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4月1週 休日 その1

ダ3

魔32 中3

剣32

 月火水木金土、そして休日。


 休日とは、決して日曜日ではない。

 休日とは、休日なのだ。


 異世界に来て、新たな1週間を迎えることとなった今日。


 重大な問題が発覚した。

 こちらの世界では、休日に働く人はほとんどいない。


 洗濯屋も、鍛冶屋も、騎士団詰所にあるドロップアイテムの換金所も、全てが閉店中、定休日。


 働いているのは、毎日様子を見なければいけない農家や酪農家、それから警邏任務がある騎士団。泊まる人がいる宿屋。

 そして、ダンジョンから魔物が溢れた場合に対処する、監視員。村付き冒険者、と呼ばれる人達だけ。


 あとは、誰も仕事をしない。


 こんな、人口100人いるかどうかも分からない村でもそうなのだから、どこの町でも、そしてどこの国でも、きっと同様なのだろう。

 休日とは、皆が皆、一斉に休む日のこと。

 大概の人は家でゆっくりするそうだ。


 ……だからつまり、飲食店や食料品店もやっていない。定休日である。

 今日、俺はご飯が食べられない。


 普通は、買い置きなどするらしい。

 言っておいてくれよ……。


「あの、最近来た冒険者、何も食料買ってないらしいが、大丈夫なのか?」

 とか、言われていたらしい。

 言っておいてくれよ……。


 さらに言えば、宿屋にも泊まれない。

 なぜならお金が稼げないから。


 休日が定休日なのは、なにも人が営む店だけではなかった。

 なんと、ダンジョンまでもが、定休日になる。


 俺は宿代を稼ぐため、1日銀貨2枚稼げば良い作戦を実行しようと、朝早くにダンジョンまで行った。


 店が閉まっていたとか、そんなことには気付かない。

 どこも田舎の店であるから、シャッターはついていないし、OPEN、CLOSE、なんて看板も出していない。

 鍵すらかけていないのだから。


 しかし、流石にダンジョンを見た瞬間、今日がおかしいことに気付く。


 洞窟にあるダンジョンの入口が、真っ白に漂白されていたのだ。

 いつもなら、黒と言うにもあまりにも黒いゲートがあるのだが、今日は真っ白。


 見覚えがある、使ったこともある。

 それは、ダンジョンから出る際に使う、出口の白いゲートだった。


 つまり、ダンジョンの入口であった場所が、出口に変わっていた。そりゃあ一目でおかしいと分かる。


 俺は、ダンジョンのすぐ傍でテントを張っていた冒険者仲間に、挨拶をする、と見せかけ、事情を聞こうと試みる。

 初日に命を助けてくれたケビンさんや、そのパーティーメンバー達だ。


「エト、お前やっぱり休日ってこと忘れてたのか。食料も買ってない……よな。ほら、これやるよ、ハム。冒険者は体が資本だぞ」


 すると、ケビンさんからハムを貰った。

 ケビンさんはとても良い人である。


 しかし、情報収集には失敗したので、そこから一旦離れ、ヘルプを起動する。

 そして問うた結果、俺は、ダンジョンが休日は定休日であることを知ったのだ。


 なんでも、ダンジョンの魔物や、罠が復活するための、準備期間、であるらしい。


 魔物って、毎日復活するんじゃないの? とか、罠なんてあったの? とか、新たな疑問の答えは載っていなかったが、ヘルプは有用だ。


 ちなみに、ケビンさん達が、なぜ入れないダンジョン入口にたむろしていたかだが、そちらもヘルプがしっかり知っていた。


 白いゲートに変わっているダンジョン入口は、どうやら、ダンジョン内にいる魔物を放出、溢れさせると言うのだが、それをする。

 ダンジョンに入る人が少なかった場合に、時々起こるそうだ。


 異世界転移した初日に起こっていた、あの現象のことだろう。


 村付きなど、村から給料を貰っている冒険者は、そんな魔物を退治するのがお仕事。

 連続で起こることはほぼないが、ケビンさん達は、そのために、待機しているらしい。


 なるほどねえ。


「1日銀貨2枚稼いでたら、最低限の生活を送れる大作戦。2日目にして大失敗!」


 ヘルプを閉じ、俺は悲しい結論を出した。


「銅貨、32枚ならあるんですけど、これでなんとか泊めてもらえませんか?」

「申し訳ねえが、それじゃあ無理だ。1泊銀貨1。これで爺さんの代からやってるもんでな」


 そして村に戻り宿屋に入って、店主に交渉してみるも、あえなく撃沈。


 一応は粘った。

 俺が泊まらなくても、他に泊まる人はいないから、損はしない。

 泊まれば、一旦銅貨32枚は手に入るし、月曜日には残りも払う、と。なんなら多く払っても良い、そう言って。


 しかし、店主は頑なに首を振らなかった。

 田舎者の未開人ってのは、数字も数えられないから困る。


「物々交換は受け付けてるからな、食える魔物とか取ってきてくれりゃあ、泊めることくらいはしてやるよ」


 先週は、溢れた魔物相手に、命をかけて戦ってやったっていうのに、情のないやつだ。


 小さな村は人情に溢れてる、とかよく聞くが、間違いなく嘘だろう。

 なんなら村人は、結構冷たい。

 優しいのはむしろ、村の外から来た騎士達や、ケビンさん達含めた冒険者の方だ。


 だからダンジョンに潜りにくる冒険者も少なくて魔物が溢れるんだよ。馬鹿が!


「まあこの季節だから、金が少ねえなら、たまには外で寝るのも手だぜ? 死にはしねえし、牛小屋なら潜り込めるかもしれねえしな。爺さんに話は通しといてやるよ」


 俺は、そんな助言を受けながら、宿屋の扉をパタリと閉めた。


 そして、カルモー村を旅立つ。


 門の見張りの騎士さん達に、ペコリと頭を下げ、こんなところには2度と来ないと心に決めて。


 俺は異世界に来た当初、立っていた場所の周辺に立ち、空を眺めた。

 なんだか、とても清々しく見える。


 ちなみに、今俺がいる場所から目を凝らして周囲を見回してみても、周辺には村どころか人工物はない。

 一応、馬車か何かのわだちや、人の足跡がずっと続く道はある。

 そのため、町の方角は分かるが、しかし細かな道や、距離は不明。


 けれど、心配はいらない。

 俺にはヘルプがある。


 本日大活躍のヘルプとは、近隣住民の常識が分かる、というもの。

 つまり、カルモー村の住民の常識を知ることができる。近くの村や町までの道程は、たちどころに分かるだろう。

 さよならカルモー村。


 俺はヘルプを開き、1番近くの村や町をと、問うてみた。


 すると、周辺の地図が表示される。


 地図と呼ぶには、あまりに簡易的で、縮尺もぐちゃぐちゃ。だが、きっと村人が目印にしているだろうものが書き込まれている。

 おそらく、迷うことだけは決してない実用的な地図だ。


 俺は、ルートを辿って行った先の村を見つけ、所要時間を確かめ、いざ一歩を踏み出した。


「……え、早足で2日?」


 ……。


 どうやら異世界は、村と村が遠いようだ。


 なんなんだ、野宿が1回挟まる1番近い村って。

 フィールドにも魔物がいる世界で、よくそんな距離を保てるな。


 それも、出てくるフィールドの魔物は、ダンジョンよりも強く、HPを0にしなくても人を殺せる化物だ。


 ……。


 俺はヘルプを閉じる。


 そうして、カルモー村へと帰ってきた。

 またよろしくお願いします。


 馬鹿がって言ってすみませんでした。田舎者とか言ってすみませんでした。

 口には出していませんでしたが。


 そして宿に泊めて下さい。


 ……。


「金かー、世知辛いなあー」


 異世界生活8日目の午後は、どうやら金策にかけ回らなければいけないらしい。


「……いや、来てからずっとか」


 俺は、深い深いため息をついて、林の向こうにある、森に向かってみることにした。

お読み頂きありがとうございます。


ブックマークして下さりありがとうございます。

増えていく数字を見るのは、とても嬉しい気持ちになります。


楽しんで頂けているのであれば、幸いです。

今後とも、お付き合いいただけますよう、宜しくお願いします。

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