7月2週 金曜日
村35 町52
ダ40 討伐1 フ14
人1 犯1
魔100 中13 上1
剣100 剣中13 剣上1
回復85
治療79
採取100
草27 花8 実55
料理9
石工4
木工28
漁1
歌3
体55
女7
冒険者と探検者は、呼び名こそ違うものの、同じ職種である。
意味合い的には、業務の違いでしかない。
しかし、その業務に就く者の性質は、大きく違う。
営業と製造で、大きく違うように。
冒険者は、ダンジョンに入り、己の力のみで戦い稼ぐ。ドロップアイテムの中には一部、油など町に卸されるものもあるが、それ以外のほとんどは冒険者ギルドが騎士団が管理し、一般に出回らない。したがってやってもやらなくとも、町に影響は少なく、稼ぐ金額も、生き死にも全てが自分次第。他者どころか、天候すらその成果には関わらない。
そのせいか冒険者には、独りよがりで、自己中心的な考えの者が多い。
対照的に探検者は、自然の中で戦い稼ぐ。倒した魔物の肉や皮や骨、それから採取した植物まで、全てが町に卸され、やらなければ魔物が街道近くに巣を作ったりなど、町に悪影響を及ぼすことがあり、稼ぐ内容の中には、誰かからの依頼もあれば、護衛任務もある。したがってその仕事振りは、町の発展に大きく影響し、成否には、自分以外の要素、他者や天候などが関わってくることが多い。
そのせいか探検者には、他者をおもんばかることができたり、世のため人のためという使命感を持つ者が多い。
今度、俺達と一緒に護衛をするサンダーレンさん達は、町付き冒険者。
名称こそ冒険者であるが、ダンジョンのないこの町での仕事は、全て探検者としてのもの。その性根は、優しくおおらかで、思いやりがあった。
だからか、俺は時折、ケビンさん達のことを思いだした。
特に、なぜだかこんなどうでもいい会話で。
時刻は昼間。霧がかった中、俺達とサンダーレンさん達は切り株に座り、食事をとっていた。
円のように並んで座ったため、自然と会話が行われる。俺は、ダンジョンでの自身の失敗談を話し始めた。ゴキブリが気持ち悪くて、腰が引けた状態で戦っていた時のことや、油断して動けなくなり泣いていたこと。
気味の悪い魔物との戦いや、油断して死ぬような目にあったなどは、冒険者や探検者にとって、あるあるネタのようなもの。
俺の話は馬鹿受けで、それに触発され話し始めたサンダーレンさん達のあるあるもまた、馬鹿受けだった。
それに対し、俺はまた負けじと、色々な話をした。
「あっはっはっは」
皆が笑っているのを見て、俺も同様に腹を抱えて笑った。
ケビンさん達との冒険から、そろそろ3ヶ月が経つ。
長いような、短いような、早いような、遅いような。思いだしても、もう辛くはない。
あの時の、腹がねじ切れそうだった感覚や、焦燥感だけが加速し何もできなくなるような状態には陥らない。
しかし、悲しくはなる。
ケビンさん達にも、あんなことがなければ、こんな時間が続いていたのかと思うと。
そして同時に、申し訳なくなる。
俺がいなければ、絶対に続いていただろうから。
食事が終わり、俺達は再び狩りに出かけた。森の中を、魔物を探しながら歩いている。
とはいっても、昨日の時点で、目的としていたバックスボアは狩っているし、オマケの狼まで手に入れた。受けた任務も既に完了しており、今日は特に何もなくても問題ないらしい。
だから探すのも談笑しながらだった。
気楽なものだ。
探検者ってのも楽しいのかもしれない。俺はそう思った。
相変わらず、血は苦手みたいで、解体なんてできる気もしないが、そういう道もありそうだ。
冒険者か、探検者、どちらをしようか。俺は談笑しながら未来に思いを馳せた。
そうやって考えていたからか、次の質問の意図が、俺にはすぐに分からなかった。
「エトは面白いなあ。でも、じゃあなんでエトはまだ冒険者を続けてるんだ?」
「え?」
「いやなに、ただの興味なんだけどな」
「ああいえ、気を悪くしたわけじゃないですけど。でも、なんでって言うのは?」
「そういう危ない目にあったやつってのは、大体冒険者でも探検者でも辞めるんでな。特に、器用な奴ほど」
山の斜面を登りながら、サンダーレンさんは言う。
「エトは見た感じ器用だし、体力もある。自分を卑下して笑いをとってるが、実は頭も良いだろ? ならなんでもできるんじゃないか? 冒険者を続けるのには、何か大きな理由でもあるんじゃないかと思ってな」
「大きな理由……? いえ、冒険者をやってるのは、なりゆきがほとんどなんで」
「聞いたよ聞いたよ。たまたま行った村が100人もいなくて、仕事がなかったって。ははは、そんなとこ行くなよ。でも、その後だよ。いつでも辞める機会はあっただろ?」
辞める機会。
確かにたくさんあったように思う。やめようと思ったことも、おそらくはある。いや、何度もある。
だが、やめなかった。それは……。
「冒険者ってのは、辛い仕事だよ。命の危険を感じる時は特に。その分、収入はいつかからグーンと上がるし達成感もあるんだけど、やっぱり他のことができるんなら、他の仕事にかえてる奴が多い。続けてるのは、逃げ道が無い奴等ばかりさ。これしかできない不器用な、俺みたいなやつだよ」
「サンダーレンさんは別に不器用じゃないですよ」
「はは、ありがとう。でも自分で分かってるんだ。それで、なんか理由があるのか?」
「……冒険者には……、それしか仕事がなかったからそれになって……、それで……」
俺が続けている理由は、一体なんだったか。
「ああ、ほら、冒険者って実力勝負じゃないですか。農家とかだと、どうしても天候によって安定しないので」俺は、そうだ、と手を打って思い出し、サンダーレンさんに言う。「冒険者はやる気さえあればそんなの関係ないですし、頼れる人がいない中でなら、一番良いなあと思いまして」
確かそう考えていたはずだ。忘れていた。
冒険者をやる、なんて俺にとって当たり前のこと過ぎたから、いつの間にか忘れてしまっていた。
「そうかそうか。確かに飢饉の時には昔馴染み以外を助けるって中々ないからなあ。なるほど。それにしても実力勝負か……、若いな! エトならいけるんじゃないか? けどそれならあれか、探検者になるつもりはないのか。性格的にも向いていると思ったんだが」
「ああ、そうですね。その条件だと探検者が……。今回は楽しかったので、なってみたかったんですけどね、どうやら冒険者向きみたいです」
俺が、「残念」と言って肩を落とすと、サンダーレンさんは笑った。
その日は結局、魔物は1匹も見つけられなかった。
正確に言えば、狩る価値のある魔物が1匹も見つけられなかった、だが。魔物自体は、どこにでもいる。虫とか、鳥とか。
俺達は町に戻ると、即座に打ち上げと称し、居酒屋に駆け込む。
一昨日も同じように一緒のテーブルを囲んで食事をしたが、その時より随分仲良くなったと思う。3人は酒をガブガブ飲み、とても楽しそうな様子だった。
俺も、そんな風に楽しみたい。
「あ、エト様には1滴も飲ませないで下さい」
けど、俺はそんなことできない。
「驚くほどすぐに吐きますので」
驚くほど、すぐに吐くから。だがアンネ、もう少しやんわり伝えるという選択肢もあるんじゃねえか? 弱いでいいじゃん……。
「じゃあ、明後日な。よろしくなー」
「楽しみにしてるぜー」
「おやすみー。2人仲よくね」
その後俺達5人は、松明が燃える夜道で別れた。
「はい、ごちそうさまでした。おやすみなさい」
「おやすみなさい」
道の脇に並ぶ店が、まだやっていることを証明するため設ける入口の松明。それらが夜道を点々と照らす。
その炎の道は、見たこともないような、幻想的な風景で、まるでドラマの別れのように思えた。普通に明後日会うなんて……なんかムードが……。
とはいえそんなことにケチをつけても仕方ないので、俺達も宿へ足を進めた。
「じゃあ、帰ろうかアンネ。明日は風呂に入ろう」
「おお、良いですね。ありがとうございます、楽しみです」
帰り道の話題は、サンダーレンさん達のこと。
「良い人達そうだったな」
「そうですね。エト様は誰とでもすぐ仲良くなりますが。連携も上手くいきそうでしたね。私以外は」
「まあ、アンネは天才だからなあ。難しいよ」
「ありがとうございます。エト様は、良い戦いっぷりでした。相変わらずな部分もありましたが」
相変わらずか……。
手が震えてたのも見られたから、それも仕方ないか。
「カッコ悪かった?」
「カッコ良くはありませんでしたね」
「どうにも、血は苦手でねえ。血が苦手って奴、珍しい?」
「男の人の中には血が苦手な人も多いですよ。見るとくらくらするとか、貧血気味になるとか」
「男の? 女の人の方が苦手っぽいイメージあるけど」
「女は、小さい頃は苦手でも、なんだかんだ見慣れますからね。自分の血で」
「……、ああ……、あー、そう」
アンネが言わんとしていることを察し、俺はそう言葉を濁しながら返答した。コメントし辛いことを言うなよ……。
しかしなんにせよ、なんでも頼れる男にはなれなかったようだ。
頑張った感は伝わったかもしれないが、魅力的になってアンネに、家を買ってからも嫁としてしばらくいたら? と思いを伝えてみる作戦は、もう少し後のことになりそうだ、俺は思った。
しばしの静寂が訪れる。
代わりに、近くの居酒屋からわーっと大きな声が聞こえた。2人してそちらを見て、また前を向いて歩く。
なにか話さないと気まずいな、そう思いかけた時、アンネが口を開いた。
「ただ、エト様のそれは、通常とは少し違いますが」
「ん?」
「エト様が、冒険者をやる理由がそれならば、冒険者はいつでも辞められますよ」
発せられた言葉は、予想していない言葉だった。
「事務作業に就けば良いのです。仕事に天候は関係ありませんから」
「そんな仕事、どこでするんだよ」
「キュレトンには求人が多数ありましたよ。この町にもいくつかはあるでしょう。もっと大きい町に行けば、さらにあるでしょう。エト様は計算もできますし、字も書けます。大商家の帳簿係すら務まりますよ」
その言葉は、まるで、俺に冒険者以外の職に就いて貰いたいと言っているように聞こえた。
いや、事実そうなのだろう。
「私は、エト様は探検者にも、冒険者にも向いていないと思います」
アンネはそう言い切った。
頑張れって言ったのは、アンネじゃないか。
そう言おうとしたのに、あまりにも唐突だったせいか、その言葉が出なかった。訳が分からない。天才ってのは訳が分からない。
なんでそんなことを言うんだ? と俺は頭を悩ませた。
「つきましたね、宿屋。ふわああ、もう眠いです」アンネはそんな俺に一切構わない。「先に用をたしてきますので、先に部屋に戻っていて下さい、では」
そして、小便すると恥ずかしげもなく俺に伝え、入口に入らず建物の脇を通って、さっさと裏へ入っていった。
俺は1人部屋に戻ると、すぐに布団に横になった。
歯磨きやらなんやらをした方が良いのだろうが、なんだかそんな気分になれなかった。裏切られた気分だ。一体アンネは何を思ってああ言ったのだろうか。全く分からない。
分からないから、俺は、聞きたくなくて、そのまま眠りについた。
お読み頂きありがとうございます。
また、ブックマークなどありがとうございます。
少し鬱屈した展開になりましたが、すぐに終わりますので、どうかお付き合いいただけると嬉しいです。