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4月4週 土曜日 その4

村26

ダ19 フ1

魔100 中11

剣100 剣中11

採取28

草11 花5 実12

料理1

 残るHPが5しかないホロードさんに迫り来る鎌。

 当たれば即死で、受ける術も、避ける術もない。


 ただの攻撃ではあるが、それは必殺の一撃。


 だが、俺がいる。

 このパーティーには俺がいる。


「んぐうう!」


 俺は、その間に割って入り、横に薙ぐような一閃を、剣と胴の防具を盾にして受けた。


 鎌の軌道に対して、斜めに。つまり、剣や防具の表面を滑らせる形で受けたのに、異常なまでに重い。

 そりゃあ、衝撃で変な声も出る!


 だが鎌は、ギャリギャリギャリッ、と身も凍るような音をたて、ほんの少しだけ軌道を変えた。


 俺の頭のすぐ上を、そしてホロードさんの頭のすぐ上を、鎌は轟音と共に通り過ぎる。


「エト!」

 ホロードさんは無事だ。助けられた。


 しかし、ホッと胸を撫で下ろす時間はない。赤い線は2本。つまり攻撃は2連撃。

 もう1発は既に放たれている。


 そちらの防御は、不可能だ。


 俺の剣は、もう遠くへ弾き飛ばされてしまった。結構強く握ってたのに、問答無用。

 だから俺は、なんとか身をよじり直撃を避けつつ、ホロードさんと攻撃の間に、体を入れた。


 今度の音は、ギャリギャリギャリという擦れる音ではなく、ゴリッという削る音。

 俺の身に付けている鎧は、まるで豆腐のように切り裂かれていく。


『キジョウ・エト

  ジョブ:異世界民

  HP:15+20 MP:100

  ATK:18+10 DEF:12+3

  CO:--』


『ホロード

  ジョブ:冒険者

  HP:0+5 MP:70

  ATK:26+5 DEF:13+3

  CO:流血』


 しかし幸いなことに、生き延びた。

 胴の防具は背中をバックリと開けっ広げ、まるでエッチな服のようにもなっているが、体が真っ二つになることはなく、ただ吹き飛ばされた被害で済んだ。

 ホロードさんも、無事だ。


 サファイアマンティスから離れる方向に飛ばされ、ボテッ、と落ちた俺達。


「ありがとよ! 助かったぜ!」

 ホロードさんは、ニヒルに笑っている。


 良かった。

 俺は、今度こそホッと息をついた。


 それは、今の俺の、たった一つの願い事だ。

 この人達を死なせない。俺が守る。


 確かに、庭付き一戸建ては欲しいし、綺麗なお嫁さんも捨て難いが、まずはこっちだ。

 これだけは、絶対に叶える。


 けれども、俺は少しだけ忘れていた。


 それだけは忘れまいとしていたのに、忘れてしまっていた。


 俺は、天才ではなかった。


 気付いた俺は、大声で叫びながら走り出す。

 ホロードさんに向かって。


 丁度、サファイアマンティスから、8mの距離にいるホロードさんに向かって。


 ホロードさんはまだ気付かない。

 黄色い線は、既に引かれた。


 この世は不平等であり、不条理に満ちていて、あまりにも理不尽だ。

 そんな世界で努力の元に歩けるのは、天才だけだ。そうじゃない者は、運が良くなければ歩くことすらままならない。


 必死に人生を積み重ねようとも、凡人の地盤は砂でできていて、神様がふーっと息を吹きかけただけで脆くも崩れ去る。

 いくら頑強に築き上げようとも、大元が砂なのだから無意味だ。高く築き上げることもできない。


 人生で何かを築けたとしても、それはただたんに神様が疲れたから休んでいるとか、順番を忘れて飛ばしたとか、そんな自分自身に何一つ関係ない理由によるもの。


 天才でなければ、努力には、何一つの意味はない。

 だから天才でないのなら、何も掴めない。何にも手は届かない。たった一つの、たった一つの願いすら。


 斬撃が、ホロードさんへと放たれる。


 剣で防ぐ? 剣はない。

 なら体で? 間に合わない。ここからでは、ホロードさんと斬撃の間に入るには届かない。


 黄色い線もまた、攻撃までのタイミングを示す。

 だから分かってしまう。


 無理だ。これは。どうにもできない。


 やめろ、と俺の心のどこかが言う。

 行っても無駄だ、やっても無駄だ。


 そう、俺は所詮天才じゃないのだ。望む結果は掴みとれない。

 今までだって、一度も何も叶えられなかった。


 けれど、それでも俺は必死に、必死に走って、そんな思いを振りきって、左手を伸ばし、ホロードさんを突き飛ばした。


 だが、全ては無意味だ。

 いや、なお悪い。


 斬撃は、さも当たり前のように、俺の伸ばした左手と、突き飛ばされたホロードさんの体を切り裂いた。


『キジョウ・エト

  ジョブ:異世界民

  HP:0+2 MP:100

  ATK:18+10 DEF:6+3

  CO:欠損 流血』


『ホロード

  ジョブ:冒険者

  HP:0 MP:70

  ATK:26+5 DEF:21+4

  CO:死亡』


「あああああーっ!」

 その叫びは、手を斬り裂かれた痛みか、仲間を失った痛みか、現実を押し付けられた痛みか。


 なんにせよ、この手には何も残らない。


 ホロードさんの体は、音もなく消える。

 安っぽいエフェクト、ダンジョンの魔物と同じ、倒せば銀貨1枚になる魔物よりかは多少豪華だが、そんなつまらないエフェクトで、足につけていた防具だけを残して、この世から消えた。


「ホロードー!」

「兄さーん!」

 ライアスさんとヨランダさんが叫ぶ。


「ホ、ホロード……」

 ケビンさんも、弱弱しい声で。


 3人はホロードさんが消えたその場所を、呆気に取られたように見ていた。

 10年以上連れ添ったパーティーメンバーだ。特に、ヨランダさんはホロードさんと兄妹だった。ショックは大きい。


 だから、俺は走った。


 重たい胴の鎧を脱ぎ捨て、落としてしまった剣を拾い、動かない左手はそのままに。

 とにかくサファイアマンティスに向かって走った。


 赤い線が見える。

 残るHPはたったの2。もう一度攻撃を食らえば、その時点で死ぬ。

 けれども、走らずにはいられない。


 左手は使えない。斬撃を受け、欠損の状態異常になって、力すら入らなくなった。

 剣を右手1本で扱わなければいけないのだから、正しい攻撃モーションがとれるのかどうか分からない。とれなければ、1のダメージすら与えられない。

 けれども、走らずにはいられない。走らなければいけない。


 俺が一番ホロードさんと付き合いが浅く、その死を悼まないのだから。

 俺が一番この中で強く、倒せる可能性が高いのだから。

 俺が一番……。


 4m圏内に入り、引かれた赤い2本の線を、体をひねって躱し、懐に潜り込む。

 今度見えた赤い線は3本。全てを躱せるエリアはない。一発も食らえば死ぬ今の俺からすれば、ここはまさに、死地だ。 


 だが、その死地に、4人の、平凡な彼等を叩きこんだのは誰だ。


 俺にはたくさんの才能がある。説得だって上手いんだ。凡人が反対できるはずがない。彼等が行くと決めたのは、俺が説得したからだ。

 だからこそ俺は、行かないようにも説得できた。時間はかかったかもしれないが、きっとできた。でもしなかった。多分嬉しかったんだ、ダンジョンを討伐したら、俺と一緒に別のダンジョンへ行くと言ってくれたから。


 馬鹿げた話だ。


 馬鹿げた話だ。


 あまりにも。


 だから俺は、ここで、サファイアマンティスを倒さなくてはいけない。


『サファイアマンティス

  ジョブ:青宝石蟷螂

  HP:18 MP:85

  ATK:96 DEF:96

  CO:--』


 剣で斬る。斬る。斬る。


 予想通りダメージは入らない。2回か3回の攻撃で、1度ダメージが入る、そんな確率。

 倒すまで一体何度攻撃しなければならないだろう。何度攻撃を避けなければいけないだろう。


 だが構いはしないと、俺は1mも離れていない近距離で戦い続けた。


 斬って、躱して、斬って、躱して、斬って、斬って。

 赤い線と青い線があれば、天才に見える景色を辿ることができる。だから俺でも戦える。


 けれども、俺はやっぱり天才じゃないから、願いは何も叶えられない。


『サファイアマンティス

  ジョブ:青宝石蟷螂

  HP:6 MP:85

  ATK:96 DEF:96

  CO:--』


『キジョウ・エト

  ジョブ:異世界民

  HP:0+2 MP:100

  ATK:1 DEF:6+3

  CO:欠損 流血』


 何度も斬りつけ、さっき攻撃すらも受け止めた剣は、根元からポッキリと折れてしまった。


 もう、俺に戦う術はない。


 体から力が抜けていく。

 気が抜けたというか、心が折れたというか。まあ、なんでもいい。


 けれど、これで良かった。


 残るHPは6。

 ライアスさんの持つATK33の武器での攻撃なら、4回攻撃すれば倒せる。

 ケビンさんは骨折してしまい、ATK24になっているが、それでも5回攻撃すれば倒せる。


 足を斬られ、立ち上がれないにしても、剣士ジョブのスキルは使えるかもしれない。

 遠くから斬撃をただ放つだけでは、簡単に防御されるだろうが、後ろを向いている時に攻撃するなどの工夫があれば、当てられるだろう。


 ヨランダさんだっているのだ。注意を引き付けてもらえば、可能性は上がる。そうしたなら、きっと、多分勝てる。


 うん、なら、これで良かった。


 ケビンさん達にとっては、最高なんじゃないか?


 自分達の仲間を死に追いやった仇は死に、残った自分達は栄誉を手にする。

 むしろ物語の主人公のような恵まれた結末に見える。


 だから俺はもう良い。もう嫌だ。


 自分のせいで人が死ぬとか、目の前で死なれるとか、助けられなかったとか。

 案外、キツイ。

 こんなにも辛いもんなのかと驚いた。漫画やドラマの主人公は、こんな局面をいくつもいくつも乗り越えているが、俺にはちょっと無理だ。


 出会って1ヶ月も経たなくて、よく会話するようになったのはここ1週間で、少し見下していたようなところもある、そんな相手が死んだだけだけど、俺には無理だ。


 これは無理だ。

 もう1秒だって、こんな狂ってしまいそうな現実と向きあいたくない。


 ぐるぐるぐるぐると、罪悪か、重責か、贖罪か、なんだかよく分からないものが心の中をうずまいている。

 頭は何も働かないし、働いて欲しくもない。もう疲れた。全部、全部疲れた。


 けれども、そんな俺の中に、声が響いた。


「死ぬな! エト!」


 ケビンさんの、大きな声。

 ハッと、閉じかけていた目を見開いて、俺はそちらを見る。


 ケビンさんは、俺に向かって剣を投げていた。俺がキャッチしやすいように、ふんわりと。


 投げられた剣の向こうに、ケビンさんの顔が見える。

 焦点は自然とそちらに合って、目と目が合う。


「行け! 頑張れ! 生きろ!」

お読み頂きありがとうございます。

もうすぐ終わります。


頑張ります。

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