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5月4週 土曜日

村33 町18

ダ19 討伐1 フ6

人1 犯1

魔100 中11 上1

剣100 剣中11 剣上1

回復28

採取43

草14 花5 実17

料理3

石工2

木工5

漁1

歌1

体55

女7

 魔物は、いわば動物である。

 そのため、小さく弱い魔物でも、耳が良かったり鼻が良かったり、人間より優れている部分をいくつも持つ。


 また、小さくても生きていけているのだから、それなりの戦い方や逃げ方を有している。

 易々と見つけられるわけでも、捕らえられるわけでもない。


「うーんいないなあ」

 俺はそう言いながら、抜き身の剣で草をどかし枝を掻き分け、魔物を探していた。捜索開始から1時間ちょっとが経つも、まだ1匹も見つけられていない。


「本当にいるんですか?」

 俺は後ろを振りかえって、そう問いかけた。


 ここはヘデラル坑道町から少し離れたところにある森。

 町で使う薪のため、どんどん開拓されている森であり、俺が振りかえった先には切り株がいくつもいくつもあった。


 そして今この瞬間にも、新たな切り株が1つ増えた。

 背の高い木の1本が、ゆらりと動いたかと思うと、他の木と触れ合って枝が折れる音を鳴らしながら、大きく傾いていき、浮いてしまいそうになる衝撃と共に地面に倒れたのだ。

 俺が問いかけたのは、そんな木の根元にいる、斧を持った木こり。


「え? なんか言ったかっ?」

「だから、本当に鹿がいるんですか! って」

「おーいるいる。たまに見かけるぜ。言ったろ? こうやって木を切ってる時に後ろから襲われたって」

 木こりは斧を地面に落とす形で捨て、自分の尻を手でパンパンと叩く。


「傷痕もっかい見るか? 俺の美尻」

「いや、あんたの尻の毛濃すぎて傷痕分かんねえ、ってさっきも言ったじゃないっすか!」

「あっはっはっは」


 この木こりには、魔物を探そうと町から出た時に偶然会い、魔物がどこにいるかと尋ねたところ、仕事場の近くに出るとのことで、案内してもらったのだ。


 木こりが言うには、出てくるのは鹿の魔物。

 木を切り倒す音に寄ってくるのか、仕事をしていると近くに現れるらしい。

 話している最中に、脈絡なく尻を出された時は驚いた。「ココだよココ見てくれー」と言われたのだが、魔物よりも木こりの方がヤバイ奴だと思った。


「ったく」

 俺は、下品に笑うおっさんから早々に目を離し、また魔物捜索を再開した。


 今日の魔物退治、つまり鹿狩りの目的は、戦いから1ヶ月遠ざかったことで鈍ってしまった、戦いの感覚を取り戻すこと。

 素振りなどは思いだした時にしていたが、全盛期の動きができるなんてことはない。おそらく今日1日じゃあ取り戻せない程度には、腕前は落ちているはずだ。


 足の骨を折った時なんかは、2、3ヶ月離れていたのに、すぐに元通り投げられるようになったが、きっとあれは小学生の頃からの積み重ねがあったからだろう。

 戦いに関して、俺は4月から5月の1ヶ月しか経験していない。同じだけ休んだのだから、まず間違いなく取り戻すことはできないと思う。


 あれだけ頑張ったのに、少し休んだだけで無駄になるなんて。

 だから努力に意味がないなんてことを、余計に感じてしまうんだ。

 趣味で筋トレをする人達のことなんて、特に信じられないね。部活とか魔物と戦うとか、筋肉が必要な生活をしてるならともかく、使う理由もないまま鍛えるだなんて。ちょっと休んだだけでなくなって無駄になるだろうに、どうしたってあんな風に一生懸命になれるんだか。

 まあ、そんなこと言ってるから、何もできなかったんだろうが。


 俺は色々なことを考えながら、周辺を探し続けた。

 魔物が出てきたのは、3時間くらい経った頃。


 暇だったので、斧を貸してもらい、木を切り倒させてもらったその時だ。

 木こりが倒していた木よりも随分細かったが、手の平が痛くなるくらいに斧を振って、ようやく倒せたその木を、感動しながら見つめていると、その先にいたのだ。


『ウッドディアー

  ジョブ:木鹿

  HP:100 MP:100

  ATK:12 DEF10

  CO:--』


 遠くの木の影から、ピョコッと顔を出した、体高60cmか、そのくらいの鹿。4月か5月頃に角が落ちるらしく、角はない。顔は丸っこく、つぶらな瞳が可愛らしい。

 ……しかし、そんなつぶらな瞳が見えるほど、完全に目が合っているのだが、向こうは逃げ出す気配もない。

 それどころか、ソロリソロリと近づいてきた。


「おーやったじゃねえか、初めてにしちゃ中々のもんだったぜ、弟子にしてえくらいだ。お疲れさん」

「あ、ありがとうございます。おかげさまです。それで、鹿ってあれですか?」

「ん? おー、あれだあれだ。来やがったなあ、斧返せ斧、うらああーっ」


 木こりは、俺の背中を叩きながら笑顔でそう言ってくれたが、鹿を見つけた途端豹変し、俺から斧を奪い去り、鹿へ向かって投擲した。


 斧は弧を描いて宙を舞い、俺達から4mくらいの距離に、鹿から15,6mくらいの距離に落ちた。

 全然届いてない。まあ、この斧は装備品とかじゃないから重いし、そりゃそうだ。


「いや、逃げちゃうじゃないっすか」

「逃げねえ逃げねえ、あいつらスゲー喧嘩っぱやいんだよ。ほら、来たぜ。あと頼んだ」

「え?」


 どうやらこの鹿は、好戦的な性格らしい。

 目を怒りに燃やし、突進しようとしていた。


 木こりが俺の後ろに隠れた途端、赤い線が俺の元まで引かれる。

「マジか。って剣、剣、俺どこ置きましたっけ? 木切るからってどっか置きましたよね。あ、あった」


 俺は切り株の上に置いていた剣を取り、抜き放つ。鹿はすぐそこまで来ていた。

 しかし、赤い線青い線が見える俺にとって、この距離から対応することはなんら難しくはない。


 フィールドの魔物はHPを0にしなくても首を切られたら死ぬから、もしかしたら一刀で斬り伏せることもできるかもしれない。

 それはカッコ良いな。

 死体は買い取ってくれるらしいし、なるべく綺麗な方が値段も高いかもしれないから積極的に狙おう。


 俺はそんなことを考えながら、剣の柄をギュッと握り締め、鹿の突進を躱す。


 そのすれ違いざま。

 俺は上から下へ引かれた青い線に、剣を走らせた。狙いは、駆け抜ける鹿の首。

 おそらく、一撃で倒せるポイントだろう。俺は力を込めて斬りつける。


 だが、剣は逸れた。

 青い線に重なる形を狙ったにも関わらず、右側へ数cm。おかげで剣は、首ではなく頭に当たってしまった。


 やはり腕は鈍っている。

 反応が遅いし、肩に妙な力が入ってしまう。


 後頭部に当たった剣は、手に頭蓋骨の重い感触を伝えながらも、振りきられた。

 鹿は上からの重い衝撃によって、つんのめるような形になり、顔から地面に突っ込んだ。後ろ足が高く上がり、一回転しそうなほどの勢いだ。


 そこにまた青い線が見える。

 俺は今度こそ外さないと集中し、剣を再び振り下ろす。


 狙いは、起き上がった鹿の、これまた首。剣は一直線に進む。だが、直前、やはり剣は逸れた。

 しっかり狙ったのに、青い線を自分から避けるように、剣は右側へ数cmズレ、また頭へ。


 力いっぱい握り、力いっぱい振ったからか、手に衝撃が走り、剣を落としそうになった。

 だが、俺の手にそれだけ衝撃がきたということは、鹿も頭にそれだけの衝撃を受けたのだろう。

 鹿は頭を揺らして、パタリと倒れると、それっきり動かなくなった。


「おおー」

 と、戦いを見ていた何人かの木こりが歓声を上げる。


 それから、俺は褒められたり、鹿の報酬を、まだ生きていて新鮮だから、という理由でちょっと上乗せして貰ったり。

 木こり達は鹿の足をロープで結び、動けないようにして運んで行く様子を眺めたり、木を食べて枯らす鹿が、林業にとってどのくらい敵なのかを聞かせて貰ったり。


 昼食も、なんだかんだ御馳走してもらってしまった。

 だから、そちらの結果は上々。


 だが、当初の目的は……。


 俺は昼からは木こり達と行動を共にせず、開催されている市で食料品を購入した後は、風呂に入った。


「あっつ、あっつ」

 と言いながらドラム缶風呂に入って、体を拭いて服を着て鎧と剣を装備する。


『キジョウ・エト

  ジョブ:異世界民

  HP:100 MP:100

  ATK:28 DEF:30

  CO:--』


 ケビンさん達の装備の、良いところを合わせた装備。

 強い。凄く強くなった。


 剣もとても綺麗だ。俺は剣を抜くと、空気を斬ってみる。

 素振りの成果か、剣は速く、空気を斬る音が周囲に美しく響く。


 だがしかし、先ほどの鹿を想像し、実戦の気持ちになって青い線に剣を走らせてみると、その音は途端に鈍くなった。

 さらにその瞬間に、汗が吹きだしてくる。


 風呂で体を綺麗にしたはずなのに、汗が。体は十分温まったはずなのに、冷たい汗が。

 全身から吹きだしていた。


「大丈夫、大丈夫。もう大丈夫。あれから1ヶ月だ、大丈夫」

 俺は自分に言い聞かせるように言う。


「楽しい思いをいっぱいした。異世界と言えばもうあっちの思い出しかない。だから大丈夫大丈夫」

 何度も何度も。


 しかし、油汗は止まらない。

 最後に青い線に沿うように剣を振れたあの時の記憶が、ずっと止まらない。


 鹿狩りの当初の目的は、どのくらい感覚が鈍ったのかを知ること。そして戻すこと。

 だが、分かったのは、俺があれから何一つ変わっていないということだった。戻す方法なんて、もう見当もつかない。


「ふうー、はあー、ふうー」

 俺は深呼吸をした後、無理矢理口角を上げ、笑顔を作る。

 なにかのテレビ番組で見たことがある。笑顔を作るだけでもストレスなどは緩和されると。


 だから俺は必死に顔に笑顔を貼り付けて、ヘデラル坑道町の入口で行商人のお爺さんと合流した。


「それじゃあ行きますか。よろしくね、エト君」

「はい、こちらこそ。何かあっても、任せといて下さい」


 手は冷たい。足は冷たい。

 心臓が冷たい。でも大丈夫、きっと大丈夫。

 俺は、布の天蓋がついた馬車の中で、口角だけを無理矢理上げた変な笑顔のまま、何度も何度も唱え続けた。

お読み頂きありがとうございます。

ヒロイン登場まで、あと……、何週間かです。お付き合い頂けている方、本当にありがとうございます。これからも頑張ります。

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