7月2週 水曜日
村35 町51
ダ40 討伐1 フ13
人1 犯1
魔100 中13 上1
剣100 剣中13 剣上1
回復78
治療76
採取100
草26 花5 実49
料理8
石工4
木工26
漁1
歌3
体55
女7
どれだけ気が合おうとも。
どれだけ長く一緒にいようとも。
どれだけ久しぶりに会ったとしても。
人間と人間の間には、諍いが起きる。
「うおおお食らえー!」
「くっ!」
俺はアンネに対し、剣を振るう。1度だけではない、2度、3度。
それをアンネは、持っている槍で受ける。そして今度は俺に向かって槍を振るう。
「ととと」
「せあああー!」
「くっ!」
剣と槍がぶつかり合う。ただし、お互いが放つ速度は、そう早くない。
そして、当たっても怪我をしないよう、お互いの武器には、布が巻かれている。
これは仲が悪くなって争っているのではなく、戦いの訓練。
俺達は互いにダメージを与えないよう、動きを確かめあうように戦っていた。
なぜこんなことになったのか。簡単だ。移動がない日は、ハッキリ言って暇なのだ。
冒険者ギルドに登録していれば、なにか報酬のでるような仕事もあるのだが、俺達は登録していないので、それらに就くことができない。
町の規模が大きいため、日雇いの仕事もあるにはあるが、それらに参加するのはならず者ばかりで、俺が行くと変な感じになるらしい。おそらく、「こんなところに坊ちゃんが来たぜ、へっへっへ、娑婆の恐ろしさを教えてやろう」となるのだろう。
ダンジョンで鍛えた俺の方が、もしかしたら強いかもしれないが、流石に怖い。お尻の穴が不安になる。
ゆえに暇。この町にはダンジョンもないし。
なので、冒険者ギルドに寄って伝言を確認し、待ち合わせが夜ということを知った俺達は、ランニングをしたり、こうやって手合わせをしたりすることにしたのだ。
「ふう、はあ、ふう、疲れた」
「動きましたね」
何十分もぶっつづけで打ち合いを続けた俺達は、2人して地面に座りこみ、お互いに持ってきた水をガブガブ飲んだ。
俺は両足を放り出し、股間に風を通すような座り方。
アンネは、いつもと同じ、正座を崩してお尻もペタンとつけるような座り方。
「どうだった?」俺はアンネに聞く。
剣での打ち合いについて。
天才であるため、そのアドバイスにはたまに理解を越えたものも入ってくるが、武家の娘と自称するだけあって、戦い自体に対しての造詣が深い。アドバイスは結構参考になる。
「もう少し素振りをした方が良いかと。疲れてくると剣筋がブレブレで、軽いですよ」
「ホントに? まあそりゃそうか。剣振り始めてまだ2、3ヶ月だもんな。何年も1日何百って振り続けた野球だって、スイングもフォームもすぐぶれるんだから。了解了解」
7月も2週目に入り、気温は俺の予想だが20℃ちょっと。
動かないなら長袖だが、動くのなら半袖にならないと暑い季節になった。動けば動くほど汗が出る。
それからも訓練を続けた結果、終了する頃には汗まみれで汗だくで、着ている服を絞れば汗が搾れるくらいだった。
「明日予定がなかったら、風呂に入ろっか」
「良いですね!」
そういうと、アンネはご機嫌になった。
まあ、それは叶わなくなってしまったが。
夜、と言っても、まだ陽が沈んでいない時間。行商人の護衛達と、俺達は冒険者ギルドで待ち合わせた。お互いに特徴は伝えてあったので、すぐに会うことができた。
3人の冒険者。男2人で女1人。男の内1人は、俺よりも背が高い。190cmくらいある。異世界でここまで高身長は珍しい。珍しすぎて、巨人族みたいな種族があるのかと思った。
俺達はそのまま飯を食べに行き、休日に出発する行商人の護衛について話し合った。
その結果、明日、お互いの力量を確認するため、一緒に探検をしに行くことになったのだ。
「エト君、バックスボアって戦ったことあるか?」
「いや、ないですね。アンネは? お、あるんだ。マジか。そいつ、強いんですか?」
森で一泊するため、帰りは金曜日。
風呂には入れなさそうだ。
アンネは落ち込んでいた。
しかし、宿に戻って、探検用にアイテムボックスの中を整理していると、アンネは途端に元気になった。
「本当に……美しいですね……」
恍惚とした表情とは、まさに今のアンネの顔のことを言うのだろう。
アンネは、床に置かれた課金アイテムの入れ物、透明なガラス瓶を見て、そう言った。決して触らず、地面に置かれたそれと、同じ高さに目線がくるように顔を床に押し付けながら。
普段、課金アイテムを使った後の入れ物、いわゆるゴミは、アイテムボックスの中に入れっぱなしにしている。
スプレー缶などは、用途こそ分からずとも、この世には無いへんてこりんなものであることは見ただけで分かってしまうため、迂闊に捨てることができないからだ。
燃やせる物、例えば湿布の透明なフィルムだとか湿布自体は、燃やしてしまえばなんとかなるし、燃やせない物も、たまに行商人の目を盗んで馬車から投げ捨てたりもするのだが、それを繰り返すのも怖い。
そのため、現在はそれらのゴミが、俺のアイテムボックスの中身を圧迫する量になってしまったのだ。
アイテムボックスに何かを入れなければならない時、今回のように、HPを回復するためのアイテムや、解毒なんかのアイテムを入れなければならない時は、そちらを入れるために抜かなければならない。
だから、こんな風に、取り出して床にどんどんと置いていっているのだが……。
「そ、そんなか?」俺は思わずそう聞いた。
すると、コクコクコクと何度もアンネは頷く。……そんなか。
「あげるよ、全然。好きなだけ持ってって」
「よろしいのですかっ? エ、エト様は絶対これの価値が分かっておりませんね、これの価値は――、いえ、なんでもありません。頂いておきます」
価値を説明したら、俺が渡さないと思って説明をやめたんだろうか。
意外と腹黒いことをしてくるな。アンネもやっぱり女だ。
しかし、もしかすると、あの瓶は高く売れるんだろうか。課金アイテム自体は、売ると効果がなくなるため売れないが、入れ物には効果なんてないから売ることができる。お金になれば……。
……いや、出所を聞かれると困るな。もっとよこせとヤバイ奴が来るかもしれないし。交易ルートをよこせと拷問されることもあるかもしれない。疑り過ぎかもしれないが、命は一個しかないのだ。
結局は死蔵が安定か。
「でもやっぱり、なんとかしたいなあ。今はまだギリギリなんとかなってるけど、そう遠くない内に溢れるし、今回みたいに空けなきゃいけないときは完全に溢れてるし。部屋に残すのも不安だよなあ、貸家じゃないから掃除とかで入ってくるし。どうしよう……。うーん、○○○○○アイテムボックス、スプレー缶もいる?」
「そちらはいりません」
スプレー缶は断られた。
俺は半分だけアイテムボックスから出したスプレー缶を、出した時と同じ、ゆっくりとした速度で、中へ戻した。
「あ、そうだ。アンネに持っててもらえば良いのか」
「リュックに入れて持ち運べということですか?」
「違う違う。金貨1枚で、ヒューマン用のアイテムボックスが使えるようになるってのがあるんだよ。そうしたら、アンネ幾つだっけ?」
「年齢か? 17です。今年18歳に……、いや、ヒューマンの年数の数え方だと……、3年後、2年後か? よく分からん。ともかく17歳です」
なら17種×17個入る。これは大きい。
「ドラゴニュートのアイテムボックスって、元々はなにが入るんだっけ」
「宝石類ですね。ですから、ドラゴニュートのアイテムボックスは全ての種族の中で、最も使い道がないと言われております。私もそう思いますね、宝石などは滅多にありませんし、そもそもが小さいですから入れる必要もありません。盗まれることがないからと金庫番にしようにも、そのドラゴニュートに盗まれれば元も子もありませんので、そういった起用もないようですし」
なんか自虐が恐いなあ。
まあ、なら、使う時が来ないってことだから、使える分を全部使っても構わないってことだ。
急場凌ぎにしかならないが、意味はある。
「なら、これどうぞ」
俺はヒューマンのアイテムボックスが使えるようになる課金アイテム、大きなみぞれ飴を渡した。
「美味しいよ」
「そう言って以前、酔い止めのハナミズ味のを食べさせられましたからね。信じません。が、頂きます」
アンネは飴を一口で食べ、ゴリっと噛み砕く。
「あ、甘いですね。……美味しいです。むふふー」
そして、幸せそうな顔をした。
その後、アイテムボックスの詠唱を半分忘れかけていたアンネに、空き瓶やスプレー缶をしまってもらい、俺のアイテムボックスには大分余裕ができた。
心配事が1つ減って良かった。……ただ、問題が先送りになっただけなので、何かを考えておかなければならないことに変わりはない。どうしようかなあ。
とはいえ、直近の心配事が、部屋に置いていって掃除する奴隷に見つかることから、明日の探検のことに切り替わったのは確かだ。
「猪かー。でかいよなあ。突進とか当たったら危なそう」
俺は早速そのことへ思考をやった。
「やっぱり、フィールドで戦ってのは、怖いよなあ。怪我するし。心配だ……」
「まあそうですが、しかしエト様が心配なさるべきところは別にあると思いますよ」
「え、なに?」
「そういった魔物は、倒したらその場で解体することが多いです」
「……」
どうやら、俺は怪我よりも心配しなければならないことがあるようだった。
「なるほどね……。血かー」
「奴隷ですし、私が代わりにやることに、彼等は疑問を持たないとは思いますが……。早く兎を解体できるようになると良いですね」
「……」
「ふふふ」
「うるせー」
お読み頂きありがとうございます。
頑張ります。
明日更新できるように。
多分、できません。明後日はできるように頑張ります。