4月3週 火曜日 その2
村15
ダ10 フ1
魔100
剣100
採取28
草11 花5 実12
料理1
ポイズンスパイダーが、再び迫ってくる。
試しに少し左へ避けてみるが、やはり攻撃は追尾してきた。
避けられない。攻撃で食い止めるしかないようだ。
俺は剣を強く握る。
そして、その場で踏ん張りながら、迫り来るポイズンスパイダーに合わせて剣を叩きつけた。
青い線は見えているが、そんなもの気にしないで、とにかく全力。
だが、どうやらそれでもパワーは足りなかったらしい。
剣はぐいっと押し戻され、腹部に鋭い牙による噛み付きを食らった。
「いってえ!」
『キジョウ・エト
ジョブ:異世界民
HP:43 MP:100
ATK:10+5 DEF:16
CO:流血』
ナイフで刺されたことはないが、きっとそれくらい痛い噛み付き。
いや、多分実際に、ナイフの代わりに牙が刺さっているんだろう。ぐさっと。
ダンジョンで良かった。
フィールドでこの噛み付きを食らっていたら、きっと一発で死んでいたに違いない。
だが、ダンジョンでも、そう何度も食らうわけにはいかない。
HPは既に半分、50を下回っている。あと痛いし。
牙から解放された俺は、ポイズンスパイダーから距離をとる。
だが、仕切り直すことはできない。
すぐさまポイズンスパイダーは迫ってくる。
「こんのおお!」
ポイズンスパイダーの顔面を、力の限りぶっ叩く。
青い線からは大きく外れるが、ともかく強い一撃。
しかし叩いて分かった。
既に握力がない。剣が当たった瞬間、手の中で剣は大きく動いてしまっている。
これでは思い切り叩いても、衝撃はそう強く与えられない。
だからもちろん、俺はまた噛み付きを食らう。
『キジョウ・エト
ジョブ:異世界民
HP:36 MP:100
ATK:10+5 DEF:12
CO:流血』
とても痛い。
そしてDEFがまた下がった。
流血の状態異常が酷くなれば酷くなるほど、DEFは下がっていくようだ。
ダンジョンだから血は出ていないが、フィールドだったらきっと血まみれなんだろう。
まあ、ナイフで刺されまくっているとしたら、そりゃそうだ。
現在4割減。もしくは8減。
……あ、防具が壊れてDEFが減ってる可能性もあるな。
そっちはやめてくれよ。
金がかかる。
「いや、でももう関係ないか?」
俺は呟く。
「ここで死ぬかもしれないし」
もうポイズンスパイダーの攻撃は止められない。
攻撃に打って出ようにも、剣を振り回すだけで、今の俺は剣をすっぽ抜けさせるだろう。
なら、無理だ。
死ぬ。
怖い。
怖い。
それに暮らし辛い、というか暮らしが辛い異世界に無理矢理連れて来られて、こんなそうそう死ぬだなんてあまりにも理不尽だ。
ただただ不幸を味わわされただけだ。
けれどもどうしようもない。
金と才能が足りなかった。
最近俺は、ちょっと強くなった気でいた。
元々才能はある方だから、ちょっと練習すれば強くなる。上手くなる。
気が大きくなって、ダンジョンを舐めていた。
だから今日、5階6階と戦った疲れた状態で、6階のボスに挑んでしまった。
ろくに下調べもせずに挑んでしまった。
強くなったと思ったから、まさかたった6階で死ぬことになるなんて思わなかった。
金と才能が足りなかった。
ATK10、DEF20、これ以上の装備を購入する金が足りなかった。
そしてその装備で勝つだけの才能が足りなかった。
そう、才能が足りなかったのだ。
天才ではないから。
「ああ、でもそれなら仕方がないか」
それなら諦めがつくような気がする。
地球でも、そうやって諦めていたから。
今回諦めるのは、夢とか、未来とか、人生とかではなく、命そのものだが、まあ一緒なようなものだ。
多分、俺は地球でも、死んだように人生を生きただろう。
なるほど、とそんな感じの感情が、俺の中で渦巻く。
結局そこか、と何もかもが腑に落ちた。
「世知辛いなあ、人生は」
ポイズンスパイダーが迫り来る。
俺は、剣を振らなかった。
しかしまあ、惜しむらくは、課金の力を貰えたのに、ほとんど活用していないことだ。
課金アイテムをもっと使いたかった。
『チンコゲンキナールスコーシ 銅貨5枚』
こんなアイテムだってあったのに一つも使っていない。
これを使えば、みるみるチンコが元気になーる。……元気に?
「痛い痛い痛い痛い」
俺はポイズンスパイダーに噛みつかれながら、課金リストを操作する。
そして、
『カラダゲンキナールスコーシ 銅貨10枚』
元気になる課金アイテムを見つけた。
すぐさま購入し、ポイズンスパイダーの牙から解放されたところで、それをアイテムボックスから取り出す。
それはビンに入っている液体で、どうやら飲むものらしい。
用法容量は不明だが、基本的にこういうのは飲み干せば良いんだろう。
俺は蓋を開け、飲み干した。
そして、
「うおおおおー元気になったぞー!」
俺は元気になった。
ビンを投げ捨て、剣を構える。
先ほどまでとは違う、とてもビシっとした構え。
そこから放たれる一撃は、ポイズンスパイダーの攻撃を見事食い止めた。
「いや、確かに元気になったけど、結構疲れ残ってるな。腕がだるい」
怯んだポイズンスパイダーに、俺は攻撃を1回2回と決める。
しかし、全力攻撃の後に、機敏な動きができるほど、体は元気になっていない。
いつものように4回の追撃も、続けざまに怯ませることも不可能だった。
『ポイズンスパイダー
ジョブ:痛毒蜘蛛
HP:59 MP:96
ATK:24 DEF:24
CO:--』
もっと課金リストを探して、強くなれるものを探すか。
いや、そんな時間は中々ない。
ポイズンスパイダーは再び俺目掛けて向かってきた。
赤い線が、俺の腹部目掛けて。
そして青い線が、ポイズンスパイダーが来るだろう場所に、数本表示される。
しかし、この青い線。今までの魔物と違う出方をしている。
今まで出てきた魔物達は、どれも小さな魔物だった。
だから青い線は、小さな範囲で固まっていたし、全て打ち下ろし。適当に頭目掛けて振れば、大抵沿っていた。
しかしポイズンスパイダーは大きい。
青い線は、俺から見て、かなりバラけた範囲に出ている。全て一歩踏み出せば届く範囲ではあるが、ちょっと斜め方向だったり、下から斬り上げ、横から斬り払いだったり。
コガネオンみたいな感じだ。
そして俺も、ともかく強く、を意識していたので、青い線は無視して斬っていた。
真正面に青い線は出ていなかったが、ともかく真正面から顔面に。
斜め方向よりも、真正面から行った方が、力は入るし止め易い。そんなことは当たり前だろうし、疑問はなかった。
けれど、よく考えると、それは違うのかもしれない。
なぜなら、俺は天才じゃない。
天才じゃないのに、自己流のやり方をしていてはいけない。
俺が小学校時分にしていた練習方法は、プロ野球選手のフォームを動画サイトで見て、モノマネする、という方法だ。
そしてそれをマスターしてから、自分に合うものを探し、変えていった。
おそらく、自分なりのフォームで練習していれば、上達は大きく遅れただろう。
だから、今回も同じだ。
自己流で戦ってはいけない。
青い線を無視してはいけない。
俺は、構えを真正面から少しずらす。
そして、ポイズンスパイダーが向かって来るタイミングに合わせ、青い線に沿うように剣を振った。
威力は、多分いつもより低い。
満身の力を込めても、狙いの軌道で振れるほど熟練はしていないから、仕方ない。
しかし、だからこそ剣は青い線に綺麗に沿って、
「ヴヴヴゥッ」
『ポイズンスパイダー
ジョブ:痛毒蜘蛛
HP:55 MP:96
ATK:24 DEF:24
CO:欠損』
向かってきていた、ポイズンスパイダーの目の1つに当たる。
「おお!」
ポイズンスパイダーは、大きく怯んだ。
そして俺は、全力で攻撃していなかったので、まだ余力を残している。
返す刀、これは剣だが、一気に3回、ポイズンスパイダーを斬る。
さらに、蹴り。
見えた青い線に沿うように、蹴りを放つと、吸い込まれるように目にヒットする。
ポイズンスパイダーは再び大きく怯み、俺は最初の一撃から数えて、8回のダメージを与えた。
『ポイズンスパイダー
ジョブ:痛毒蜘蛛
HP:34 MP:96
ATK:24 DEF:24
CO:欠損』
ここからは、予想以上に簡単だった。
ポイズンスパイダーは俺の一撃で怯み、ほんの2,3秒ほど動きを止める。
俺はその隙に右側へ回り込み、足に一撃を入れて、さらに同方向、後ろ側へ回り込む。
部屋の大きさは縦横20m。
普通の部屋の倍の大きさがある。
だから、足を広げた大きさが3mかそれ以上あるポイズンスパイダー相手にも、なんとか周りこめる。
おそらく、回り込む方向を失敗すると、部屋の隅に追い込まれるが、それさえ間違わなければ余裕だ。
ひるみが収まり、足は再び動き始める。
ガシン、ガシン、ガシン、と、なだらかに動くピストンのような足が、その体を方向転換させる。
それはゆっくりに見えないこともないが、俺がポイズンスパイダーの回りを走るよりかは早い。常に後ろに回りこむことは不可能。
だから俺は止まり、その場で足に攻撃を行う。
1発、2発、3発。
そうしていると、顔がこちらを向く。
いくつあるのか分からない目。
噛まれれば異常なまでの痛さを伴う、肉を食いちぎるための2本の牙。
距離をとった俺に、ポイズンスパイダーはそれら牙を大きく広げ、噛みつくために向かってきた。
しかし、目を斬れば、怯む。
どんどん斬る力を弱めているが、かなり弱い力でも確実に怯む。
これが弱点、というやつか。
もしかするとブラウンスパイダーも目が弱点だったりするのだろうか。
いや、でもあの大きさだと狙い辛いな。
目が拳大もあるからこそ狙える。
もしかするとブラウンスパイダーよりもポイズンスパイダーの方が弱いかもしれない。
『ポイズンスパイダー
ジョブ:痛毒蜘蛛
HP:0 MP:96
ATK:24 DEF:24
CO:死亡』
こうして、6階のボス戦は、あっけなく終了する。
「はあああー、疲れた」
俺はそう言って剣を手放し、座り、ついでに寝転がった。
しばし休憩だ。
もうここに魔物はいない。
ボスが再び動きだした、なんてこともない。
『痛毒蜘蛛の肉
ランク:6』
最早あやつは、肉になった。……肉?
肉……。肉?
蜘蛛に肉ってあるのか。
見た目は灰色。食欲を全くそそられない、気味の悪い色だ。食用じゃないのか?
まあ……売れるならなんでもいいけど。
「あ、防具に穴空いてる!」
噛み付きを何度も食らった腹、そこの革部分に穴が開いていた。
まさか防具買い直しか?
『キジョウ・エト
ジョブ:異世界民
HP:26 MP:100
ATK:10+5 DEF:20
CO:--』
いや、DEFは下がっていないから壊れていない。
剣だって欠けたりヒビが入っても使えるし、まだいける。
「ふう」
と、俺はまた息を吐く。
そして天井を見つめて思う。
「結局あれから攻撃食らわなかったな」
今度ポイズンスパイダーと戦う際は、きっと余裕だろう。もしかしたら1発も食らわないかもしれない。
この課金の力さえあれば。
嫌な響きの力だ。
だが、天才じゃない者が、天才の真似事をするには、そんな怪しげな力に頼るしかないんだろう。
事実、頼らなければ、俺は死んでいた。
俺は凡人よりか才能はあるが、死の淵に立ってもなお、天才には及ばない。
自分を信じて戦っても、死ぬだけだった。
色んな記憶が蘇る。
努力した記憶だ。走馬灯にしては少しタイミングが遅い。
ああ。何もかもが無駄だった。
俺の努力はやっぱり無駄だった。知っていたのに、俺は何をはしゃいでいたのだろう。
ズズ、と俺は鼻をすする。
腕を目に当て、また、すする。
助かったからか。
ホッとしたからか。
嬉しいからか。
辛いからか。
悔しいからか。
悲しいからか。
けれどもまあ、俺の人生は、傍から見るよりも挫折にまみれている。
「あーあ、明日からまた頑張ろう」
俺はそう言って体を起こし、7階に行き、ダンジョンから出た。
本日の稼ぎは、なんと約銀貨12枚。
ポイズンスパイダーの肉は、銀貨4枚で売れた。なお、糸だったらそれ1つで銀貨12枚らしい。6階のボスからはほとんど出ないようだが。
異世界に来た当初に持っていた剣まで、もう少し。
俺は今日も元気よく眠った。
お読みいただきありがとうございます。
間が空きましたが、今日からまた頑張ります。
追いつく夢は諦めていません。
よろしくお願いします。




