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132/144

7月3週 火曜日

村35 町54

ダ40 討伐1 フ16

人1 犯1

魔100 中13 上1

剣100 剣中13 剣上1

回復90

治療83

採取100

草41 花10 実61

料理10

石工4

木工28

漁1

歌3

体55

女7

 本当の意味で何かを目指しているのなら、必然的にそうなった自分を妄想する。


 家が欲しいのなら、その家に住んでいる姿を。

 付き合いたい異性がいるのなら、その異性と付き合っている姿を。


 家で何をするのか、異性と何をするのか。

 そんなことを必ず考える。


 だから、それを考えていないのなら、自分はそれを全く欲しいと思っていないのだ。


 そんなことをこの間、アンネに言われた。

 確かに、と思った。

 俺は家が欲しいだとか、アンネが好きだだとか、色んなことを思いながらも、それらが手に入った未来を考えもしなかった。


 正直、ショックだった。


 しかし、自分がそれだけ追い詰められていたことを知れた。

 自分の現在地を知ることができたのならば、後は進んで行くだけだ。


 なので俺は最近、未来のことを積極的に考えるようにしている。


 そんな時には、案外、課金が役に立つ。


『ツヨイマモノモニゲール 金貨1枚』

 こういうやつが、特に。


 強い魔物も逃げるという謎のアイテム。名前から察するに、使えば魔物が逃げて行くんだろう。だから、魔物に襲われている人を助ける妄想ができる。

 異世界の魔物には弱い魔物も多いが、人を襲って命の危機を感じさせる魔物は総じて強い。妄想に出てくるような、例えば一国の姫とか、お金持ちの貴族だとかには護衛がいるだろうから、その護衛を倒している魔物となると、その強さは計り知れない。まず間違いなく、俺は敵わない。


 が、これがあれば、救いだせるのだ。

 颯爽と登場して、華麗に、「大丈夫ですか? もう大丈夫」と。


『チョウツヨイマモノニゲール 金貨8枚』

 それより上位のものもあるので、解消できる危機レベルはかなりのもの。もしかしたら竜とかに襲われていてもいけるかもしれない。


 そんな時の俺を想像すると、マジでかっこいい。

 必ず惚れるね。


 とまあ、こんな感じで、俺は未来のことを考える。

 本当にただの妄想で馬鹿みたいな話だが、しかしそんなことすら、ついこの間までの俺には難しかった。

 考えても考えても、それはどこか別の誰かのことで、自分のことにならなかったのだ。

 おかしな話だと思うが、そうだった。


 余程、心が折れたんだろうな。


 でも、異世界に来る前から、その気はあったかもしれない。

 天才達に届かないことに絶望して、努力はもちろん何かにのめりこむことすらできなくなったあの時の俺が、未来を想像していたのかと言われれば、していなかったと言える。

 だからこそ、神様に祈ったのだし。


 祈らなきゃ良かったよ、本当に。

 まあ、その代わりに手に入れた課金のおかげで、未来を思い描けるようになったんだから、皮肉な話だ。


「ヒヒーンッ」

「ん? おわあ!」

 そんなことを考えていると、突然馬車が急停止した。

 進行方向に対して横向きに座っていた俺は、慣性の法則に則って、思い切り横に転がり頭を打つ。痛い……。


「何があった!」

 転げて頭を抑える俺とは違い、サンダーレンさんは無事だったのか、立ち上がって素早く御者に声をかけた。

 俺達の馬車の御者は、行商人の奴隷である。

 奴隷は、「落石です。問題ないので乗っていてい下さい」と丁寧に答えると、御者席から1人降りていった。


 俺達の乗る馬車の後ろを、行商人やアンネの乗る馬車が走っていたのだが、そちらの馬車も急停止し、「何かありましたかっ?」御者である行商人の弟子がそう声をかけてきた。

「落石だそうです」

 俺はその声に答え、また奴隷の方を向いた。


 進行方向の道の上には、幅1mほどもある巨大な岩が落ちていた。道幅は2mちょっとなので、印象としては道のほとんどが埋まっているように見える。

 今落ちてきたわけではないだろうが、それなりに最近落ちてきた様子。


 俺達が今通っている道は、左手側が急な登りの斜面、右手側が急な下りの斜面、と、そんな風になっている。しかも、登り側は途中まで垂直にそり立った壁のようで、山を無理矢理削って作った感が強い。

 山中感も非常に強く、背の高い木々がそこいら中に建ち並び、ところどころ地滑りしたかのような土肌が見えている。


 また、そんな土肌には、ああいった岩がゴロゴロ入っているのが見えるので、道の真ん中に岩があれば、100%落石だとたちどころに分かる。

 最近の激しい雨、今日もかなり激しく降っているが、その雨のせいで地盤が緩み落ちてきたんだろう。

 あれが当たったらと思うと、ゾッとする。


「流石にでかいですね。手伝ったほうが良いですかね」

 俺は岩の大きさを見て、サンダーレンさん達に問いかける。

「ん……、いや、あれくらいなら大丈夫だ。もっと大きい物もある、その時に備えて体は濡らさない方が良いぞ」

 しかし、そう返事を貰った。


 幅が1mほどもある巨大な岩。

 高さは膝を越えるくらいだろうか、そう高くはないが、1人で持ち上げることは到底できない重さだろう。だが、手伝いは要らない。


 別にイジワルではない。奴隷だからだとか、そんなわけでもない。

 単純に、1人で簡単にできる、という話。


「○○○○○○○○○○、ストーンカット」

 奴隷は岩に向きあうと、そんなスキルを使った。

 すると、奴隷の持つノミが光を帯び、巨大な岩をまるでバターか何かでも切るようにカットしていく。


 あれは石工師の、岩を簡単にカットできるようになるスキル。

 岩は結局、全部が拳大の大きさにまでカットされ、奴隷はそれを足で蹴るように道の脇、斜面の下へ落としていった。

 所要時間、わずか数分。そうして、馬車は何ごともなかったかのように再び進み始めた。


 あれが大きな岩を1人でどかすカラクリ。相変わらず異世界のスキルは、意味が分からなくて怖い。半端じゃなく使い勝手が良い。凄すぎる。

 ジョブが生活に根付いた異世界の技術は、外様の俺からすると、本気で訳が分からない。


 まあ、俺もできるんだけど。

 課金のおかげで。


『イシキレール 銀貨10枚』

 石を切る姿は、達人っぽくてかっこよかったので俺もやってみたいなと衝動に駆られ購入したところ、スプレー缶だった。

 剣などにスプレーをかけ、それで斬れるようにできるようだ。ますます達人っぽい。


『キガキレール 銀貨7枚』

 木バージョンもある。ちょっと安い。が、達人だ。


 しかしかっこいいと言っても、誰かに見せることができない。あまりにも達人過ぎるから。見せられるとすれば……アンネか。

 じゃあ今度、アンネの前でやってみよう。多分めちゃくちゃ驚くと思う。楽しみだ。


 これも未来の想像か。

 課金は本当に未来の想像をしやすくしてくれる。

 努力と違って、自分自身に身につくものではなく、本来変えられないものを変える力であるからこそ、努力でどうにもならない部分によく働いてくれるので、色々な妄想ができてしまう。


 本来なら両立しない、木を切る力と石を切る力を併用し、森の中にわけ入って行く。そうすれば、他の人が辿りつけないような場所にも行けるだろう。

 そこに勝てなさそうな強い魔物がいれば、ツヨイマモノモニゲールを使って追い払い、倒せる魔物は課金で強化した身体能力と武器防具でバッサバッサと魔物を倒していく。

 珍しいものがそこにあれば大金を稼げるし、なくてもあんなところに行けたのか、という名誉を手に入れられる。


 怪我をしても、課金があればいくらでも怪我は治る。怪我が恐くないのなら、ダンジョンの低い階よりもそこいらの森の方がよほど稼げるから、それはきっとアンネと暮らす生活に、潤いをもたらす。

 また、そうやって甲斐性を示せば、アンネも俺に魅力を感じてくれるかもしれない。

 そうしたら……、こう、エロいことにも発展するだろう。


 アンネとエロいこと。ちょこちょこと考えてはしまっていたけど、それは毎度毎度衝動的なもので、平時に考えたものではない。改めて考えると……、アンネが可愛い。あと仲間の裸って、案外罪悪感が大きい。

 好きだけど、そうだな、身勝手な妄想にはちょっと……って感じだ。


 まあ、それもまた、俺が未来を生きようとするからこその感情だろう。

 どうでも良かったら、そんなことすら思わない。


 そんな風に、俺は段々と、未来のことを考えられるようになってきた。良い事だと思う。

 対照的に、ケビンさん達のことを思い返す時間が減ってきたと思う。それが良い事なのか悪い事なのかは、まだ分からない。でも、一先ず前進はしてるかな?


 順調に走る馬車の中、俺はサンダーレンさん達と色々な話をした。


「夢? 昨日はいやにオッサン臭いなと思ったら、本物のオッサンに何を聞いてるんだエト。いや、辛い目にあっても探検者を続けているのは、他にできることがないくらい不器用だったからだ。前も言ったろ?」

「くっくっく、はっはっは、ちげーだろサンダーレン。エト、コイツはな、惚れてた村長の娘さんに見合う男になるんだっつってな。それで続けてたわけよ。俺は不器用だから、じゃねえよっ、あっはっはっは。んで、結局フラれてんの」

「それ以外だとつり合う男にはなれないってことなんだから、間違っているわけじゃないだろう。エト、お前はこういう人の過去を面白おかしく語る奴にはなるなよ」


「良いじゃねえか良いじゃねえか。それから結局、世話した後輩とかが増えたりして、そいつらが育ってくのが楽しくて続けて、やってて良かったなって話なんだからよ」

「なんだそれは。全然納得できん。納得できんな」


 未来。

 未来。


「ほら、ちゃんと外を見ておけ! こんな話は終わりだ!」

「んなこと言って。今日は全然魔物見かけねえから良いだろ。誰も通らねえ道だからいっつもちょいちょい出てくんのに、今日は楽だ。だから、喋ろうぜ、昔のことをよ」


「うるさい! それならお前の方が良い夢を持っていたろ! 言ってやれお前の昔言ってた、俺には邪竜の魂が宿っている、それを使いこなせるように、俺は強くなるんだ、という夢を!」

「――だ、誰の話だ? おおお俺は知らねえ、忘れた。エト、良いか? ちょっと強くなってきても、心を強く持てよ? 流行りの物語に影響されたりはすんなよっ?」


 未来。

 未来。

 きっと幸せに満ちている未来に、俺は思いを馳せる。今はまだ、借り物のようにぎこちないが、それでも。

お読み頂きありがとうございます。


ブックマーク、評価、感想、ありがとうございます。

更新頑張りますっ。

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