかワクワクしてきたぞ。


 あと素手でウンコした後のケツを拭いた男子高校生とかも俺くらいかもしれないな。


 なんかワクワクしてきたぞっ。


 しかし、ワクワクしてばかりはいられない。

 いやウンコでワクワクするのもおかしいな。ともかく今俺は、カルモーダンジョンにやって来た。


 理由はもちろん、生活費を稼ぐため。


 カルモーというのはこの村の名前であり、町や村の近くにダンジョンが一つ、という場合は、基本的にその町や村の名前を冠名にするようなので、そう呼ばれる。


 ダンジョンというのは、平たく言うと化物、魔物と呼ぶらしいが、そいつらがいて、倒して稼いだり、回避しながら宝を目指したり、そんなところだ。

 

 1階、2階、と階数があって、階が増える。こっちの世界の人達風に言うのなら、深くなるに連れ出現する魔物が強くなるが、より高値で売れるようになり、宝も良くなり、よりお金が稼げるようになる、とかなんとか。


 カルモーダンジョンは出来てから9年目の若いダンジョンで、 最深階は現在16階。


 出てくる魔物は全て虫系であり、1階は来た初日にも見たクレーアント。

 1階のボスはその時1匹だけいた巨大な蟻、キングアント。


 2階になるとフトリポリと呼ばれる、説明を聞く限りじゃあダンゴ虫の魔物で、ボスはいない。


 3階は……、とまあ、そうやって出てくる魔物はどんどん変わる。ちなみに3階にもボスはいない。


 なお、ボスがいない理由は、説明してくれた鎧の人によると凄く常識的なことだそうで、聞けなかったが、ヘルプに質問したところ、ボスがいる階層は最深階から数えて5階毎のみらしい。

 カルモーダンジョンだと、最深の16階と、11階、6階、1階が該当する。


 1階にボスがいたせいで、ボスがいるのが普通、と思ってしまったが、どうやらいないパターンの方が多い。


 良かったと、その時は素直に胸を撫で下ろしたが、しかし、ボスがいるところではやはりボスを倒さなければいけない。

 倒さないと次の階へ進めないらしい。


 つまりカルモーダンジョン1階では、キングアントを倒さなければ2階へ進めない。


 キングアントかあ。

 俺は、思わずキングアントの姿を思い返した。忘れることのできない初日。


 全高30cm、全長80cmの普通のクレーアントでも化け物だったのに、キングアントは、全高1m、全長2m。

 ゴールデンレトリバーだってもう少し小さい、巨大な怪物であった。


 見た目も強さもどぎつい化け物だったのに、あれを1人で。

 正直、腰が引ける。


 けれども聞くところによると、1階に出てくる魔物は必ず1匹。そして外に出てきた魔物よりも圧倒的に弱い。


 どのくらい弱いのかは知らないが、まだ希望はある。


 だからこそ、俺はダンジョンにお金稼ぎをしにやってきたのだ。


 さあ、異世界生活4日目にして、俺の本当の冒険が始まる!


「ああ、元の世界に戻りたい」

お読み頂きありがとうございます。


しばらくは極貧生活です。

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