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143/144

7月3週 土曜日

村35 町54

ダ40 討伐1 フ20

王1

人1 犯1

魔100 中14 上1

剣100 剣中13 剣上1

土3 中1

木4

回復100 中4

治療87

採取100

草46 花16 実70

料理10

石工100

木工100

伐採100

漁1

歌3

体55

女7

 人の足で3日かかるような道程を、馬車は1日足らずで走りぬける。


 ゆえに馬車で2日かかるような道程は、人の足では6日かかる。


「いや無理だろ。6日も連続で歩けるか!」

「そうですね。大体3日目くらいで、足がパンパンに腫れます。ずっと歩いているので血が溜まるのでしょう。それでも歩き続けることはできますが、魔物が出てきた際への対処を考え、間で1日しっかり休んだ方が良いと言われています」

「ほらー」

 俺はアンネと2人、山中の道をひたすらに歩いている。


「それに現在のエト様の様子ですと、そもそも歩き通しでも6日では辿りつけそうにありません。足がプルップルですからね」

「……」

「出る前はあんなに勇ましかったというのに」

「ほっとけ」


 今日の朝の目覚めは、ここ最近ではないほどに清々しいものだった。

 やる気に満ち溢れているというか、とにかく頭も体もすっきりした素晴らしい目覚めだった。

 なので、今日村を出て次の町まで歩くか、もう1日休憩するか、どっちにするかとアンネに問われ、迷わず、

「今日出発しよう」

 そう答えたのた。


 しかし立ち上がった瞬間に、俺はそれが間違いだと気づいた。筋肉痛が凄かった。

 キリっと答えたので、筋肉痛だからやっぱり止めよう、とは言えるわけもなくそのまま出発。それでも最初の内は我慢して歩いていたのだが、30分くらいが経った頃から限界がきたようで、足がプルプルし始めた。もう3時間くらい経つと、生まれたての小鹿のようになって。

 道のぬかるみがキツイ!


 歩くスピードを緩めてもらっているなどすれば、もう少しもったかもしれないとは思う。しかし……。

 惚れた弱味とは恐ろしいものである。そんな弱音、一切言えない。


「って、現状が一番かっこついてないんだけどさ」

 俺はアンネに聞こえないくらいの声量で呟く。


 そこから俺は、アンネが「今日はここで休みましょう」と言うまで、ただひたすらに気合のみで歩き続けた。

 自分で自分を褒めてやりたい。

 まあ、アンネがそう言ったのはまだ夕方にもさしかかっていない早い時間帯だったので、多分かなり配慮してくれた結果だろうが。


 雨をしのげる横穴の中で、小さく燃える焚き火を横目に、死んだようにうつ伏せで寝転がりながら、俺は小さくため息をつく。

 そんな俺とは反対に、アンネはキビキビと動き回り、歩きながら採取していた食べられる野草や実なんかを、混ぜて団子にしていき、村から持って来た鍋で煮始めた。


 その辺の草、水は雨水。昔の俺ならお腹を下していただろうが、今はそんなことない。

 変わったもんだと、自分で思った。

 いや、一番変わったのは精神性だろうか。


「無駄に頑張ることが、なんだか今は、とても心地良いんだ」

 俺は言う。

「そうですか。良いことです」

 アンネは笑う。


「でも、もう歩きたくない」

 俺は言う。

「そうはいきません。歩きます」

 アンネは笑う。


 俺は深いため息をつきながら、「分かったよ」と答え、しかしアンネに足を揉んでくれるよう要求する。

 異世界にマッサージはないようで、アンネは「こんなもので楽になるのですか? 気合の問題では?」と疑問に持ちながらも、言う通りにしてくれた。


 10分ほど揉んでもらって、ちょっとだけ楽になった気がする。

 ……気がするだけかもしれない。

 歩きたくない……。


 そんなことを思っていた、その時のこと――。


「貴様等何をしている! ここは今ボルカノスベアルが発生した厳戒区域だ! 今すぐ火を消せ! 見つかるぞ!」


 歩かなくても良くなる事態が発生した。

 そんなことを叫びながら、馬に乗った人が3人ばかしやって来たのだ。


 聞けば、近くの町にはボルカノスベアルと戦うための騎士隊が現在結成中であり、この馬に乗った3人は斥候隊。格好は確かに騎士らしい。

 3人は発見報告のあった村まで、夜に紛れて見に行くつもりだったのだとか。


「おい貴様、誰に対し馬に乗ったまま話している。こちらにおわすお方をどなたと心得る、無礼であるぞ、今すぐ降りろ!」

 アンネがいきなり喧嘩腰で話し始めたため、両者をとりなし落ち着かせ、事の経緯を説明。

 アンネは俺のことをご老公かなにかだと思ってる件は置いておき、爪を見せることでボルカノスベアルはもういなくなったと分かってもらった。


「信じられん、たった2人でボルカノスベアルを倒すなど……」

「実質1人ですね。私は何もしていませんので。ふっ、エト様の凄さを少しは理解できましたか?」

「アンネはちょっと黙っててくれ。それでですね――」

「え?」


 さらに話を続けた結果、斥候隊の馬に俺達が同乗し一緒に見に行って、いないことが確認できたら、そのまま町に連れ帰ってくれることになった。

「サンクェルス古城町という、近辺で最も大きな町だ。そこで良いか?」

「ああ、キュレトンに行くまでの町でそんなとこあったような」

「キュレトン市まで行く街道沿いの町だ。合ってるぞ。それでは出発しよう。なるべく早く確認したい」


 歩かなくて良くなったことに対し、俺はやったと心の中で叫ぶ。

 ボルカノスベアルと戦っておいて良かった。

 ……いや、失ったものの方が遥かにでかいのだろうが。


 そうして俺達はそれぞれ、別々の騎士の後ろに座り、馬で来た道を戻って行く。

 馬の足は、馬車で3日かかるところも1日で辿り付ける。

 そのため俺が1日かけて歩いた距離など、一瞬で走破してしまう。ただし、俺の1日の努力の成果が無駄に……、とは一度も思えず、ただただ馬に乗るキツさにうめき続けるばかりだった。馬に乗るのって結構ツライな。


 確認後は、3人の騎士と3匹の馬の内、1人と1匹が先に知らせるため先行し、俺達は暗いので村で夜を明かすことになった。


 まさかまたこの村に帰ってくることになるとは思わなかったが、外で眠るよりは安心感がある。見慣れた天井を見ながら、俺達は横になった。

 もちろん、横を見れば同じ布団に見慣れた横頭。


 俺達はまた、薄い掛け布団の下で、手と手を触れ合わせて眠りにつく。

 アンネと共に過ごす夜は、いくらあっても悪くはない。向こうも同じことを思ってくれていたら、とても嬉しいな。そんなことを考えながら。


 ……。

 ……。

 いやでも……。


「凄いな! 本当に撃退したのか! 凄いぞ! いやあ本当は戦いなんてしたくなかったんだ。ボルカノスベアルとの戦いなんて、何人死ぬか分かったものじゃない。勝てるかどうかも分からない。いやしかし撃退したのか! ああいう強い魔物は逃げずに死ぬまで戦うことも多いのにな、それだけ痛めつけたってことか、いやあ凄いな」

「一体どうやったんだ? ってああ土砂崩れか。いやでもそれが起こるまで粘れたのが凄い。俺が参加した昔の戦いじゃあ、ガルバドスウルボアが一番強いんだが、あいつは全員で槍構えててもお構いなしで突っ込んできて、粘るなんて戦いじゃなかったからな。やられた奴は下がってやられてない奴が前出て、あと何人いるか、みたいな。ボルカノスベアルはあれクラスを瞬殺だろ? いやあ凄い、お前若いのに本当に凄いな!」


 コイツ等うるせえな! 別の家で寝てくれよ!


「そうでしょうそうでしょう! エト様は素晴らしいお方です。では私が語って差し上げましょう! エト様武勇伝を、――勝った、のあの瞬間を!」


 そんでコイツもうるせえじゃねえか! 全然同じこと考えてねえ!

お読み頂きありがとうございます。


ブックマークや評価、ありがとうございます。

頑張ります。

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