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7月2週 土曜日 その1

村35 町52

ダ40 討伐1 フ15

人1 犯1

魔100 中13 上1

剣100 剣中13 剣上1

回復86

治療83

採取100

草39 花9 実61

料理10

石工4

木工28

漁1

歌3

体55

女7

 漫画やアニメの主人公は、剣を使って戦うことが多い。

 そして、主人公なのだから、すべからく強い。剣1本で、槍や弓、さらには銃を使う者にすら勝ってしまう。


 しかし現実は違う。

 現実の強さは、射程が全てだ。


「槍、卑怯だろー。絶対勝てねえよ」

「ふふふ。参りましたか?」


 俺とアンネは、今日も訓練に精を出していた。

 ランニングが終わり、行っていたのは、お互いの武器に布を巻いて斬れないようにして、急所にもいれずスピードもそこそこ加減した模擬戦。


 しかし1時間ほどした結果、俺が勝ったのは一度だけ。

 もうボッコボコだ。


「射程の違いって恐ろしいな。全然、中に入れねえ」

「今は強く当てていないので、有利不利はそこまでないマシな方ですよ。実戦では、薙ぎ払いで骨の一本や二本折れますから。絶対に入れさせません」

「なんだろう、遠心力で威力上がってんのかなあ。というか槍の先端が速過ぎて怖い」

「長いということは、手元を少し動かしただけで大きく動くということですから。しかし、私はまだ未熟な方です、熟練した槍士の穂先は目で追えないほど速くなります。手元を見て予測するクセをつけなければ、受けることすらかないませんよ」


 アンネは言う。

 今回の訓練は、お互い全力を出していない。にも関わらず、槍はめちゃくちゃ速かったし、威力も強かった。

 剣で受けたときは、本当に剣が吹き飛びそうだったほど。俺の握力は、中学時代で確か60kg近くあったので、かなり強い方のはず。それを……。恐ろしい。


 おそらく、漫画やアニメの主人公が、剣で槍や弓に勝てるのは、一発食らっても死なないからだ。

 主人公補正とやらで、絶対に死なないから、懐に潜りこめる。


 けれども現実では、あっちもこっちも一撃で死ぬ。

 例え薙ぎ払いのように、斬る攻撃ではなかったとしても、腕や足、あばらが折れればたちまち戦闘不能になる。

 なら先に当たった方が強いのは道理だ。槍でこんななんだから、弓や銃は一体どんだけ強いんだか。


「というかその薙ぎ払いが強過ぎる。突きはなんとかなるんだよ、避けることもまあまあできるし。薙ぎ払いがなあ、あれは無理。なに、ジャンプして避けんの?」

「ジャンプしたら終わりですね。下がるか受け止めるしかないかと。一応お互いに防具を装備すると、威力はかなり軽減されますよ。武器の重さを利用する攻撃ですから、体重が武器よりも圧倒的に重いと、吹き飛ばすまではいきません」

「ああー、なるほど。防御力高めてお互い一発で死ななくしたら、ってことか。……いやでも有利にはならなさそうだな」


 なんで俺、剣使ってるんだろう。

 あ、神様が最初にくれたのが剣だったからか。……くそっ相変わらずあの神めが!

「いや、でもダンジョンだと剣の方が強いのか? 連続攻撃の回数は多いし、薙ぎ払いしても魔物は重いから効き辛いし、折れる可能性も高くなる。で、合ってる?」

 浮かんだ疑問と仮定を、アンネに確かめる。


「そうですね。ダンジョンなら剣の方が素早くダメージを与えられる、と、そんな見方もなきにしもあらず、といったところでしょうか」

 するとアンネはそう答えた。なんだか渋々だったが。

 アンネは槍大好きっ子だから、剣の方が優れていると認めるのは癪なんだろうか。最後に、「まあ、私は断然槍の方が強いと思いますが」と付け足していた。


「まー、じゃあ、俺は剣でこれからも行くかー。冒険者なんだし」

 俺は剣に巻いた布を取りながら言った。しかし、そう言ってから、昨日、アンネに冒険者に向いてないと言われたことを思いだした。

 ハラリと落ちた布を拾い上げ、その中で自然にアンネの顔を伺う。


「そうですか。エト様には槍も似合いそうな気もしますがねー」

 アンネは至って普通だった。普通に、槍に巻いた布を取っている。

 まるで、俺にそう言ったことを忘れているような……。え、忘れてんの?


「俺は……向いてそう? 剣」

 心配になった俺は、思わず聞いた。ただ、なんだか怖かったので、冒険者についてではなく、剣の扱いについて。

 向いているのなら、冒険者にも向いているだろう。剣が優れているのは、冒険者なのだし。


「向いていますよ、それはもう。使い初めて4ヶ月足らずだとは思えないほどです。こうやって合わせていても、どんどん上手くなっていっているのが分かります」アンネは少し興奮気味に言う。「上達の仕方を知っている、といった感じでしょうか。駆け引きがもう少し身について、あとは私だけでなく色々な者と戦い、戦い方自体を知れたなら、もっと強くなりますよ。必ず一角の剣士になれます」

 なんだか……忘れてるっぽいな。

 まあ、つまり俺は冒険者に向いてるってことなんだろう。


 俺は布をたたみ、脇に置いてあるリュックの中に戻した。丁度アンネも布を持ってきたので、ついでに入れようと、アンネに向けて布を渡せと手を出した。

 すると、アンネは俺の手に布を乗せながら言う。


「ただ、冒険者には、やはり向いていないと思いますが」


「……」

「どうしました? どうぞ?」

 意味が分からない。

 剣に向いていると言っているのに、剣を使う場所の筆頭であるダンジョンに向いていないとは、一体どういうことなのか。


 ……、まあ、良いや。

「風呂、入るかー」俺は布をリュックに入れながら言った。

「待っていました」

 それを聞いて、アンネは笑う。


 風呂好きなことが、誰から見ても分かるほどにアンネは上機嫌になる。俺が担ごうとしたリュックをひったくって担ぐと、我先にと宿屋への道を急いだ。

 出遅れた俺は後ろから小走りで追いつき、隣に並ぶ。

「ふう、あ、で、なんだっけ? 煙道? ちょっとそれもチャレンジしてみようよ」

「煙道? よくご存知ですね、ああ、私が言ったんでしたか。そうですね、してみましょう、それから風呂の下に敷く木板も。しかし、私は屋内の風呂しか知りませんので実際の仕組みはイマイチ存じ上げません」


 宿に荷物を置き、小雨の中、俺達は買い物に出かけた。

 丁度今日は土曜日なので、市が行われている。道路に出店されている露店だけでなく、日用品を扱う店舗も、どこも盛況だ。

 しかし、俺が今購入したい木の板やレンガなどを扱う店は、反対に閑古鳥が鳴いている。おかげでゆっくり選ぶことができた。


 が、異世界はやっぱり遅れている。

「釘が……ない?」

「釘が分かんねえよホント。網の目状に木を組むんだろ? そしたら、その組む部分を木の厚みの半分の半分くらい抉ってだな。そん時、横を斜めにしておくと動かなくなるから、次の組む部分で逆方向に斜めにして……」

「いや分かんない分かんないです。え、釘がないんですか?」


 一体異世界の人達は、どうやって家を建てているのだろうか。

 今まで普通に2階建て3階建ての建物に住んできたが、これから住むのが恐くなるじゃねーか。


「釘、あ、ダボのことか?」

「え、ダボ?」

「これだよこれ」

「いや、似てますけど、全然先が尖ってないので違いますね。しかも木ですしこれ。釘っていうのは鉄でできてて、尖ってて、ガンガン打てば木に穴開けながら入っていって止められるんです」


「はあー。知らねえなあ」

「ないっすかー。じゃあ俺じゃ作れないです」

「じゃあ、こっちが作るか? 今暇だしすぐできるぞ」

「お願いしまーす」


 というわけで、材木屋の店員にスノコ作りを依頼した。

 釘もボンドもなくて、スノコをどうやって作るのかと疑問だったが、そういえばこちらの世界の人にはスキルがあるのだ。


 ジョブによるスキル。


『ターナ

  ジョブ:木工師

  HP:100 MP:85

  ATK:122 DEF:5

  CO:--』


 木工師には、冶金師と似た様なジョブ。冶金師は、鉄を手で自由自在に加工できたが、木工師は木を手で自由自在に加工できる。

 木はまるで粘土のように形を変え、スノコを板の組み合わせではなく、1枚の板で作ってしまった。組み合わせるとは一体なんだったのか。というかいつ見てもこれ系のスキルは怖い!

「あとATK高!」

 100越えてる! 怖い!


 ともあれスノコは完成。

 その後は冶金師のところへ行き、煙道のための筒も作ってもらった。アイテムボックスに入れると怪しまれるので、俺はアンネと2人、それを持ったまま店を出て、人目につかないところで収納する。


 そして町を出た。


 昨日、サンダーレンさん達に、町の外で、あまり探検者が来ない場所はどこかと聞いておいた。自分達も一回くらいフィールドで戦ってみたいが、邪魔にならない場所はどこ? と聞いたら、簡単に教えてくれたのだ。俺達は2人、そこへ向かう。

 町を出てから西へ少し歩き、険しい斜面を登った先。

 確かに、人があまり来ていなさそうな雰囲気があった。草や枝がぼーぼーだ。


「虫が多いなあここ。嫌だなあ、魔物避け使っとくか。高いけど」

「助かります」


『マモノコナクナールヨルヨウ 銀貨30枚』

 今は夜じゃないから、昼用の方か。

『マモノコナクナールヒルヨウ 銀貨15枚』

 半額か。ちょっと安い。でも結局たっかいなあ。買いたくない……。


 確か夜用は5つ入りだったよなあ、多分同じ。なら、1つ銀貨3枚。使用期限が1ヶ月なのはありがたいが、4時間しか持たないんだろう? 割高だよなあ。

「やっぱり買うのはやめよう。気合で乗りきろうぜ!」

「ええー……」


 ということで、俺達は風呂を作る。

 煙が煙道に誘導されるよう石を組むのに、少し時間がかかってしまい、入る頃には、昼を大きく過ぎてしまっていた。


 アンネに「先に入る?」と聞いたのだが、「エト様からどうぞ」と言われたので、俺から入る。

「ふううー」

 良い湯だ。


 ただ、小雨であり、木の枝葉という天然の屋根があるものの、雨が気になる。ハッキリ言ってウザイ。

「できるかな?」俺は首を捻りながら、空に向かって手を伸ばす。「○○○○○アイテムボックス」

 目論見は成功。


 アイテムボックスは、対象に触れていなくても、ある程度は収納できる。手をかざしていれば、手の付近ぐらいはオーケーといった具合に。

 そうじゃないと、机に置かれた大量の金なんかを、一つ一つ入れなければならないことにもなるので、便利な機能だと思っていた。

 だから、それを利用すれば、こんなことができる。こうやって空に手を向けておけば、水を収納できるアイテムボックスの場合、体に当たる範囲程度の雨を、収納できるのだ。


「なんちゃって傘! あ、でもこれだとアイテムボックスの中に水が貯まるか。16リットル×……どんだけ空いてんだろ、2杯くらい? まあ、溢れることはねーな」

 しかし後で出すのも面倒だ。

 ……入れながら、常に出しっぱもできるのだろうか。


 掲げてる右手で、雨を収納しながら、下げた左手で、雨を排出する。そんなことが。

 ……今までやったことはない、が、できそうな気は少しする。

 両手で別々のアイテムボックスを使う、これ、もしもできたら、革命的なことになるんじゃないのか? 俺は思う。


 少しドキドキしながら、アイテムボックスの詠唱を行った。収納する方も排出する方も、詠唱は同じ。機能は使用者の意思1つで決まる。

 だから、その意思を、両方使うにすれば……。

「で、できた」

 右手で収納した雨が、左手からチョロチョロと出て行っている。


「見てくれ、見てくれアンネ! アイテムボックス傘だ!」俺は興奮気味でアンネを呼んで、今しがた命名したアイテムボックス傘を見せた。「ヤバイ、これ革命じゃねっ?」

 しかし、アンネは俺が何をしているのか見た途端、半笑いでため息をついた。

「何を子供のようなことをしているのですか」


 聞けば、片方の手から収納し、片方の手から出すというのは、アイテムボックスの詠唱を覚えたばかりの子供達にとって、マストな遊びらしい。

「右手を上にして出した物を落とし、それを左手でキャッチすると同時に収納し、また右手から出す。その永遠のループを楽しむというのは、誰しもが通った道ですね」

 全く革命じゃなかった。


「おおおスゲー」

 ただその遊びは、めちゃくちゃ楽しかった。

「大人がそれをそこまで楽しそうにやっている姿を、私は初めて見ましたよ。ふふふ」

「あははは」

 俺はまだ子供の心を忘れていないのかもしれない。

お読み頂きありがとうございます。

ブックマーク、評価、ありがとうございます。これからも頑張ります。


今日はもう1話投稿致します。

もう少し書いてからですので、30分後くらいだと思います。どうぞお暇でしたら、よろしくお願いします。

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