4月2週 火曜日
ダ4 フ1
魔53 中4
剣53 剣中4
採取28
草11 花5 実12
料理1
睡眠は人間にとってとても重要なものである。
隙間風吹く牛小屋で夜を明かしたなら、疲れは取れない。
藁のベットも、寝心地は悪くないが、体が溶けるような睡眠はとれない。
化物が身近にいては、心も休まらない。
質の悪い睡眠をとれば、次の日は、疲れが十分にとれていないまま、動かねばならない。
しかし、宿屋のベットで眠ることができたなら、そんな問題など、起こりようもない。
隙間風もなく、寝心地の良いベットで、安心の1人部屋なのだから。
次の日は、元気いっぱいの身体で、思う存分動くことができるだろう。
俺はそう思って、昨日、宿屋のベットで眠った。
そして今日。宿屋のベットで目覚めて、気付く。
「うえ。まだ気持ち悪い」
二日酔いである。
昨日の夜に、お酒を飲んだ、その後遺症であった。
ただし、1杯しか飲んではいない。
他の人達が、3杯4杯、多ければもっと飲んでいるお酒を、たった1杯飲んだだけなのだ。
それなのに、二日酔いのような体調に陥ってしまっている。
「俺はお酒が飲めない体質だったのか……?」
あらゆる才能に秀でた俺だが、どうやらお酒の強さには秀でていないようだ。
まあ、そもそも日本人は、お酒を分解する酵素が少ない民族なようだから仕方ない。
それに、まだ16歳だ。
20歳になったらまたチャレンジしよう。
俺はそう誓って、気持ち悪さを無視し、今日もまたダンジョンへ行くための準備を始めた。
ベットから起き上がり、木板でしかない窓を開けて採光を取り込む。
今度は扉を開けて、水を持って来てもらうよう頼み、服を脱いで鎧を着込む。
鎧は、大きめのTシャツや、ゴムの緩々なズボンを穿くように。簡単で1人でも手早く着ることができる。
水が部屋に到着するまで、少々暇を持て余したくらいだ。
自分より年上のおじさんから、水の入った桶を受け取り、代わりに銅貨1枚のチップを渡す。
桶をテーブルに置いた俺は、水筒をその桶の中に沈め、水を満杯に入れた。
この水筒は、ダンジョンに持って行くためのもの。ダンジョンでは、数時間活動しなければ、今日を過ごすお金を稼げないため、水が必須である。
なお、起きたばかりで、既に喉が渇いていた俺は、水筒にせっかく入れた水を、少し飲んでしまった。
再度、桶の中に水筒を沈め、減った分を入れ直す。
そして、桶に残った水を、顔を洗うのに使って、ただの布と呼べるようなタオルで顔を拭くと、そのまま部屋を出る。
カウンターに座る宿屋の店主に、一言挨拶をして、部屋の掃除と桶の水の処分をお願いし、裏口にあるトイレへ。
もう、水のマズさにも、トイレの臭さにもなれてしまった。
水を飲んでも、お腹はくだったりしない。
俺は、用を足す為に外していた腰鎧を、再び穿くように身につける。
そして、起きてから30分も経っていないだろうが、早速ダンジョンに向かって歩く。
いや、その前に、昨日、俺が吐いた吐瀉物を掃除してくれたお婆さんへ、お礼を言いに向かった。
「八百屋でなんか買って行け」と、道端で偶然出会った、1つ2つ年上の若い騎士さんに言われたため、八百屋に寄ってから。
すると、お茶を入れてあげると言われ、一度は断ったものの断りきれず、葉っぱ臭いお茶を入れてもらう。その後も世間話に付き合わされるが、そのまま軽い朝食も御馳走になった。
朝食を異世界の人、というかカルモー村の住人はとらないようなので、どちらかというと茶受けか。
最近、村の人が優しくなってきた気がする。
俺も村の住人になってきたということだろうか。それともただの同情だろうか。
苦労しているからな。
まあ、皆、良い人だ。
しかし、お婆ちゃんの家から出た後、先ほどの騎士さんに出会うと、「お茶入れてもらえたろ?」と反笑いで聞かれた。
「はい」と答えると、「あのお茶マズイよなー」と笑いながら言っていたので、嫌な奴もいるようだ。 確かに、お茶はマズかったし、湯のみが汚かったが、現代人の俺から見れば、何もかもがマズイ。
本当に美味しいものを知らない奴が、批判する権利はない。
「いやあ、まあ、好き好きですよ。それじゃあ」
とは言う勇気もないので、言葉を濁して、別れを告げる。
そうして、俺は、満を持してダンジョンヘ向かった。
だが、今日のダンジョンはおかしかった。
1階。
クレーアントが2匹、キングアントが1匹いる1階。
しかし、クレーアントは、どこを探してもいない。
ボス部屋の中に、キングアントはいたので、倒すことができたが、クレーアントのドロップアイテムは、1つ銅貨30枚もするため、いないのは痛い。
そして、2階に向かったのだが、2階にも魔物はいなかった。
2階には、クレーアントと、フトリポリ、というダンゴムシのような魔物がいるはず。
しかし、1匹もいない。
3階にも、やはり1匹もいない。
4階にも、いない。
本来、8匹の魔物がいるはずなのに。
一体なぜ。
そう思って、ヘルプにそんな質問をしてみたところ、ダンジョンは、魔物復活までに、幾ばくかの所要時間が必要である、と書かれていた。
その幾ばくかが、正確に何時間なのかは書かれていなかったが、もしかすると、24時間なんてこともあるかもしれない。
昨日は昼前に入り、1階から全て魔物を倒していったのに、今日は朝早くから入っている。24時間は経っていない。
これまでを思い返しても、確かに、前日入ったよりかは、遅い時間に入ることの方が多かった。
早く入ろうにも、日々、酷くなる筋肉痛のせいで、行動できなかったのだ。
しかしおそらく、それが幸いしていた。
「そういうことか……」
腑に落ちた、そんな言葉が見合うような感覚。
「5階に行くか……? いや、5階だと俺のATKとあっちのDEFが、10で同じになるんだよな。流石にそれはきついか」
自身のATKと敵のDEFが同じになると、1度の攻撃でダメージが5しか与えられなくなる。HP100を0にするためには20回攻撃しなければいけない。
俺は、攻撃を止める強烈な1撃の後、2連撃を基本、時々3連撃としているから、一度の攻防で3度から4度のダメージを与えられる。平均すれば、16ダメージと言ったところだろうか。
つまり、攻防が6度あって、ようやく96ダメージ。
倒すためには、7度目の攻防までいかなければいけない。
1匹倒すためにそれとは……、中々大変だ。
4階は、5回の攻防で倒せることもあるので、それと比べると、大変楽。
それも、出てくる魔物の半分近くは、あの横歩きのカブトムシなので、異常なまでに楽だ。
5階で出てくる魔物がなにか知らないが、コガネオンやカブトムシのように、楽な相手とは限らない。
クレーアントのような魔物の可能性もある。
正直、4階のクレーアントは非常に強い。
剣で毎度攻撃を止めようにも、今でも時々失敗する。そして攻撃がかなり痛い。
階が上の方が強い、それがダンジョンの常のようなので、強い魔物が出てくる確率の方がむしろ高そうだ。そんな魔物が5階で出てきたらと思うと……。
俺は、4階をちょっと散歩するように歩いていた。
「もしかしたら、そろそろ、1階は復活してたりするか? 1階に行ってみるか」
そして、そう思い立つ。
黒いゲートに入れば、1階から2階へ上がるように、階を上がれる。
だから、きっと白いゲートに入れば、4階から3階へ下りられるだろう。
ダンジョンから出るにも、白いゲートを使うのだが、おそらく、意識次第でなんとかなる。
冒険者達の話によれば、ダンジョン入口にある黒いゲートに入る際、階数を思い浮かべながら入ることで、1階以外にも入れるとのこと。
それの応用だ。
俺は白いゲートに向かって、3階、と思い浮かべながら、入ってみた。
しかし、目の前には、林。
ダンジョン外に出てしまった。
「はは」
と、少し笑って俺は振り返り、洞窟の中、真っ黒のカーテンがかかっているかのような、黒いゲートに、もう1度入って行く。
どうやら、白いゲートに入ったら、絶対にダンジョン外へ出るようだ。
階を下げたい場合は、一旦外に出なくてはいけない、そういうことだろう。誰かに見られていなくて良かった、ちょっと恥ずかしいところだった。
そうして、俺はダンジョンへ、再び――。
目の前には、林。
「え?」
目の前には、林。
ヘルプに問うてみたところ、ダンジョンには、1日1度しか入れないらしい。
俺のその日の稼ぎは、キングアント1匹の銅貨70枚だった。
なお、すぐに村へ帰るのは恥ずかしかったので、人に見つからないよう、林で時間を潰した。
お読み頂きありがとうございます。
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