5月4週 月曜日 その1
村33 町13
ダ19 討伐1 フ6
人1 犯1
魔100 中11 上1
剣100 剣中11 剣上1
回復23
採取41
草14 花5 実17
料理3
石工2
木工5
漁1
歌1
体25
女5
国が違えば文化も違う。
ならば、世界が違えば、文化がさらに違うのも、当然のことである。
昼過ぎに目覚めた俺は、早速とばかりに娼館へ行った。
そこは銀貨20枚もする、超高給娼館だ。
普通の仕事をしていれば、銀貨20枚を貯めるのに一体どれだけの年月がかかるのか、分かったものじゃない。
だからその娼館へ行けるのは、本当にごく一部の裕福な層のみ。聞けばそのサービスは、天上に昇るが如く素晴らしいもので、それを求めて近隣の村や町から、裕福な人達がやってくるのだとか。
宿屋の店主に行くことを伝えたところ、相当に羨ましがられた。
お金だけはあるからね俺は。
とはいえ俺は、異世界のセックスに幻滅していたため、そこまで楽しみだったわけではない。
動けない、触れ合えない、それに一体どれだけ価値があるのか、はなはだ疑問だった。
「またのお越しをお待ちしています」
「……本当に、本当に出禁じゃないですね? また来ても良いんですか?」
「? もちろん。また来てくださいね。約束」
しかし、控えめに言って最高であった。
国が違えば文かも違う。
ならば、世界が違えば、文化がさらに違うのも、当然のことである。
ただしそれは、どちらが秀でているとか、そんな話ではない。
なぜならどちらの文化も、先人達がより良くなるよう思考錯誤し積み重ねてきた結果にかわりないのだ。
動かないからこそ、見ることに集中できる。
下から見たそれは、異世界に来てから見た光景の中で最も強烈なもので、そして、異世界の文化と共に生きる覚悟を決めるに、十分なものでもあった。
また行かないわけにはいかない。必ず来よう。
そう、明日にでも。
アイドルのように可愛い人に見送られ、俺はそう誓って娼館を後にした。
しかし……。
異世界の文化で生きると言っても、1つだけ我慢できないものがある。
俺は、体中から漂う臭い、特に股間周辺から漂う香ばしい臭いに、風呂に入らせてくれ! そう心の中で叫んだ。
異世界に風呂の文化はない。
シャワーの文化もない。
7月8月の暑い季節でさえも、せいぜい水で濡らした布で体を拭くだとか、桶に汲んだ水を頭からかけるだとか、そんなことをするくらい。汗をかく仕事に従事している達も同様。
だから体はどんどん臭くなっていく。
そして俺も最近、娼館に行き続け、たくさんの汗をかいた。
既に俺の体は、相当臭くなってしまっている。
なんだかこの臭いは、中学生の時分、足の骨を折ってギブスをはめていたあの夏を思い出す。
自転車で追いかけっこをしていたら、前を見ておらずかなり高い段差から落ちてしまい、足を折ったあの夏。
痛かったなあ。そして臭かったなあ。
俺は人通りが少ないことを確かめると、自分の股間を右手で撫でるように触り、その手の臭いを嗅いだ。
「くっさ!」
どうして人は臭いと分かっているのに嗅ぐのだろう。ギブスをはめている時も、そう思った気がする。もしかして人間という生き物は、馬鹿なんじゃないんだろうか。
「はあ」
俺はため息をついた。
体は洗えていなくて臭い。
髪の毛は油でギトギトになっている。
右手は臭い。
もう満身創痍だ。
『カラダノニオイトール 銅貨20枚』
『カミノケキレイナールスコーシ 銀貨3枚』
一応、こういったものはあるので、臭いが取り除けないこともない。
匂い袋と呼ばれる、良い匂いのする袋も売っている。
結構いい値段がするため、裕福な層以外は、女性への贈り物かでしか買われないそうだが、別に持っていたって構わないだろう。
だがやはり、俺が求めるのは風呂だ。
風呂に入らせてくれ!
「でもヘルプを見ても風呂はない。だったらないよなあ」
俺はまた深いため息をついた。
「異世界の住人になるって決めたんだし、諦めないとダメかなあ……。いやでも、それくらいは……」
そこで、ふと気付く。
ここヘデラル坑道町は、そんな名称がついているだけあって、金属の取り扱いが豊富である。店も、商品も。
ピッケル、手押し車、鍋に、包丁。
鉄鉱山ではないため、鉄製品こそないが、銅や青銅ならより取り見取り。
今もなおそれらは増え続けるように、金属同士がぶつかり合い加工されていく音が、耳を澄まさずとも町中に響き渡る。
正直うるさい。
あと金属臭い。
それから金属を溶かすために火を多く使うせいで、空気がマズイ。どことなく黒い。
それに坑道のせいで、水だってマズイ。初めは飲めたもんじゃなかった。環境汚染感が半端じゃない。ここに長くいたら絶対に早死にすると思う。事実、他の町や村に比べ、お年寄りを見かける割合が少ない。
そんな町だからこそあるのではないだろうか。
五右衛門風呂を作れるような鍛冶屋が。
俺は商店が多く並ぶ通りをしばらく歩き、『青銅製品オーダー注文承ります』と書かれている看板を発見し、その店に入った。
そこは鍛冶屋と言うのか冶金屋と言うのか、金属製品、特に青銅製品が多く置いてある店。
小さな装飾品や、やかんや包丁などの家庭用品から、荷車のような大きな物まで、たくさんあった。
人はどこかと店内を見回したところ、店の奥に、顔にシワを幾重も刻み口ひげをたくわえた、老年のおっさんがいた。
「……」
見るからに職人である。
それも堅物タイプの。目が合ってもいらっしゃいとは言わず、ただ製品をジッと見つめていた。
店員としては失格だと思うが、逆に鍛冶屋っぽいからか、良い仕事をしてくれそうだと、俺はそう思った。
「すみません、オーダー受け付けてくれるって書いてあったんですが」
「……」
「ドラム缶……って言っても分かんないか、これくらいの大きさで、人が入れるくらい。こんな感じに。下から火であぶって中の水が温められるようなのが欲しいんですけど、造れます?」
「……」
おっさんは喋らない。
「……」
「……」
「……できませんかね……、お金は結構あるんですけど、おいくらくらい……」
「……」
「……あの……」
「……#%""&%$"#$$"」
「なんて言ったなんて言った?」
「!!"$#$%"!#%&&######%%##」
「え? え?」
「あ、すいませんね、そいつドワーフ語しか喋れねえんですよ」
老年のおっさんの全く聞き取れない喋りに、俺がうろたえていると、声を聞きつけてか奥からまた別のおっさんが出てきた。
そのスキンヘッドのおっさんは、俺の前に出てくると、申し訳なさそうにそう言った。
ドワーフ語。
ということはドワーフなのだろうか。
そんな種族がいることは聞いて知っていたが、初めて見た。
よく見れば確かにドワーフである。地球で言われるドワーフのイメージそのままの姿。
小さな背、筋骨隆々の体と、いわゆるずんぐりむっくりな体型。
口には立派なヒゲがあり、そして鍛冶が得意。
ドワーフのいる鍛冶屋冶金屋、これは腕前が期待できる。俺の求める五右衛門風呂ができるかもしれない。
「!"#!デロメル店長$%$#」
「分かんねえよ全く。言葉覚えやがらねえし、腕もサッパリだし。アイテムボックスはあるし小間使いには便利なんですがねえ。まあ、まだ15歳らしいんでこれからなんでしょうがね。で、なんの御用で?」
……俺より年下かよ。
なんだか色々と裏切られた気分だった。
「ああえっと」
俺は先ほどドワーフの若造に言った注文を、スキヘッドのおっさんに向けて繰り返し言った。
すると本物のおっさんは、「ああそんくらいなら簡単ですね。今必要なら今やっちまいますよ。大体銀貨8枚くらいになりますけど」とアッサリ答え、俺が頷くとすぐに作業を始めた。
『デロメル
ジョブ:冶金師
HP:100 MP:66
ATK:86 DEF:5
CO:--』
『○○○○○○○○○○○○○○○、メタルプレス』
作り方は至って簡単だった。いや、驚くべきほど簡単だったと言うべきか。
その作業には、鉄を溶かす叩く、なんて行為が一切なく、まるで粘土を扱う陶芸のようだった。
既に容易されていた青銅の塊に、冶金師ジョブのスキルを使って触れる。
それだけで、硬いはずの青銅の塊は、手で押されるがままに変形していき、あっと言う間に五右衛門風呂の形になっていった。
その光景は、地球の誰に見せても絶句する光景だろう。ハッキリ言って異常である。
しかしこれが異世界の当たり前で、そしてスキルだ。
魔法、と言って良いのか、なんだか魔法っぽくはないが……、ともかく当たり前ゆえに生活に根付いたもの。
金属だけでない。石や木すら、こんな風に加工できてしまう。
正直、魔物が出てくるだとか、ダンジョンがあるだとか、そんなことよりもこれが一番おかしいと俺は思う。
それにこれのせいで、地球で言えば何時代になるのか、とか、そんな考えが全く当てはまらない。まあ、そもそも当てはめる必要性もなければ、俺はなんとか時代に詳しくないので元々無理だが。
完成したのは、作り始めてから20分後。
丁度、人が入れるサイズで、水を入れても漏れる穴などない。
中に入って動いてもバランスが崩れたりしないような、ほどよい重さもあって、簡単に壊れない頑丈さもある。完璧な五右衛門風呂の風呂桶だ。
「他に直すところは?」とおっさんが聞いてきたので、「完璧です」と答えて、銀貨8枚を支払う。
なぜかおつりで銅貨が数枚帰ってきた。銀貨8枚じゃねえのかよ!
「お客さんヒューマンですよね? だったら重いと思いますよ。どっか運ばせるんなら、こいつのアイテムボックスに入れて運ばせますが、どうします?」
「ああ、いえ、円形なんで転がして運びます」
「あーなるほど」
「!#$#"。○○○○○アイテムボックス。"#(#$」
「いやだからお客さんは自分で運ぶっつってんだろ! すみませんね、アイテムボックスって聞こえたらすぐ反応するようになっちまって」
「!"!#$!%$。……!!"$#&。○○○○○アイテムボックス」
「あ、いえいえ全然気にしてないです。大丈夫です」
ドラム缶は一瞬、ドワーフのアイテムボックスに収納され消え去ったが、すぐにまた現れた。
スキルもおかしいが一番おかしいのは、このアイテムボックスかなあ。
ヒューマンのダンジョン産のドロップアイテムやそれらの加工品を自在に持ち運べる力もおかしいが、ドワーフの金属の塊を自在に持ち運べる、ってのも相当おかしいと思う。
船にドワーフをこれでもかと積み込んだら、一度で一体どれだけの金属が運べるのか。
ずんぐりむっくりだから、1人辺り場所は取るが、それでも1平方メートルに6人くらいは置けるはず。船底に設けられた倉庫的なところにこうビッチリ入れ込めば……。
……気持ち悪!
「ありがとうございました」
「あ#$とお"#$%!た」
「いえ、こちらこそ」
店から出た俺は、ドラム缶を斜めに傾けてゴロゴロと転がしながら道を進む。
人からの注目はあるし、とても重い。
町の外まで運ぶとなると、たくさんの人に見られるだろうし、かなりの重労働になる。
きっと水を汲むのも大分大変だろう。
だが、風呂に入れるかと思うと、その嬉しさもあってあまり気にならない。
元々風呂が好きではなく、入らなくても良さそうな時なんかは積極的に入らずに済ませていたのだが、やはりここまで入れないと恋しくもなるものなのだろうか。
それに、次の町のテトン町まで、移動は3、4日かかると聞く。
途中途中で村や町に寄るだろうが、最近気温も上がってきて汗をたくさんかくことが予想される。風呂に入れるのはとてもありがたい。
さあ、頑張って運ぼう。
「……ん? あれ、これどうやって次の町に運べば良いんだ?」
お読みいただきありがとうございます。
また明日投稿致します。




