5月月末 休日1日目 その2
村34 町18
ダ19 討伐1 フ7
人1 犯1
魔100 中11 上1
剣100 剣中11 剣上1
回復35
採取60
草15 花5 実29
料理6
石工2
木工8
漁1
歌2
体55
女7
ゴブリンは、好戦的で、雑食で、集団で狩りをする性質を持っており、狩りの対象には人や人の作った農作物などが入ることも多い。
扱いとしては、いわゆる害獣に近い。
姿形は二足歩行で人に似ている。身長は90cm程度と、2から3歳頃の子供とほとんど同じで体型も同様。
しかし顔の美醜や善悪は正反対で、とてつもなく醜く邪悪に満ちた顔をしている。
そしてとても弱い。
力があるわけでもなく、五感が鋭いわけでもなく、知能などは猿にも劣る。
武器を使う習性を持っているため、その点では気をつける必要もあるが、しかし元々の体重が10kgちょっとのため、よほど切れ味の良い武器でない限り、そうそう深手を負うことはない。
大人が本気で殴るか蹴るかすれば、それだけで倒すことができる程度の魔物だった。
しかし、だからと言って、目の前で膝をついて泣いていても良いわけではない。
「ああ――、あああ……」
けれど俺は、心の底から溢れてくる後悔や悲しみに耐え切れず、泣いて叫んだ。
「――エト君! 大丈夫か――、って、くっ、こっちだ! ゴブリン!」
動きだせたのは、お爺さんがピンチに陥ってからだ。
お爺さんは俺に向かってこようとしたゴブリンに、短剣を持って駆けていったが、その動きは遅く、攻撃はアッサリと躱され、小さな石コロに躓いてこけてしまった。
そこへ、ゴブリンが持っている武器で斬りかかろうとした。
俺はグチャグチャな顔を上げ、歯を食い縛り心に鞭を打って立ち上がると、持っていた剣を投げつける。
小中と野球に取り組んでいたため、投げるという動作は今でも得意だ。球と剣では大分形は違うが、重さは装備品であるため0kgで投げやすい。投げる行為自体にも変わりはない。
当てられる、はずだった。
しかし、ゴブリンに向かう青い線に沿って投げようとした瞬間、俺の心臓は止まったように冷たくなった。
「――ぅぅ」投げた剣は思いっきり手にかかって、軌道は下方向へ。俺とゴブリンの間くらいで地面に当たってしまった。
俺は一番得意な投げることさえできなくなった。
偶然にも剣は、柄が地面に当たったことで刺さらずに、勢いのままゴブリンの方へバウンドして飛んでいく。それは手前で止まってしまったが、ゴブリンは怯んだ。
体の小さなゴブリンにとって人間が両手で使う重い剣は、投げつけられただけでも驚異的であるからだろう。その怯みは大きなものだった。
俺はその隙に近づいて、ゴブリンに届かなかった剣を拾うと、両手で強く握り、その頭目掛けて上段から振り下ろした。
青い線はそこに見えていない。けれどもとにかく力いっぱいに叩きつけた。
硬いものを殴った感触が、手に痺れと一緒に伝わってくる。
ゴブリンは頭蓋骨ごと頭を叩き斬られて、顎までパックリ裂けた酷い形相のまま、絶命した。
俺は衝撃で剣を落とす。いや衝撃だけのせいではなく、重くなったからかもしれない。
頭蓋骨を思い切り叩いたせいか、剣は大きく刃こぼれしていた。
「グゲー!」
それを見たからか、残る1匹のゴブリンが背後から俺に向かってきた。錆びたナイフを思い切り突き刺そうという狙いだろう。
だが俺は鎧を着込んでいて、ゴブリンのナイフは刺さらない。ナイフは俺の鎧に傷一つ付けられず横滑りし、柄が無かったからか逆に自分の手を斬った。
「ゲガー!」
指が1本千切れかけたゴブリンが、自分の手を見て叫んでいるところへ、俺は後ろ回し蹴りを加える。
バキボキと骨を折る感触と共に、ゴブリンは吹き飛んだ。
ゴブリンの体重は10数kgあるが、蹴飛ばすのに支障はなかった。
今の俺の体重が、200kg近くあるからだろう。
武器や防具を装備すれば、装備品の重量は本人にとって0kgに感じられるが、実際に消えているわけではない。
だからこそ、人より明らかに強い魔物相手でも戦えていると言って良い。
成人男性の足は、1本10kgちょっとなので、本来ならゴブリンを吹き飛ばすことは難しいが、今の俺の足は20kgから30kg。重い感触こそあったが、簡単に弾き飛ばせる。
「グゲフ、ガフ」
ゴブリンは口から血を流し苦しんだが、すぐに動かなくなる。
3匹のゴブリンは、全て死んだ。
「はあ、はあ」
俺は大した運動もしていないのに、肩で息をしていた。
しかし息は荒いというのに、体は酷く冷たい。
手が震える。手に血が言っていない。喉が震える、声1つすら出せない。
開けていた視界は、狭窄しているかのように見えなくなり、色は既に灰色だった。
「エト君……」
危険に晒してしまったというのに、お爺さんの声は責めるような声ではなく、とにかく心配するような声だった。
俺はお爺さんの方を向いて、「すみません」と謝った。
「すみません、すみません、すみません」そうやって何度も。
その言葉は震えすぎて、ただの一度も相手に聞こえる声にはならなかったと思うが、お爺さんは何を言いたいか分かってくれたようで、首を振る。
「ありがとう、おかげで助かったよ」
そしてそう言ってくれた。
だからか、俺はまた泣いた。
先ほどまでの嗚咽とは違う、まるで子供のようにしゃくりをあげて「ううう、ふううう、ううああ」と情けなく泣きじゃくった。
「大丈夫かい? ほら、ハンカチを貸してあげるから。ははは、口元が大変なことになってるねえ、どれ水はたくさん積んできてるから、持って来よう」
お爺さんはそう言って、荷台にあった瓶から桶に水を移し、それを持って来てくれた。
そして泣きじゃくる俺の口元を拭いて、服や手についたゲロや返り血も拭ってくれた。
「ほら、捕まって。歩けるかい? 早く馬車に乗ろう、いつも使ってる休憩所があるんだ。陽が暮れる前にそこまで行かなきゃね」
お爺さんに肩を借り、俺は止まらない涙と立たない足のまま、馬車の、御者が座る席に案内された。
お爺さんは俺の剣を拾い、興奮していた馬を宥め馬車に繋ぐと、俺の隣に座って馬車を進める。
俺はしばらく泣きじゃくって、「辛いことがあったんだねえ」と言ってくれたお爺さんに、ポツリポツリと自分のことを話し始めた。
昨日今朝と考えていたこと。
坑道町でしていたこと。
そこに来る移動中思っていたこと。
以前の町でしていたこと。思ったこと。
金貨80枚を手にしたこと。
カルモー村にいたこと。
人を殺したこと。
裏切られたこと。
信頼していたこと。
好きだったこと。
頼る人がいなかったこと。
一人ぼっちで寂しかったこと。
異世界から来たこと。
「本当に好きだったんです。父さんのことも母さんのことも。友達のことも。ケビンさんのことも、ライアスさんのことも。でも全部俺のせいで……。俺が死ねば良かった、死んだらこんなことも思わなくて良かったのに……」
夜が深まり、いつも使っているらしい横穴で火を焚いていた頃、俺はようやく話し終えた。
話している最中、お爺さんは大げさなリアクションは一切とらず、「そうかい、そうかい」そんな相槌だけをずっと打っていた。
そして俺が話し終えると、今までの話を反芻するかのようにジッと目を瞑り、静かに「辛かったんだねえ」と言った。
その声とその目は、とても優しかった。
「辛かったねえ」
頭に添えられた手はシワだらけで、乾燥してガサガサで、それなのに馬車の手綱を握ったりするからかタコか何かで分厚くて、しかし、俺はまた泣いてしまった。
メソメソとではなく、うわんうわん泣いた。
こんな風に泣くのはいつ以来だろうと思うくらいの泣き方だった。高校生には思えないみっともなさ。
だがどうにも涙は止められず、俺はお爺さんの作ったスープをすすっている最中までずっと泣いて、泣いて泣いて。
そうして俺は、その横穴で、久しぶりにぐっすり眠りについた。
お読み頂きありがとうございます。
もう1話できたら頑張ります。




