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130/144

7月2週 休日

村35 町53

ダ40 討伐1 フ15

人1 犯1

魔100 中13 上1

剣100 剣中13 剣上1

回復86

治療83

採取100

草39 花9 実61

料理10

石工4

木工28

漁1

歌3

体55

女7

 雨季にはほとんど毎日のように雨が降る。

 しかし雨量はまちまちで、土砂降りの日は珍しい。


 もし毎日土砂降りであったなら、治水技術が未熟な異世界では、至るところで洪水が起き、いくつもの村や町が壊滅的被害を受けてしまう。

 そんなことはもちろんないので、土砂降りの日というのは、1ヶ月の雨季の中で、2,3日程度である。


 それが丁度出発の日と重なるとは、運が悪い。


「雨すご!」

「そうですねっ。酷い雨です!」

 

 宿を出た途端俺はそう叫び、アンネもまた俺の耳元でそう言った。

 耳元で言ったのは、そうしないと聞こえないからだ。それほどに雨音はザザザと大きく、激しい雨が降っていた。


 こんな日は宿から出ないに限るが、あいにくとそんなわけにはいかない。

 俺達は宿の軒下から一歩外に踏み出した。靴の中までびちゃびちゃになるような一歩を。


「この町って水はけ悪くないっ? くるぶしまで水あんだけど!」

「私も靴がもう既に終わりました! ただ山の中ですから、水は上手く流れているのだと思います! それ以上に降っているということでしょう!」

 町は冠水しており、足を上げる度に、靴の中に溜まった水が零れ落ちる。こんな状態では、宿屋の前から隣の店の前まで移動するだけでもひと苦労だ。

 最早、これは川だ。町の中には川ができていた。よく探せば、近隣の沢や池やらなんやらから魚が来たりしているかもしれない。釣りでもしてやろうか! しないけど!


「中止するってことはないのかなっ?」

「あまりに酷い雨の時は、中止にすることもあるそうです! しかし生活がかかっていますから、これくらいなら出発するでしょう!」

 これくらいならってことは、もっと雨が降る時もあるのか? 信じられ……いや、最近は元の世界でもこれくらい降ることはちょいちょいあったか。スコールや台風ならこれより全然上だった気がする。


 雨の激しさなんてもの、あんまり思い出せないけど。「どうだったかー……」と、曖昧な記憶を辿りながら俺は歩く。すると、いつの間にか集合場所である門の前に辿り着いていた。

 そこには、数台の馬車がある。

 屋根のない無蓋の馬車に、屋根のある天蓋つきの馬車。


 そういえば、屋根があるかどうか聞いていなかった。どれだろう。

 大きい商会だそうだから、屋根のある馬車を持ってると良いなあ。そう思いつつ、俺達は行商人とサンダーレンさん達を探した。巨人みたいな人がいれば、間違いなくサンダーレンさんなんだが……。


「おーいこっちだー」

 聞き慣れた声に振り向くと、屋根のある馬車の中に、手招きしている見慣れた人を見かけた。

 サンダーレンさんと、もう1人の男の冒険者だ。


 どうやら、屋根のついた馬車らしい。やったぜ!

 俺とアンネは2人走って馬車の元ヘ向かう。


「どうも、もしかして遅れました? すみません」

 近くに駆け寄ってそう言うと、2人は「全然全然」と笑いながら答え、座っていた場所を少し奥へと移した。丁度、1人分のスペースがある、乗れ、ということだろう。

 俺は荷台に尻を乗せる形で馬車の中に入り、土砂降りの雨から開放される。

 あとはアンネだが……、アンネの乗るスペースは……?


「奴隷は前の馬車だ。そっちにテラスが乗ってる。それからシャルダンさんも」

 サンダーレンさんは、前を指差した。天蓋つきの荷台の前、御者席、馬、その前に、もう一台馬車が止まっていて、その天蓋の下にテラスさんとシャルダンさんがいるのが見えた。

 なるほど。馬車は2台あって、アンネは向こうの馬車、と。

 テラスさんとは、サンダーレンさん達の仲間である、もう1人の女の冒険者。シャルダンさんとは行商人。雇い主だ。


 バラけさせる理由は、おそらく、一度一緒に狩りに行ったとはいえ、信用ならない者に変わりはないからだろう。

 もしかすると俺達は、商品を乗せた馬車を奪う盗賊かもしれない。そんな場合、俺とアンネが同じ馬車で、残りが冒険者1人御者1人だと、勝負になった場合、圧倒的に俺達が有利だ。荷台では2対1だし、御者は後ろから斬れば終わりなのだから

 しかし、俺とアンネがバラけ、どちらも1対2の状況になれば、反対に向こうが有利。その選択すら取り辛くなる。ということで、バラけさせられたのだ。


 まあ、そりゃそうだと思う。

「だってアンネ。しばしの別れだね」

「ええ、そのようですね」

 なので、俺達はアッサリそれを了承し、別れた。


「では、エト様」

「テラスさんとシャルダンさんによろしく」

「はい」

 まあ、分断されようとも、俺とアンネならこの人達相手に1対2で勝てるし、夜中に起きてやってしまえば良いだけだが。やらないからこの仮定に意味はないけど。


 ……しかし、シャルダンさん、男1人に女2人か。

 ハーレム志願者か? アンネを変な目で見ようとしたら、馬車から落ちますように。俺は隕石を落とした神様ではない別の神様に祈る。


 そして、旅が始まった。

 前を見れば、激しい雨と、濡れる馬。暇そうな前の馬車の住人達の姿も小さく見えた。

 それから、ぐっちゃぐっちゃという、泥濘を馬が踏む音が、雨に混じって聞こえる。


 後ろを見ると、やっぱり激しい雨。雨にさらされた景色。

 泥濘には、タイヤ跡と馬の足跡が残っているが、遠くを見れば、そんな跡はどこにも見えない。おそらく、激しい雨にかき消されているのだろう。殺人事件を起こすなら、こんな日が良いのかもしれない。


 ……どうでもいいことを考えている。

 だって……暇だ……。


 大雨なので、盗賊もいなければ、魔物も出て来ない。

 時々馬車が泥濘にはまって、全員で押さなければならない時があるだけの旅。

 冒険者としてやって行くぞ、とか、俺の良いところはどこだ、とか、そんなことを思っているのに、特にその思いを行動にできない旅。つまりは暇な旅だった。


「明日には、パルウェ町に着く。サンクェルス古城町に着くのは、水曜か木曜かな。これだけ降ってると木曜な気がするな」

「あそこは山道も厳しいからなあ。たまには迂回しなきゃいけないこともある。なんて言ったっけ、あの村……、いつも出発前に会うあのオッサンの……」


 馬車の中で俺達は、暇を嫌うように色々なことを話した。

 ためになったのは、今後の予定の話だ。旅路の日程は以前の狩りの時に聞いていたが、この雨で少々予定が変更になっているため、それは初めて聞いた村だった。


「テホだ、テホ。テホ村。家が7件8件しかない小さな村でな、雨季はそっちの村を1回経由して行くこともあるな」

「ああそうだ。テホかあ。忘れてたわ」

「シャルダンさんは、できた人だから、そういう小さな村にも利益度外視で回るお人なんだ。人が通らないルートをたまに行くんだよ」


「テホですか。いつも出発前に会うオッサンって、僕も会ってます?」

 世間話と情報収集を同時に進めようと思い、俺は面白そうなオッサンの話題を広げようと聞いた。


「いや、エトは会ってない、っていうか今日いた?」

「いなかったんじゃないか? 目立たない奴だが、いればシャルダンさんのところへ挨拶に行くだろう」

「へー、毎週いたのに。なんでだろ?」

「この雨で到着が遅れたんじゃないか? いや、すれ違ってないからな、どうだろう。まあなんにせよ、それなら今回は余計にテホ村へ寄るかもな。他の町と交易ができないと、足りないものが出て、困るからな」


 残念ながら、話題はオッサンからは広がらなかった。使えないオッサンだ。

 しかし、どんなオッサンなんだろう、ちょっと気になるなあ。


 夜、馬車の荷台で眠る少し前に、「シャルダンさんから聞いて来たが、テホ村に行くそうだ。到着は木曜になる。大丈夫か?」とサンダーレンさんが言っていた。

「大丈夫です」

 俺はそう答え、オッサンを見に行ってみようと決めた。間違いなく、見に行く価値はないと思うが。

お読み頂きありがとうございます。

また、ブックマークや評価も頂きありがとうございます。

感想を書いて下さった方、誤字報告して下さった方も、ありがとうございます。


感謝の気持ちでいっぱいです。

皆様に少しでも面白いと思って頂けるよう、これからも頑張ります。

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