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131/144

7月3週 月曜日

村35 町53

ダ40 討伐1 フ16

人1 犯1

魔100 中13 上1

剣100 剣中13 剣上1

回復88

治療83

採取100

草39 花9 実61

料理10

石工4

木工28

漁1

歌3

体55

女7

 世の中には、たくさんの魔物がいる。

 地球に住む動物や虫などがそのまま魔物になっているのだから、たくさんいるのも当然。むしろ魔物の中には植物や岩の魔物もいるため、地球の生物の種類よりも豊富であった。


 ゆえに、人間より弱い魔物はたくさんいる。

 手で払えば、それだけで死ぬ魔物も多い。全ての生物の中において、人間は大型の生物なのだ。その膂力足るや凄まじく、文明の利器など何一つ使わずとも、幾多の種類の魔物を屠ることができる。


 しかし反対に、それだけの数の魔物がいれば、人間より強い魔物とてたくさんいる。

 人間は大型の生物である、それは確かだが、人間より大型の生物など腐るほどいるのも確かだ。


 人間よりも小さな魔物達が、その体に爪や牙を揃え、毒を持ち翼を生やし、それでもなお人間に敵わなかったように、人間もまたそれら大きな魔物達には、武装していようとも勝ち目はない。


「こりゃ酷い……」

「そうだな」


 俺達の前には、横転した馬車と、食い散らかされた馬、それから虫にたかられている2人の人がいた。

 いや、最早それの単位は人ではない。そこには2体の死体があった。喉笛を噛み砕かれたような見知らぬ行商人と、体中から血を流した冒険者。どちらも、どこからどう見ても息をしていなかった。


「噛み痕。こりゃ獣系の魔物だな。四足歩行してる肉食の魔物。牙がその形だ。でも、牙の1つ1つがでかい。それに、木の枝の折れてる高さが背の高さくらいある。四足歩行の魔物としちゃあ破格のでかさだだ」

「なら、ここらの山だとグレートウルフか。街道に出てくることなんて滅多にないだろうに、運が悪かった。しかし鞘があるのに剣がない、ってことは、多分グレートウルフに刺さってるんだろう。こいつは確かパルウェの探検者だよな。あんな化け物相手に攻撃を加えたんだから、よく戦ったな。見事だ」

 俺と同じ馬車に乗っていた、サンダーレンさんともう1人の男の冒険者は、死体をまじまじと見て、実況見分を行っている。

 2人は町付き冒険者であるため、何に襲われたのかを報告する義務があるからだ。


 もう1人の女冒険者は、行商人を守っている。アンネもそこ。


「ん? エト、大丈夫か?」

「顔色悪いぞ」

「い、いえ、大丈……夫、で――う……」


 俺はこちらで力になろうとやってきたのだが、虫にたかられた死体というのは、インパクトが非常に強い。

 強い雨のために臭いこそないが、その見た目だけで胃液は喉を遡ろうと動きだす。


「死体を見るのは初めてか?」

「……いえ、2度目か、3度目か、4度目か……。タイミングで言えば2度目ですね」

「ああ、なるほど。なんにせよキツイだろ。馬車の荷物をまとめといてくれ。後で起こすから」

「はい。すみません」


 俺は横転した馬車の元ヘ行き、散らばった荷物を拾い集めた。

 俺達が乗っていた馬車の御者をしている行商人の奴隷も、行商人が乗っていた馬車の御者をしている行商人の弟子も、俺と一緒に荷物を集める。集め終わっても、2人はまだ実況見分を行っていたため、俺達3人で馬車を起こすことにした。

 その馬車は無蓋の馬車な上に、比較的小さく軽いタイプ。重かったが、なんとか馬車を起こすことができた。


「スピードは落ちますけど、馬車は持ち帰ってあげないと。借金をして買うものですからね。稼ぎ手の男が死んでしまって、馬車まで失ったら、もう残された家族は奴隷になるしか生きる道がないので」

 行商人の弟子は言う。


 すると、サンダーレン達が丁度やってきた。

 胴の下に手をやる形で、死体を抱えて。

「すまん、やらせてしまったな。馬の死体を端に寄せてたら時間がかかってしまった。それじゃあ乗せるぞ」


 サンダーレンさんはそう言うと、行商人と冒険者の遺体を、それぞれ馬車の上に乗せようとする。

 だが、どうやら遺体は重いようだ。防具も身に付けているため、人1人くらいなら簡単に持ち上がりそうだが、重心がとり辛いのか、何度も持ち直している。

 なので、俺も手伝う。


「苦手なんだろ? 無理するな」

「いえ、大丈夫です」


 遺体を2つ荷台に乗せ、荷物も戻した。

 馬車だけでなく、全部町に持って行く、ということだろう。


 でも、そうだよなあ。大事だ。遺体も持って帰らないと。

 

 あのお爺さんの息子の遺体は、帰って来なかった。

 だから20年以上経っても、ずっと引き摺ったままだった。

 そして、お爺さんもまた……。


 ……そういえば、俺はケビンさん達がどこに埋められたのかを知らない。死体は村に運んだんだから、埋められたんじゃなく、燃やされたんだろうか。いや、火葬は一般的なのか? どうなんだろう。俺はそれすらも知らない。その前に村を出たから。

 今思えば、薄情なことをした。

 あの時は自分の事でいっぱいいっぱいだったからなあ。いやそれは今もか。


 起こした馬車は俺達の馬車にロープで結ぶ。

 そのために進むスピードが遅くなり、パルウェ町に着いたのは、予定よりも随分遅く、ほとんど陽が沈んでしまった夜だった。


 サンダーレンさん達は冒険者ギルドへ、街道に魔物が出た報告と冒険者が死んだ報告へ。

 行商人もまた、商人の寄り合いへ赴き、死んだ商人の特徴を伝える。俺は行商人の護衛として同行した。


 行商人と死んだ商人に面識はないそうだが、遺体や遺品を見せれば、知り合いは分かる。

 すぐさまその奥さんがやってきた。奥さんは旦那である商人の死に、一瞬だけ深く悲しんだものの、すぐさま気を持ち直し、馬車の状態や荷のことを聞いては、馬車を買ってくれる人はいないかと寄り合いの商人達に尋ねて回った。


「謝礼はもう少しだけ待って下さい。馬車が売れれば、必ず」

 奥さんは行商人にそう言った。その目は、これから小さな子供たちとどうやって生きていくかを必死に考えているようだった。


 地球においても、家族の唯一の稼ぎ手が死んだ場合、残された家族は逆に泣けないということがあるらしい。死を悼む間もなく、自分達の死が目前に迫ってくるからだ。

 自分だけなら良いが、小さな子供の死まで迫ってくるのであれば、泣いている暇などないのかもしれない。


 社会保障が充実した日本でもそうなのだ。そんなものがなく、生きて行くだけでも難しい異世界ならば尚更のこと。

 異世界には、身近な誰かの死を悲しむという、贅沢な時間はない。涙という贅沢品を、身近な誰かが死んだ時すら使うことができない。


 そうか。

 さっきは、探検者はやっぱり死ぬんだなあと思ったが、そうじゃなくても死ぬのか。商人や、その家族でも。


 寄り合いから出た後は、サンダーレンさん達と合流し、一緒にご飯を食べた。

 店の多くは店仕舞いをするような遅い時間だったのだが、行商人の知り合いが特別に開けてくれたのだ。大きな商会の会長がひいきにするだけあって、味は美味しかったように思う。

 ただ、俺はずっと上の空だった。


 先ほど思ったことが、頭にこびりついていた。

「生きるって大変ですねえ」

 だからか、俺は食事中にそんなことをポツリと呟いた。


 行商人やサンダーレンさん達は、一瞬ポカンとしたが、何かを察したのか軽く微笑み、

「そうだなあ」

「そうですねえ」

 と、吐息をもらすように、俺と同じ口調で答えた。


「死にたくないですねえ」

「そうだなあ」

「そうですねえ」


 心から沸き出たそんな本音。死にたくないなんて当たり前のことだが、改めて、自分はそう思っていたんだなあと気づいた。

 けれども、同時にこうも思う。


 死なせたくないと。


 そういえば俺は以前、誓ったことがある。

 凡人を死なせないと。天才を死なせないと。

 あれは今でも有効なんだろうか。色々あったから、分からないなあ。


 あの時、カマキリの化け物と戦った時、俺は心底怖かった。そして、結局助けられなかった。

 誰かのために命をかけることは、勇気がどこまでも湧いてくるような素晴らしいことではなく、本当に恐ろしいことで、しかも無意味になることを俺は知った。

 そして、一応今は、人生の目標もある。だから、そう誓ったあの時とは、随分俺の状況が違う。


 でも、変わらずそう思えていると良いなあ。


 そしたらそれは、どうあっても変わらない、俺の芯のようなものと言えるかもしれない。

 これからどうなっても諦めないような、俺が誰かに誇れるようなものなのかもしれない。

 それがあれば、俺はこれからきっと、ずっと、頑張れるのかもしれない。


 ただ、それを確かめるには、死ぬような目にあっている人を見つけて、助けに入らなければならない。

 確かめると同時に死にそうだ……。


「生きるって難しいですねえ」

 俺はまたもそんなことを呟いた。


 大人達は爆笑だった。

 心がオッサンと言われた。ショックである。

お読み頂きありがとうございます。

前回更新から1ヶ月経ってしまっています。読んで下さっていた方、大変申し訳ございません。


パソコンが壊れたりなど、様々なことがありまして、最近ようやく書ける環境になりました。まだ完全ではなく、特にこの小説は予め書いていた部分を少し変える形で書いていたために、先行きは不安です。再び更新が止まることや、更新が遅くなることもあると思います。

その度にご迷惑をおかけしてしまうと思います。大変申し訳ございません。


それでも良い、と思ってもらえるような小説を書けるよう、頑張ります。

1ヶ月か2ヶ月に1度、お暇なとき、思いだしたときに、お読み頂ければ、それ以上の幸せはございません。

更新が止まり不快な思いをさせて申し訳ございませんでした。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 更新が再開してホッとしております。 無理のないペースで更新していただけたら嬉しいです。 草葉の陰から応援しています。
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