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4月1週 月曜日

魔1

剣1

 地球とは違う星。

 今まで生きてきた世界とは違う世界。


 異世界。


 そこには、似通っている部分も、そうではない部分もある。


 例えば、この世界の1年も、12ヶ月、そして365日で成り立っている。


 しかし1ヶ月は、必ず4週間であり、1週間は6日である。

 月火水木金土、と曜日が続き、日曜日がなく、6日間で1週間。


 だが、土曜日の後に、月曜日が来るわけではなく、その間には休日が挟まる。


 つまり、月火水木金土、休日。月火水木金土、休日。


 それが日曜日ではないのだろうか。

 と、思うのだが、日曜日はやはり存在しない。


 数えていくと結局7日間なのだが、1週間は6日+休日である。


 また、1ヶ月も4週間であるから、数えていくと合計28日になるのだが、1ヶ月が終了すると次の1ヶ月が始まるまで、2日間の休日が挟まる。

 結果、数えていくと結局30日。


 そして30日が12ヶ月だと合計360日だが、12月の終わりに5日間の休日が加えられるため、最終的に365日となる。


 週休1日。

 月休6日。4週目の休日後に2日の休みがつくため、3連休一度。

 年休77日。12月4週目には週の休日と月末の休日後に5日の休みがつくため、8連休一度。


 休みがいささか少ないように思う。

 科学文明を考えると、1日休みがあれば上等なのかもしれないが。


 ちなみに季節は、2月が最も寒く、7,8月が最も暑いようだ。


「なるほど」

 俺は、ひとくくり調べ終わったため、半透明のウインドウを閉じた。


 これは、朝起きた時に、不安感などから、助けてヘルプ、と念じたことで発見した能力である。

 名付けて、ヘルプ機能。


 パソコンなんかについているソレと同じだ。

 先ほどのウインドウに、質問や疑問に対しての解答が表示される。


 難しいことは全く分からず、基本的なことだけ。

 常識とも言えることのみ、解答してくれる。


 この村の質問には強いが、遠く離れていくとどんどん解答の質が悪くなるため、仮説ではあるが、場所によっては違う解答が示されるかもしれない。


 そしてこちらも仮説ではあるが、人に聞いた方が早い。常識だからな。


 しかし、ヘルプにはもう1つ、重要な能力がある。

 こちらは、人に聞いてもまず分からない。


 それは、俺が異世界に来る原因となった、課金機能についての解説能力である。


 ついに、俺の力の全貌が明らかになった。


 その名も、課金機能。


 安直なネーミングだが、それ以外特に適当な言葉はないので、仕方がない。

 一言で表すには、内容も色々過ぎる。


『オミズウマクナールスコーシ 銀貨1枚』

 こちらは、銀貨1枚を使用すれば、瓶一杯分くらいの水が美味しくなる。


『ケガナオールカミキーズ 銀貨10枚』

 こちらは、蟻に噛まれた程度の傷を、瞬時に治してくれる。


『フツカヨイナオールアタマイターイ、銀貨3枚』

 こちらは、頭が痛い程度の二日酔いを、瞬時に治してくれる。


『チンコデカクナールスコーシ 金貨1枚』

 こちらは、チンコを数mm大きくしてくれる。


 課金できる項目は、何万にも及ぶ。

 金額も、銅貨数枚の課金から、金貨10枚の課金まで様々。


「便利だけど、俺はこれのために異世界に来たのか? 失ったものの方が大きくないか?」


 本当にどうして微課金なんて力を選んでしまったのか……。

 チンコがでかくなるのは確かに男の夢かもしれないが……。


 ああ、頭が痛い。


 俺は、フラフラと弱りながら、泊まっている部屋の扉を開ける。

 右と左、両方に廊下は続いているが、右はすぐに行き止まりで、左にしか道はない。


 壁に手をつきながら、その先にある階段を下りると、店主がいたので挨拶をして、そのまま宿を出た。


 正午くらいの時間帯だからか、太陽の位置は高く、燦々と光が降り注いでいる。


 昨日同様に澄み渡るほど青い空で、遠くの山なども凄くよく見える。

 多分、車の排ガスだとかで空気が汚れたりしていないからだろう。

 青い空と流れる風が、とても心地良い。


 ヘルプによれば、ここの村の名前は、カルモー村と言うそうだ。


 土肌の見える地面に、木造の家がまばらに建っている。

 村の周りには、簡単な柵が設けられているが、蹴っただけで折れそうな、田舎らしい田舎の村だ。


 しかしだからこそ、とてものどかで、のんびりしたところだ。


 きっと深呼吸をすれば、日本とは違う、新鮮で綺麗な美味しい空気が吸えることだろう。


 あまり山や川などで遊んだ記憶もない俺からすれば、いるだけでも少しテンションの上がる光景だ。

 満喫したい、とそう思わないでもない。


 手始めに肺いっぱいに、空気を取り込みたい。

 けれども、それは不可能である。


 金がないから? いいや違う、自然を堪能することに金はかからない。

 異世界に来たショック? それは大きいが、今は違う。


 金がないからか。いや違う自然を堪能することに金はかからない。

 異世界に来たショックからか。確かにそれは大きいが、今は違う。


 そう。


「頭痛い、気持ち悪い」


 二日酔いだ。


 昨日、飯の席で1杯、エールとかいう酒を飲んだところ、今日は朝からずっとこの調子だ。

 吐きたい。


 他の人はもっとガンガン飲んでいた気もするが、今日は二日酔いなのだろうか。

 俺の何倍飲んでいたのだから、今のこれよりもずっと辛いに違いない。

 まさか死んでいるんじゃないか?


 そうでないなら……。

 もしかすると俺は、酒に弱い性質なのかもしれない。


「よう、昨日はお疲れ。剣も鎧も綺麗になったらしいぞ、っとお前大丈夫か?」


 すると、昨日門番をしていた鎧の人。

 あのズルイ剣を持っていた鎧の人が、そう話しかけてきた。


 私服なので昨日のような威厳はないが、しかし、40代くらいで偉い人のような気がしないでもない。


「完全に二日酔いです」

 俺は、太陽すらも敵である、というような辛い顔をしているのだろう。

 鎧の人からは、同情の気配すら感じられる。


「あんまり飲んでなかったのになあ、酒弱いんだな。今日は寝とけ、水分取るの忘れるなよ?」

「分かりました……」


 俺は、促されるがまま、とぼとぼと宿へと戻り、部屋に入りベットに横たわる。

 言われたとおりに、水分を取って、今日はもう眠る。


 どうやら俺の異世界生活2日目は、宿屋だけで完結するようだ。


 しかし、水がマズイ。

 水差しをベットの脇の台に置きながら、そう思った。


 何度飲んでも、いつまでもマズイ。

 井戸水はこういう味なんだろうか。小学生の頃に行ったキャンプで、井戸水を飲んだ気もするが、味はよく覚えていない。


 どちらにせよできることなら、もうちょっと美味しい水が飲みたい。

 というよりも、普通の水が。無味無臭の。


 そしてそもそも二日酔いに治ってほしい。これが治ってくれれば、水をガブ飲みする必要もないのだから。


「でも、フツカヨイナオールもオミズウマクナールも、高いんだよなあ」


 課金要素があっても、課金できるお金がないなら意味がない。


 課金は、簡単に言えば、お金さえあればなんでも叶う機能のことである。

 現実の世界に課金があれば、確かにああいったところまで、カバーできるほどになるのだろう。


 素晴らしいと思う。

 けれども、やはり、お金がないなら意味がない。


 俺の今の全財産は……、銀貨8枚ちょっと。

 今日は飯をあまり食べられないだろうから、飯代が安く済むとは言え、宿代で銀貨1枚がかかる。

 残るは7枚近くになるだろう。


 気軽に課金できない。

 収入の見込みもないのだし。


 とは言え、課金を祈ったことは、結果的には正解だった。


 それがなければ、昨日の戦いを生き残ることはできなかっただろうから。


 課金機能の内、どうやら俺は、既に1つを購入していたのだ。


 購入したのは、初心者パック。と表記されているもの。


 その効果は、凄まじい。


 まず、ヘルプ機能が使えるようになる。

 異世界の言語を話せるようにも。


 また、格好が、異世界風になり、剣や防具が手に入る。

 異世界特有の病原菌なんかに対しても、免疫を得る。


 そして、武器や人、魔物に見えた、例の半透明のHPやATKの表示も見えるようになる。


 さらには、攻撃や危険を示す、赤い線。

 攻撃有効箇所や、隙を示す、青い線。これらが見えるようにもなる。


 金貨10枚、という、価格がかかるのだが、なぜだか最初から使用されていた。

 そのお金はどこから出たのだろう。


 俺のお年玉貯金か?


 ともかく、そんな凄まじい力によって、俺は昨日の激しい戦いを生き抜くことができたのだ。


 いやあ、凄いなあ初心者パック。


 初心者パックだからか、1年で効果は消えるようだが。


 ……。


「失ったものが大きすぎる……」


 ……。


「頭痛い。寝よう」


 俺は、薄い毛布を体にかける。


 部屋で願いごとをした、あの時は、まさか、こんなことになるだろうとは、思っていなかった。


 そりゃあそうだ。

 願いが叶うなんて、誰も思わない。

 引き換えにしなきゃいけないものがあるだなんて、誰も思わない。


 友達も、家族もいた。

 やりたいことも、そりゃあちょいちょいとはあったし、読みたい漫画だってあった。


 携帯とパソコンに入っているエロ動画も消せてない。

 隕石で壊れてくれてたら良いけれど……。しかし思い出にそのデータを修復して見ますとかなってたら、とてもじゃないがマズイ。


 異世界は、飯がマズイ、水もマズイ。

 化け物は出る。皆、刃物とかを持っているし、もうお金がない。


 なんだか俺がとても可哀相に見える。


 神様に、微課金機能を下さいって、ささやかなお願いをしただけなのに。

 皆もっと強欲なお願い事をしてるだろうに。


 あと俺の親も可哀相だ。


 息子がしたことで、自分達は全然関係ないのに25年のローンが残る家と、16年育てた息子が吹き飛んでる……。


 いや俺の方が可哀相か。


 なにせ、パンツの替えすらもないせいで、現状はノーパンだ。

 パンツを買えば、生活費が削れてしまうため、買う勇気がなかったのだ。


 パンツか生活かを選ばなければならない異世界生活を送ることほど、人生に悲しい出来事はないはずだ。

 異世界のようなファンタジーは、もっと夢があるんじゃないのだろうか?


「ああ、頭が痛い。駄目だ、寝よう」


 こうして俺の異世界生活2日目は、幕を閉じる。


 ちなみに夜にお腹が減ったと伝えたところ、心優しい宿屋の店主さんがパンとかスープを作ってくれた。さらには、二日酔いに効く薬まで用意してくれた。


 異世界にも夢があるじゃないか。

 俺はそう思った。


 ただし、残金は銀貨6枚と銅貨17枚になった。


 人の優しさも、課金しないと得られない、異世界とは世知辛い世の中である。

お読み頂きましてありがとうございます。


ブックマークもしていただきまして、これからも頑張ります。

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