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7月3週 木曜日 その6

村35 町54

ダ40 討伐1 フ18

人1 犯1

魔100 中13 上1

剣100 剣中13 剣上1

回復100 中4

治療87

採取100

草44 花15 実70

料理10

石工4

木工30

伐採3

漁1

歌3

体55

女7

 穴から抜け出ると、傍には既にアンネがおり、俺達は一緒に走った。「道まで登るぞ!」


 MPが減らなくなる課金アイテムを再び食べて、俺はアポートを何度も使う。今まで切った木が、俺のアイテムボックスの中に次々と収納されていく。そして間を置かずに、それを次々排出していく。

 アイテムボックス内に入れたアイテムは、入れた時の向きでしか排出されない。そのため横たわる倒木は、横たわった状態のまま出されることになる。しかしそれがかえって良かった。道の上の険しい斜面に落ちた木は、即座に転がり始め、斜面の下にいる俺達やボルカノスベアルに迫ってきた。

 当たれば俺達は死ぬ。ボルカノスベアルは痛いくらい。なんとも俺達に不利になる攻撃であるが、木を出すのは俺で、そして俺には危険を示す赤い線が見える。木が転がってくる場所なんぞ、簡単に分かる。


 ボルカノスベアルに追いつかれそうなタイミングで、俺はアンネを連れて転がる木に向かって突っ込んで行く。そして、「滑りこめ!」アンネにそう声をかけて、俺もまた木に当たる寸前でスライディングをした。転がる木は、石か何かに当たり、ゴンッと跳ね、俺達のギリギリ上を通りすぎて行く。

 赤い線で予見していた通りに、後ろから追いかけてくるボルカノスベアルへ。

 だが反応が尋常でなく早いボルカノスベアルは、それをジャンプで躱しつつ、俺達の前に回りこもうとする。しかし、それもまた予想通り。


「○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○、アスポート」

 俺はそんなボルカノスベアルの頭上目掛けて手をかざす。


「グ――」

 ボルカノスベアルは着地し、素早く上を見た。俺が落とそうとしているのが分かったのだろう。

 すぐさま体勢を整え、落ちてきたものを弾き飛ばす。


「――ル?」

 ただ弾き飛ばしてからボルカノスベアルは頭にハテナを浮かべる。予想外に軽かったからだ。

 それはたった15kgもない鉄の風呂釜なのだから当然だ。


 重い物を動かすつもりで軽い物を持つと、体のバランスを崩しすぐには動けなくなる。

 そんな要領でボルカノスベアルの動きは止まり、続いて落ちてきた木を背中でまともに受けた。

「グオオオッ」

 四足の状態から、さらに肘や膝をつきそうなくらいの衝撃。

 つきそうなくらいで、実際にはついていないから本当に恐ろしいパワーだと思うが、効果は十分。


 俺達はその隙にさらに駆け上がり、そして勝つための準備も済ませていく。こんな緊急時にスプレー缶を取り出してプシューっとやるのなんて中々マヌケな姿だし、本当にできるかも分からないし、できなかったらそれこそ本当にマヌケだし、でも、懸命に懸命に。


「○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○、アスポート」

 もちろん、斜面の上に木を出して、転がす攻撃も忘れない。

 これがなければボルカノスベアルはたちどころに登ってくるだろう。それに、これにはもう1つ意味がある。いや、2つか。


 詠唱して、詠唱して、詠唱して。木をどんどんどんどん落としていく。

「○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○、アスポート」

 そうしてついに――。


 ゴゴゴゴゴゴゴ……、という、生まれて初めて聞いたはずなのに、肝が心底冷えるような音が聞こえた。

 それは、大地を揺るがす音だ。


 途端、地面が赤く染まる。

 これ全て赤い線。地面が危険だと告げている。


「この音は――、地滑りです!」アンネは何が起こるのか分かったのか、俺に警告の声色で叫んだ。

 だが、これこそが俺の待ち望んでいたもの。

「ああ! やっと! 行くぞアンネ!」

 俺そう言い、道目指して登る足を早める。


 豪雨の音をかき消すような、ゴゴゴゴゴという音が鳴り響いてから、数瞬。音が消え――。


 ――そして、世界がずれた。


「こっちだ!」

 赤く染まっていないところに足を置く。赤く染まっていないところに足を置く。それだけを考え俺は走る。赤ラインは凄いと思っていたが、まさかここまでとはと思えるほどに、安全な場所がアッサリ分かる。

 とはいえ走るのは非常に難しい。

 たまに足をとられ「――うお!」落ちかける。


 しかし地滑りの影響は、俺達よりも下にいるボルカノスベアルの方が遥かに強く受ける。

 俺達の位置ではまだ地滑りはそんなに速くないが、ボルカノスベアルの位置では落下に近いスピードで地面が大きく動いている。こんな程度じゃ済まない。


「エト様、手を!」

「ありがとう!」

 空を少し飛び、地滑りの影響を受けつけないアンネに助けながら、俺は地滑りが発生していない道の上にまで出た。

 やっぱり空を飛べるってのはズルイ。そう高く飛べるわけではないし、素早く移動できるわけでもないが、違う世界に住んでいるようなものだ。翼のない俺には、ヒューマンには絶対望めない。そしてもちろん、あのボルカノスベアルにも。


 ボルカノスベアルは木が落ちてきた痛みで少し踏ん張っていたからか素早く動けず、地滑りに巻きこまれ斜面を滑り落ちていた。

 足を踏ん張ろうにもその足場が流れるのだ。

 また、大きく跳躍し地滑りがない場所に行こうとするも、その衝撃でそこでもさらに地滑りが発生する。もうここら一帯の地盤は、雨季と最近の豪雨、それから俺達の戦闘の衝撃や木の破壊などで非常に弱弱しくなっている。

 滑っていく地面と共に、10m20m、グングングングン離れて行く。

 とはいえこのまま麓まで行って戻ってこれなくなるなんてことはないだろう。効果は一時的なもので、最終的にはここまで登ってくる。

 だから急げ!


 俺は反対側の斜面を見た。道からさらに登る方向の斜面。

 壁のような角度のため、俺達はそこを決して登ることはできない。

「○○○○○、アイテムボックス!」

 だからそこに右手を触れて、そう唱えた。


 ここで先ほど木を落としていたもう1つの意味が活きる。

 アイテムボックスの対象は、自身が動かしたものに限られる。そのため土を大きく収納するには、重い物を落とすなどしておかなければならない。ここの斜面には、先ほどから何度も木を落としていた。

 収納できる土は多く、壁に大きな凹みを作ることができた。

「ははっ」

 俺は思わず笑い、壁に右手をつけアイテムボックスを発動したまま走り始める。

 右手で収納した土を左手から排出して走れば、アイテムボックスは満杯にならず常に発動し続ける。凹みはずーっと連なり、溝のようになっていった。


 だが、まだ駄目だ。


 俺は空を見上げてみる。しかし何も起こらない。


 途端、背中の向こうで何かが膨れ上がるのを感じた。

「グルオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオォーッ」

 耳をつんざく轟音。

「――っつうう!」

 鼓膜を貫き心を凍らせるそれに、思わず俺もアンネも耳を塞いで、その場にうずくまる。


 音が収まった瞬間に、斜面のずっと下の方、かすかに見える程度の距離にいるボルカノスベアルに目を向けると、そこには再び見たことのない表情があった。

 怒りを内包はしている、しかし先ほどまでの本能のみで戦うような怒りじゃない。一撮みの冷静さがそこにはあり、戦いを始めるのだという意思が初めて見て取れた。


 そうして四足歩行になって駆け出す。それはとてつもなく速い。いや早い。

 地面がまだ滑り動いているにも関らず、それを一切意に介していない。俺に狙いを定められないためにか、ジグザグに登ってくるその動きは、ヒュンヒュンと言い表すのが一番適切だった。

 一歩一歩の間が10m近くある飛ぶような動きなのに、着地の地響きどころか足音すらほとんど聞こえないほど軽快で俊敏。斜面も何もお構いなしに、距離をグングン詰めてくる。


「○○○○○○○○○○○○○○○――」

 俺は手をかざして木による攻撃を試みるも、手をかざした瞬間にボルカノスベアルは察知して即座に身をかわす。俺が木を瞬間移動させる際に、その場へ手を向けるということを学習したからだろう。当たらないどころか、照準をつけることすら許されない。


 ボルカノスベアルはようやく本気になった。

 小動物を狩る程度の意識から、戦いの意識へ。

 たったそれだけで必殺技のように思えた巨木落としも、土砂滑りも無効化された。


 ああ――。


 ああ――。


 そんな化け物に俺の考えた手が通じるんだろうか――。


 ああ――。


 ――楽しい。


『キジョウ・エト

  ジョブ:異世界民

  HP:19 MP:100

  ATK:27 DEF:5

  CO:--』


 俺はHPとMPが減らなくなるタブレットを口にした。しかしそれにも、回数制限があったのか、もう増えない。


『キジョウ・エト

  ジョブ:異世界民

  HP:19 MP:100

  ATK:27 DEF:10

  CO:--』


 だからアイテムボックスからダンジョンで使っていた防具を2つ取り出し装備する。

 これで問題ない。あと一度使えればそれで良いから。


『キジョウ・エト

  ジョブ:異世界民

  HP:19 MP:100

  ATK:1 DEF:10

  CO:--』


 そして俺は剣を投げた。剣は空高く舞い上がる。

 ピッチングには槍投げも役立つとかで、地区選抜の時に何度かやったことがある。そのおかげで狙いは正確。


 剣は、急斜面の高いところにある、大岩に突き刺さった。そしてそのまま、大岩がまるで豆腐か何かであるかのように、剣は突き進む。

『イシキレール 銀貨10枚』の効果。課金はやっぱり凄いなあ。


「グルルルルルルルル」

 トン、と柔らかい音と共に、ボルカノスベアルが道に降り立った。

 俺達までの距離はたった十数m。

 そんな距離をたった一歩で潰せるボルカノスベアルは、勢いを溜めるため、腕を足を曲げた。


 そして――。


「○○○○○――」

 俺は詠唱し、手をかざす。

 かざした場所は、ボルカノスベアルの走ってくるであろうコース。


「○○○○○――」

 爆発するように走り出したボルカノスベアルはしかし、俺の手前で大きく上に飛び上がり、そのまま俺達の頭上を越していく。


「○○○○○――」

 背中でする、トン、という軽い音と、上からする、ガラガラ、という何かが落ちてくる音。


「○○○○○――」

 俺は後ろに振り返りながら、再びそこにいるであろうボルカノスベアル目掛けて手をかざした。

 しかしそこにはもうボルカノスベアルはいない。


「○○○○○――」

 ガラガラという音はゴロゴロに切り替わり、どんどん大きくなる。


「○○○○○――」

 再び、トン、という音が、後ろから聞こえた。あるいはテレポートよりも早く、ボルカノスベアルは再び俺達の背後を取っていた。速過ぎる。一体どのくらいパワーがあれば、何tの重量のものがこれだけ速く動けるというのだろうか。理解を二段も三段も越えている。これが本気になった化け物の能力。


「○○○○○――」

 だが、分かっていた。予想通りだ。

 ゴロゴロという音は大きさと力を増す。


「○○○○○――」

 振り返れば、ボルカノスベアルは既に腕を振り被っている。しかしその頭上から、ガラガラゴロゴロと大きな音を立てて巨大な岩が転がってきていた。

 急斜面に大きくでっぱっていた巨大な岩に対し、先ほど俺は剣を投げつけ切れ目を入れた。運良く岩はそこからひび割れ落ちて、運良くその真下にいたボルカノスベアルへ一直線に。


「○○○○○――」

 木の重さは、10mあったとしても1tあるのかどうか。そのくらい。

 しかし岩は1㎥あればそれだけで3t近い重さになる。この大岩はどう見ても1㎥以上。急斜面を転がり落ちる勢いをもって、大岩はボルカノスベアルに突撃する。


「○○○○○――」

 だが、ボルカノスベアルはその腕で岩を跳ね飛ばした。

 重たいはずの大岩は、俺達の真上を凄いスピードで通過し、ぬかるんだ地面をバウンドして吹き飛ぶ。


「グルルルルルルル――。グオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ」

 そうして、勝利を叫んだ。


 心臓が凍りついてしまうような咆哮。何もかもが折れてしまいそうな絶望。

 だが、俺の耳は、アンネが両手で塞いでくれた。

 その柔らかく小さな手では、こんな化け物の叫びを全て遮断するなんて不可能だ。だが、心は燃える。


「――○○○○○、アスポート」

 俺は詠唱の最後の一節を終えた。


 ボルカノスベアルは俺が手をかざす、自らの上を見上げ、木を払いのけるための構えをとった。


 だが、そこに木は落ちない。


 代わりに、もっと高い場所に木が落ちた。


 先ほどの大岩があった場所。

 剣が切り裂きひび割れて落ちた大岩の、片割れがまだ嵌っている、そこに。


 ドオオオオン、と凄まじい音を立てる木と岩。

 木はぐらりと揺れ、俺もボルカノスベアルもいないあらぬ方向へ落ちて行く。そして岩は……、落ちて来ない。深くまで土に埋まっているからか、多少揺れただけ。

 片割れが落ちて、重量の配分のようなものが大きく変わったろうに、頑強なものだ。


 しかし、きっと、周囲の地盤は、緩くなっているだろう。

 大きな岩を抑えるために、ギッシリ詰まっていたところは、岩が軽くなったことによってほんの少し浮いていただろう。雨もあるのだし。

 そんなところに1tくらいのものが高い位置から落ちてきたら、きっと凄く揺れる。岩じゃなくて、その下の土が。たくさん。


「グルル」

 上を見上げていたボルカノスベアルが、俺達に視線を戻した。油断は微塵もない、絶対強者のそんな目は、何もかも諦めたくなるほどに恐ろしい。

 だが俺は逃げずに、壁のような斜面に右手を触れさせる。


「○○○○○、アイテムボックス」


 ああ、赤い線は優秀だ。


 ラスボスのような強さを誇る、ボルカノスベアルの攻撃すら予見し、地滑りのような災害すら予見し、そして、天変地異すらも予見する。


「――勝った」


 そうして、地図が塗り変わる。

お読み頂きありがとうございます。

遅くなりまして申し訳ございません。頑張ります。

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