4月4週 土曜日 その2
村26
ダ19 フ1
魔100 中11
剣100 剣中11
採取28
草11 花5 実12
料理1
ブルーマンティスとは、その名の通り、青いカマキリ。
体高1m20cmほどで、鎌を使って攻撃してくる。
鎌での通常攻撃は、振りかぶるものであるため、見てからでも防御可能だが、しかし振られてからの速度は目をみはるものがある。
当たり前のように、カルモーダンジョンに出現する16種の魔物の中で、ダントツに強い魔物である。
アクアマンティスとは、その名の通り、青いカマキリ。
体高2m20cmほどで、鎌を使って攻撃してくる。
腹部分に、アクアマリンのような宝石を取りつけていて、おそらくはそこが弱点なのだろう。
しかしそこへ攻撃するためには、人が扱う武器よりも、明らかに長いリーチの鎌を、かいくぐらなければならない。
鎌での通常攻撃は、やはり振りかぶるものであるが、体が大きい分、振った際の速度と威力は大きい。
己の反射神経に自身がないのなら、それはそれは恐ろしい攻撃であり、ともすれば、武器や防具ごと、体を真っ二つにされてもおかしくない。
種族的には、ポイズンスパイダーも強い部類らしいが、それでも、アクアマンティスの方が強く、11階に出てくるフライトンボの上位種、テンプラトンボよりも、絶対的に強い。
だが、そんなアクアマンティスよりも遥かに強い魔物が、その上位種、サファイアマンティスである。
サファイアマンティスとは、その名の通り、青いカマキリ。
体高4mほどで、鎌を使って攻撃してくる。
額部分に、サファイアのような宝石を取りつけていて、おそらくはそこが弱点なのだろう。しかし、そこの高さは4m、届くはずもない。
そしてカマキリは別に、縦に長い昆虫ではない。どちらかと言うと、平べったい部類の昆虫だろう。
だから、その存在感は圧倒的で、そして、鎌のリーチはおそらく4mを越える。
サファイアマンティスは、俺の剣が届くはずもない距離から、攻撃の手を1本伸ばしてきた。
「う! お!」
迫り来る赤い線。
俺がかがんで躱すと、その赤い線を辿るように、目で追うことも全くできない一撃が駆け抜ける。
風を切るその音は、何もかもを真っ二つにできそうな、轟音。
心臓が弾けそうだ。
だが、もう1発。
俺は、縦に振り下ろされた追撃を斜めに走りながら躱す。攻撃は2発で終わる。
基本的に2連続攻撃なのかもしれない。
「エト!」
「俺は大丈夫です! 早く他の2匹を!」
「――分かった! すまん! ホロード、ブルーマンティスを頼む。ライアス、俺達はそっちをやるぞ!」
「いや! こっちのでかいのは俺1人に任せろ。ケビンとホロードは2人でブルーマンティスを倒してくれ! 早く俺とエトを助けてくれよ?」
俺が走り抜け、サファイアマンティスの懐にもぐりこんだ辺りで、4人も行動を開始した。
どうやら、ライアスさんが1人でアクアマンティス相手に時間を稼ぎ、その間にケビンさんとホロードさんでブルーマンティスを倒すようだ。
ライアスさんは大きな盾を持っているし、正面からの1対1なら、大概の相手に持ちこたえられる。
特にダンジョンの魔物は、賢くないCPUのようなもの。
ライアスさんの現在のDEFも33あるし、ATK64相手でもなんとか持ちこたえられる、はず。きっと大丈夫だろう。
3人揃ったなら、ATK64、DEF64の相手は、計算上楽勝だ。
60m×60m×60mの広いボス部屋の至るところで、戦闘音が鳴り響く。
「ホロード! 今だ!」
「あいよお!」
人の声。
「ボゥッ」
カマキリの声。
ザッ、というような、グゥ、というような、肉を切る音。
カンッ、というような、剣と鎌が勝ちあった音。
そして、ブオンッ、というような、巨大で重たい物が空気を切り裂く音。
それは、今まさに俺の耳元で鳴り響く。
「ちっ!」
俺は舌を鳴らして後ろへ一歩下がった。
距離は4mちょっと。
一応は射程圏外だ。
『キジョウ・エト
ジョブ:異世界民
HP:100+20 MP:100
ATK:18+10 DEF:20+5
CO:--』
『サファイアマンティス
ジョブ:青宝石蟷螂
HP:89 MP:95
ATK:96 DEF:96
CO:--』
戦闘開始から、おおよそ5分くらいだろうか。
8回の攻撃を当て11ダメージを与え、俺は逆にHPを1も減らしていない。
鎌の振り方による攻撃パターンは複数あり、現在観察中だが、ある程度は分かった。それにスキルも1つ見た。
おそらく第二段階のスキル。ブルーマンティスのスキルと同じだったため、もしかすると第一段階のスキルも同じなのかもしれない。だとしたら厄介だが、経過は順調だと言って良い。とても順調だ。
しかし、強い。
異常に強い。
俺は息を大きく吸い、呼吸を止め、一歩、前へ進む。
そこはサファイアマンティスの攻撃射程圏内。赤い線が、視界に映る。
俺から見て左から斜めに振り下ろされる形の赤い線。それと、反対側の鎌が繰り出す、横薙ぎの赤い線。今回の攻撃も2連撃。
俺は横にずれて、まずは振り下ろしの軌道を外れる。サファイアマンティスの鎌はまだ振られていない。
だが俺は、すぐさま2本目の赤い線に対しても、かがむ形で既に軌道から外れるよう動いた。まだ、1撃目の攻撃が行なわれていないのに。
しかし、このタイミングでなくば、攻撃は躱せない。
ピク、とサファイアマンティスの右手の鎌が動いた。そう思った瞬間、ブオンと恐ろしい風切り音を残して、既に鎌は、赤い線の終端に辿り着いている。
動きだしてから、振り下ろして地面に着くまで、おおよそ瞬き1つの間もない。
そしてすぐさま2撃目。
そちらも鎌がピクっと動いたと思った次の瞬間には、振り終わっている。
あらかじめ避けていなければ、絶対に躱すことはできない。頭のすぐ上を、チリチリとした感覚だけが、こだまする。
冷や汗が止まらない。
俺には赤い線が見える。攻撃の軌道は全て察知できる。
サファイアマンティスはよくある虫系魔物のように、対象が避けたからと言って、追尾攻撃をしてくるわけではない。だからあらかじめ、攻撃がこない場所に体を入れられれば、それだけで攻撃を躱すことができる。
いや、違う。
そうしないと、攻撃は躱せない。
鎌を振る予備動作は、ほぼ無いに等しく、振られてからの速度は、決して避けられる速度などではない。
そもそも、目にも見えない。よくあるスローモーションのカメラですら、残像しかとらえられないに違いない。
人間が勝てるようには、きっと、できていない。
そもそも、こうやって赤い線が見えていて、回避運動をとったとしても、全て躱しきれるわけじゃない。
既に俺は、攻撃を2度も受けている。
HPヘラナクナールスコーシ、戦闘開始直後に服用したあれのおかげで、HPが減っていないだけだ。
俺は攻撃を回避し、射程圏内の中を、前へと、さらに進んだ。
一歩、二歩。しかしその瞬間、再び赤い線が視界に引かれる。今度は3本。
右鎌の横薙ぎから、左鎌の振り下ろし。そして最後は右鎌を斜めに振ってくる。
3本全てが当たらない回避スペースは――ない。
俺は右前へ飛び込んだ。
そこは右鎌の横薙ぎが当たらず、左鎌の振り下ろしも当たらないエリア。しかし、最後の右鎌を、まともに食らうエリア。
ここが一番マシだった。
サファイアマンティスの連続攻撃は、数が増えれば増えるほど、逃げ場が削られる。
3連続攻撃になれば、例えどこに避けようが、こんな風に、どれか1つの軌道上に入らざるを得ないのだ。
攻撃を受けた2度も、今のような3連続や、これ以上の4連続攻撃だった。
鎌が振られる。
右の横薙ぎが、俺の頭の上を通りすぎ、すぐさま左の振り下ろしが地面に突き刺さる。
そして、右の斜め。
赤い線は、攻撃が来るタイミングも表示してくれている。
自らの、死へのカウントダウンにも思えてならないが、それがなくちゃやっていけないほどありがたい機能だ。
俺は飛び上がる。
ジャンプではなく、走り高跳びの背面飛びのような要領で、バーに見立てた鎌を、飛び越えるように。
冷や汗1つでは済まないようなその試みは、見事に成功する。
鎌は俺の真下を、何にも当たることなく通り過ぎた。
俺は空中でそのまま一回転。
バク宙のような、バク宙半回転捻りのような。ともかくそんな動き。生まれて初めてバク宙をしたが、案外できるものだ。火事場の馬鹿力ってやつかもしれない。
自分を褒めたい。バク宙も、避け切ったことも。
ホッと一息つきたい。
しかし、そんな余裕は欠片もない。
むしろ、呼吸1つする隙間はない。
射程圏内に入ってから、俺は、無呼吸のまま、100mを疾走する短距離選手のように、全力で動いている。
そうしなければ、たちまち……。
「んんん!」
俺はバク宙の衝撃を受けている足を、無理矢理前に動かす。
目の前にはサファイマンティス。の、腹。
懐に潜り込んだ。距離は、70cmほどといったところか。つまりは、俺の射程圏内。
剣を振り、俺は、1発、2発、3発、と攻撃を入れる。
4発目――、は、無理か。
サファイアマンティスの弱点は、おそらく額のサファイアのみ。そこは届かない。
攻撃できる部分は体部分だけだが、そこは非常に硬い。相当に強い攻撃をしなければ怯まないのだろう。しかし俺にそんな攻撃が繰り出せるかも不明だし、武器が持つかも不明だ。怯ませることは不可能。
よって、サファイアマンティスの攻撃は、即座に再開される。
赤い線が俺を真横から凪ぐ。
それをしゃがんで避け、続く斜めに振り下ろされた鎌も躱す。
早く一息つきたい。
と言うよりも、息をしたい。だが、まだ、吐くことも吸うことも許されない。
鎌を躱し、攻撃が終わったかと思った次の瞬間、すぐさま再び赤い線が引かれた。サファイアマンティスの攻撃と攻撃の間隔は、非常に短い。
赤い線は、今度は最大数。4本。避ける隙間なんぞ与えないくらいに引かれ、襲いかかってくる。
俺は躱して、躱して、躱して。
この攻撃群に対して、懐に入ることは到底できない。おそらく物理的にできないようになっている。懐に入れない用、もしくは懐から追い出す用に組み立てられた攻撃なんだろう。
だから、4連続攻撃を全て躱す、そんな奇跡のような出来事の代償に、俺は、命を賭けて近づいた距離を手放し、1m2m3m4mと離された。
サファイアマンティスの攻撃射程圏外へ、まんまと追い出された形である。
いや、違う。
その距離は、サファイアマンティスの、きっと絶好の攻撃距離。
『サファイアマンティス
ジョブ:青宝石蟷螂
HP:85 MP:90
ATK:96 DEF:96
CO:--』
第二段階のスキルの発動距離だ。
両側から、包みこむように迫り来る赤い線が見える。
俺はバック走のような形で、後ろへ走った。
しかし、この攻撃は、よくある虫系魔物の攻撃のように、追尾してくる。赤い線は、俺が走った分伸びてきた。
5mの、6mの距離をとっても、同じ分だけ、赤い線は伸びてくる。
だがタイミングは伸びない。
まさに死へのカウントダウン。
サファイアマンティスの第二段階スキルは、両鎌を広げ、上へ持ち上げている上半身を前面に伸ばし、抱きつくように捕らえる攻撃。
まさに、捕食という言葉が良く似合う、カマキリらしい攻撃だ。
ブルーマンティスも同じ第二段階のスキルを使っていた。
ATK32、DEF28の状態で、11ダメージ食らっていたため、おそらくダメージ倍率が2倍になるスキル。同じであれば、ATK96のサファイアマンティスから食らえば、38ダメージ。
壮絶なダメージだ。
計算なんてするもんじゃない!
「ぬうう――!」
体中に酸素が足りない。呼吸がしたい。
けれど、している暇はない。赤い線は、既に攻撃まで一刻の余裕がないことを示している。俺は、ほんの少しでも離れられるように、後ろへ倒れ込みながら飛んだ。
その瞬間、ガシャーン、と、交通事故が起こったような音と衝撃がした。
それは、俺の目からほんの数cmも離れていない場所で起こった音。鎌と鎌が、まるでハサミのように擦り合わさりながら閉じたのだ。
躱した――。が、鎌と鎌が擦りあうだけで、あんなえげつない音がするとは、一体どんな速度と威力だったのか。
巻き込まれていたらどうなっていたのか、考えたくはない。
避けれて良かった。
ゴロン、とかっこ悪くも後ろへでんぐり返しをして、俺はサファイアマンティスから8mほどの距離をとった。
「ふうう、はああ」
そしてここまで離れれば、息もできるだろうと呼吸を――!
『サファイアマンティス
ジョブ:青宝石蟷螂
HP:85 MP:89
ATK:96 DEF:96
CO:--』
ブルーマンティスの第一段階のスキルは、丁度、剣士ジョブの第一段階のスキルと同じで、剣の斬撃を飛ばす。というものだ。
遠くの距離から放てる一撃は、後衛や空を飛ぶ敵にも有効で、非常に優れたスキルと言える。
そんなもんを、ボスが使うなよ!
斬撃は真直ぐに俺の元ヘ走り、後ろへでんぐり返しをした直後の俺の腕に当たった。
剣を持つ右手に衝撃が走り、後ろ側へはじき飛ばされ、剣はすっぽ抜ける。
『キジョウ・エト
ジョブ:異世界民
HP:80+20 MP:100
ATK:18+10 DEF:16+4
CO:--』
ダメージは20。
「いっつうう――! うお――、重い」
見れば、右腕の鉄の防具は、斬撃が当たった箇所が、綺麗に裂けていた。肌までもが見えている。
そのため腕の防具は防具としての力を失って、DEFを減らし、本来の鉄の重さを取り戻す。
たった一発で。
しかも遠距離攻撃の一発で防具壊れるのかよ……。
顔ではなく腕だったのは、全くの偶然だ。装備破損の出費が増えたことにも肝が冷えるが、これが顔だったらと思うと、それ以上に肝が冷える。
強い。
本当に強い。
俺は重くなった腕の防具を外す。
左腕の防具は無事だが、右のが壊れた時点で、左の方もセットじゃなくなり重くなっていた。なら邪魔だ。
鉄を裂くような一撃を、生身の腕で食らえば、その結果は火を見るよりも明らかだが、仕方ない。重さは邪魔だ。そもそも、防具があっても、まともに食らえば腕も胴も飛ぶだろうし。
HPヘラナクナールを飲んでいる際、食らった2度の攻撃は、それぞれ掠った程度だが、それでも防具の一部を簡単に持ってっている。攻撃をほんの少しも減速させられずに。
きっとその内側に肉があっても、同じように持って行くのだろう。
防具なんて一切意味がない。
強い。
……というか、ちょっと強すぎやしないか?
一発食らう度に防具壊れるって、もう計算なんて、とんでもなく無意味だよな。
……。
「ふうー、すうー」
しかし、俺は、またしても、サファイアマンティスの射程圏内に挑む。
もし1発でも食らえば、その時点で、動けなくなるかどうにかして、そして死んでしまうかもしれない。
けれど俺は前に進む。
『アクアマンティス
ジョブ:青石蟷螂
HP:26 MP:79
ATK:64 DEF:64
CO:--』
『ケビン
ジョブ:剣士
HP:56+20 MP:57
ATK:28+5 DEF:28+5
CO:--』
『ライアス
ジョブ:戦士
HP:34+20 MP:46
ATK:27+10 DEF:28+10
CO:--』
『ホロード
ジョブ:冒険者
HP:58+20 MP:85
ATK:26+5 DEF:26+5
CO:--』
『ヨランダ
ジョブ:僧侶
HP:100+20 MP:53
ATK:54+5 DEF:22+5
CO:--』
「あとちょっとだ! 待ってろエト」
「死ぬなよ! 死ぬなよ!」
「絶対勝とうぜ!」
「○○○○○○○○○○ヒール! 回復は任せなさい! ○○○○○○○○○○ヒール!」
死なせない。
死なせたくない。
今ある、たった一つの願いを叶えるために。
お読み頂きありがとうございます。
ブックマーク評価なども、本当にありがとうございます。励みになります。楽しんで頂けていたら嬉しいです。
明日、土曜日が終わるかな、と思っておりますが、まだ分かりません。
終わらせられるよう、頑張ります。
ありがとうございました。




